1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

日本で「パリ五輪」がいまいち盛り上がらなかったワケ。フランスを含む、他国の注目度はどうだった?

オールアバウト / 2024年8月9日 21時45分

日本で「パリ五輪」がいまいち盛り上がらなかったワケ。フランスを含む、他国の注目度はどうだった?

7月26日から8月11日まで開催される、パリ五輪。自国開催だった東京五輪を経て、日本代表選手の活躍に注目が集まる昨今だが、一部では「今回の五輪、あまり盛り上がっていないのでは?」といった声も。(サムネイル画像出典:Franck Legros / Shutterstock.com)

7月26日から8月11日の日程で、フランスの首都パリで行われているパリ五輪。五輪というと、平和の祭典などと呼ばれて世界中のスポーツファンだけなく幅広い層から注目されてきたイベントだ。

ところが今回、日本では「パリ五輪があまり盛り上がっていないのでは?」という声をよく耳にする。また、ネット上などでもそうした意見が見受けられる。事実、過去の五輪と比べるとそれほどお祭り騒ぎにはなっていないのだ。

なぜ盛り上がっていないのか。今回は、その理由を探ってみたい。

パリ五輪で競技に入っていない「野球」「ソフトボール」

まず日本で盛り上がっていない理由の1つは、日本では人気の競技種目がない、というのがある。例えば、前回の東京五輪では、人気スポーツの野球で“侍ジャパン”が、さらにソフトボール女子日本代表が金メダルを獲得し、大いに盛り上がった。だが、パリ五輪ではどちらも競技に入っていない。

日本で人気が高く、日本が得意とする競技で、多くの顔なじみの選手たちが4年1度という五輪の舞台で活躍するとなれば、盛り上がらないわけがない。ちなみに視聴率が低迷していると言われる昨今だが、東京五輪の野球日本代表の試合では、決勝戦の世帯視聴率が37%(関東地区)を記録している。

「審判の不可解なジャッジ」である意味盛り上がってしまった

さらにパリ五輪が盛り上がりに欠けたと言われる理由は、日本代表が好成績を残せていないことも事実としてある。選手たちが準備を重ねてきて、大会でも健闘しているのは分かっている。ただ「メダル獲得」という視点で見れば、8月9日時点での世界ランキングは6位で、前回の東京五輪時と比較して低いランクになっているのは事実である。

東京五輪開催時の民放テレビの視聴率ランキングを見てみると、当時、大いに盛り上がった競技は、野球、ソフトボール、サッカー、マラソン、卓球、柔道。これらの競技が上位を占めているが、今回のパリ五輪では野球とソフトボールは競技がなく、サッカー日本代表は男子も女子も、準々決勝でメダルに届かず敗退した。ベスト8に入っただけでも本来はすごいことなのだが、成績としてはメダル獲得から遠かったこともあって、日本で大きな盛り上がりなるまでには至らなかった。

バスケットボール男子日本代表も最近どんどん人気が高まっていることで注目されていたが、スタープレーヤーの八村塁選手が、けがでチームを離脱するなどし、3戦全敗でパリ五輪を終えている。

柔道も、国技ということもあっていつもながら注目度は高く、選手も検討したと思うが、今回はあまり盛り上がっていない印象だった。SNSなどでは、やはり国技として「プライドが許さない」と感じた視聴者たちが、審判による不可解なジャッジがあったとしてある意味では盛り上がっていたが、それは大会の盛り上がりとはまた別の次元の話だと言えよう。

卓球も、世界的な日本人選手の健闘は言うまでもないが、あまり結果にはつながっていない。金メダルをかけてライバル国との接戦が続く、というような手に汗握るような展開には残念ながらなっていない。

「視聴率の多様化」で失われた五輪の醍醐味

つまり、人気スポーツがあまり盛り上がらなかった。ただこうした状況に加えて、筆者が、今回のパリ五輪が盛り上がっていないように感じるのには、五輪というスポーツ大会の「消費の仕方」が変わったからだ、と見ている。

今回のパリ五輪は、多くの若者を視聴者として取り込むために史上最もデジタル化した五輪という触れ込みだったが、そうしたデジタル化の波は日本にも来ていた。

これまでの五輪なら、地上波やBSでしか視聴できなかったので、テレビから流れてくるルールもよく分からない競技が次々と放送され、普段触れることがないスポーツを五輪だからこそ楽しめるという醍醐味(だいごみ)があった。そういう雰囲気が「祭典」という空気を作っていたのだが、今回は、「TVer」「NHKプラス」など、オンライン上でストリーミング視聴することができた。それによって、見たい競技だけをピンポイントで見る傾向が強まっており、テレビから勝手に流れてくる五輪競技を見る人の絶対数が減ったと考えられる。視聴の多様化によって、五輪は盛り上がりに欠けている印象が出てくる。

さらに、今では、選手たちが試合までの準備や、試合後の様子などを、メディアインタビューだけでなく、SNSなどで配信できるようになっている。X(旧Twitter)やInstagramのアカウントを見ると、選手が情報をアップデートしていて、そこからスマートフォンやパソコンを使ってオンラインで五輪の視聴する形につながっているのだ。個人が好きな時に見ることができるようになっため、結果として大勢で盛り上がるケースが減っている。

アメリカでは、視聴率対策が功を奏した

では、他の国ではどうか。アメリカでは、パリ五輪の放映権を持つNBC(ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー)が、国内で視聴者を取り込むため、人気ラッパーのスヌープ・ドッグをアンバサダーとして起用。カジュアルでエンターテインメント性の強い五輪のイメージを打ち出し、公式Webサイトなどで大会の動画を配信している。そうしたこともあってか、アメリカでは視聴率が東京五輪と比べて平均で79%アップしているという。ネットと合わせると視聴者数はさらに多いだろう。メダル獲得数も増え、スター選手がいろいろな競技で活躍するアメリカではパリ五輪が意外と盛り上がっている。

フランスでも、地元の人すら意外に感じるほどの盛り上がりを見せている。実は、パリ五輪はコロナ禍が明けてから初めての大会ということで、広告スポンサーなどは盛り上がっていた。フランス国内で80社ほどのスポンサー企業が五輪のために集まり、収益目標の13億ドルほどを達成すると見込まれている。

パリ五輪がフランスで盛り上がっているのは、競技で善戦していることが大きい。8月5日時点ですでに獲得メダル数が前回の東京五輪の2倍になっている。もともとパリのレストラン経営者やビジネスパーソンらは、五輪で迷惑を被るとして苦情を上げていたが、それらもいつの間にか消えてしまっているようだ。閉会式にはトム・クルーズや有名歌手などが登場する予定で、盛り上がりは閉会式までそれなりに続くと見られている。

セーヌ川汚染、政治デモ……しかし、開催後には大盛り上がり?

実は、フランスでは、大会の開始前からあまり期待値は高くなかった。大会開始の4カ月前に行われた調査では、フランス市民で五輪を楽しみにしていると答えたのは、回答者のうち3分の1(37%)だけだった。別の統計でも、スポーツ報道に興味があるメディア関係者の中で、世界的なスポーツイベントであるパリ五輪を楽しみにしていると答えたのは55%ほどに過ぎなかった。

その理由に挙げられていたのは、市民生活への影響だ。パリ周辺やフランス各地での交通制限などが話題になっていた。また大会前からオーストラリア人女性が集団性的暴行を受けたり、五輪のチームが街中や練習場などで強盗に遭ったりするなどの事件も発生していた。さらに治安について言えば、大会前に選挙があったことで、フランス各地で移民問題など政治的なデモなどが頻発していたこともある。

加えて、開会式の舞台で、トライアスロンの会場にもなったセーヌ川の水質汚染が問題視されたりもした。そんなところで競技ができるのか、と。

テロの問題も懸念材料になっていた。3月にロシアの首都モスクワ近郊のコンサートホールで280人以上の死傷者を出した大規模テロが発生し、イスラム過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出していた。フランスでもイスラム系の移民にからんだ激しいデモや小競り合いなどが起きていたことで、そうしたテロに対する脅威が心配されていたのである。

そうした空気が広がっていたこともあり、フランス国内でも盛り上がらないであろうと思われていたパリ五輪だが、ふたを開けてみれば、市民はかなり楽しんでいるらしい。結局、開催国で自国の選手が活躍してメダルを数多く(第二次大戦以降で最多を記録している)獲得する姿を見ていたら盛り上がるのかもしれない。

開会式の“炎上“も、フランス的には大成功だった?

開会式では、トランスジェンダーや女装家などが登場したことで、その設定が「最後の晩餐」を揶揄(やゆ)しているとして大きな物議を醸した。キリスト教を冒涜(ぼうとく)しているといった批判も出て、組織委員会は謝罪をした。だが結果的に、世界的に大きく注目される結果にもなった。ジェンダーの問題や宗教に絡んだ議論で大会が世界的に話題になった時点で、風刺画などの文化があるフランスにしてみれば、実は“大成功だった”と見ているのではないだろうか。結果的に、フランスにしてみれば満足の行く大会だった、ということになるはずだ。

日本ではあまり盛り上がっていないと言われるパリ五輪だが、次回2028年のアメリカのロサンゼルス五輪では、野球もソフトボールも競技に復活することになっている。今回よりも、盛り上がる要素は多くなりそうだ。

この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください