1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

花王「めぐりズム」のデザインを巡ってアイリスオーヤマを提訴…争点の「意匠権」とは【弁理士が解説】

オールアバウト / 2024年8月14日 20時50分

花王「めぐりズム」のデザインを巡ってアイリスオーヤマを提訴…争点の「意匠権」とは【弁理士が解説】

花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」のデザインに類似しているなどとして、花王がアイリスオーヤマにアイマスクの販売差し止めを求めて提訴しました。この問題の争点、私たちの生活に与える影響などを含めて、分かりやすく解説します。※サムネイル画像出典:My Kao Mall

花王が販売する「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」は、目に心地よい蒸気を与えるアイマスク商品として、2007年に販売が開始されました。以降、長年販売されている「めぐりズム」シリーズの商品は、一度は使ったことのある人も多いのではないでしょうか。

そんな「めぐりズム」のデザインを巡って、先日、花王がある申し立てを行ったとして注目を集めました。

花王のめぐりズムとアイリスオーヤマのアイマスクが……

花王は、生活用品メーカーの「アイリスオーヤマ」が販売している「モイスクル じんわりホットアイマスク」シリーズのデザインが、花王の商品「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」のデザインに類似しているなどとして、2024年7月2日付で、アイリスオーヤマの対象商品の販売などの差し止めを東京地方裁判所に求めました(仮処分の申し立て)。

花王が販売などの差し止めを求めた商品は、アイリスオーヤマが販売している以下の4商品です。
・モイスクル じんわりホットアイマスク 5枚入 無香料
・モイスクル じんわりホットアイマスク 10枚入 無香料
・モイスクル じんわりホットアイマスク 5枚入 ラベンダー
・モイスクル じんわりホットアイマスク 10枚入 ラベンダー
アイリスオーヤマ「モイスクル じんわりホットアイマスク 5枚入 無香料」 ※画像出典:アイリスオーヤマ公式サイト
アイリスオーヤマの4商品は、Amazonでの取り扱い開始日を見ると、「2024年3月12日」となっており、比較的最近に販売を開始した商品であるように見受けられます。販売開始からわずか数カ月程度で裁判所に販売差し止めを求めた今回の花王の動きは、相当速いといえそうです。花王が常日頃から他社の商品動向を詳しくチェックしているのではと考えられます。

なお、アイリスオーヤマが販売する4つのアイマスクが、花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」のデザインと似ていることでどのような法的問題があるかというと、「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」について花王が保有する「意匠権」を侵害しているかどうかという問題です。

意匠権とは、「新しく、かつ創作することが容易ではないデザイン」を創作した場合に、特許庁に出願し、特許庁による審査を経て意匠登録されることで与えられる独占権のこと。著作権とは異なり、登録されることによって初めて与えられる権利です。

意匠権は商品などのデザインに関する独占的な権利なので、他社の同種の商品などに、同じデザイン、または類似するデザインのものがあれば、その販売などを差し止めることができます。

例えば、私たち一個人が、花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」のデザインを真似て商品を作って販売した場合も、花王の意匠権を侵害していることとなり花王から訴えられる可能性があります。

もしも意匠権を侵害していると認められた場合は、問題となっている商品の販売停止や商品回収のみならず、損害賠償請求を受けることや、刑事罰(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)を受ける可能性も。

今回、花王は意匠権に基づきアイリスオーヤマのアイマスクの販売差し止めを求めたわけですが、意匠権は、見た目に関する権利ですので、実際に問題となっているそれぞれのデザインを見比べてみたいと思います。

2つのアイマスクを見比べると

・花王「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」
花王登録意匠:第1330629号 ※画像出典:特許情報プラットフォーム
・アイリスオーヤマ「モイスクル じんわりホットアイマスク」
アイリスオーヤマ「モイスクル じんわりホットアイマスク 無香料」 ※画像出典:アイリスオーヤマ公式サイト
2つの商品を見比べてみていかがでしょうか。

ぱっと見ると「似ている」という印象を抱くのではないでしょうか。

しかし、アイリスオーヤマの「モイスクル じんわりホットアイマスク」が、花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」に関する意匠権を侵害していると言えるほどに類似しているかというと、実際のところ法的には判断が難しいところです。

なぜなら、それぞれの形状を見比べてみると、アイマスク部分でとりわけ相違点が見受けられるからです。

花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」に関する意匠(デザイン)は、アイマスク部分が丸みを帯びている印象ですが、アイリスオーヤマのアイマスク部分は丸みが抑えられており、アイマスク部分の上下がやや直線状になっているような印象を受けます。

意匠の類似判断は、要部(意匠を見る者の注意を強く引く部分)を比較して判断されることがあります。要部が「アイマスク部分」であると裁判所が判断した場合、両者は非類似と判断される可能性もあるのではと考えられます。

そのため、花王の主張を東京地方裁判所が認めるか否かは、不透明な部分もあります。

今後の展開は

花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」に関する意匠は、2007年5月31日に特許庁に出願された後、2008年4月18日に登録されているため、登録日から20年後の2028年4月18日まで権利期間が続くことになります。

アイリスオーヤマが上記のアイマスクを販売開始したのは比較的最近ですが、アイリスオーヤマにも知的財産部があるので、花王の意匠の存在を把握した上で商品デザインを決めていた可能性は考えられます。

ゆえに、先述したアイマスク部分の見た目の相違点を主張するなど、今後アイリスオーヤマからの反論も考えられるところです(執筆時点では「訴状が届き次第、内容を確認し会社としての対応を検討いたします」とのコメントがあるのみ)。

今回花王が行った販売など差し止めの申し立てにより、ドラッグストアなど販売店が、問題となっているアイリスオーヤマのアイマスクの仕入れを控える、などといった動きが生じる可能性があります。

このような意匠権を巡る問題により、ある日突然、私たちが買っていた商品が店頭から姿を消すということもあります。意匠権は、実は私たちの生活に身近な権利のひとつでもあるのです。

<参考>
・花王「アイマスクに関する、アイリスオーヤマへの意匠権侵害差止仮処分命令の申立てについて」
・NHK「花王 アイリスオーヤマのアイマスク販売差し止めを申し立て」2024年7月9日

藤枝 秀幸プロフィール

大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。
(文:藤枝 秀幸(弁理士・行政書士))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください