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長崎市の「イスラエル不招待」が、日本への悪評につながってしまった理由。今後の日米関係はどうなる?

オールアバウト / 2024年8月23日 20時35分

長崎市の「イスラエル不招待」が、日本への悪評につながってしまった理由。今後の日米関係はどうなる?

2024年8月9日、長崎県長崎市で行われた平和祈念式典で、長崎市がイスラエル駐日大使を招待しなかったことが世界中で深刻なニュースとして報じられている。今回の長崎市の決断は、どのように評価されているのか。

2024年8月9日、長崎県長崎市で平和祈念式典が行われた。原子爆弾が長崎市に投下されてから79年になる。

イスラエルを招待しなかったのは、本当に“政治的な理由ではない”のか

今回の式典では異例の事態が起きた。長崎市の鈴木史朗市長が7月31日、平和の式典に例年と違い「イスラエルを招待しないこと」を明らかにしたからだ。2023年10月に発生したイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模テロ攻撃で多くの死傷者が出たことを受け、イスラエルはハマスを殲滅(せんめつ)すると宣言。ハマスが実効支配しているパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続け、ハマスが人質として誘拐したイスラエル人などの救出作戦にも当たっている。

鈴木市長がイスラエル大使館に招待状を送らなかったのは、その報復攻撃を批判する意図があったのではないかとの声も上がった。記者会見で鈴木市長は、イスラエル大使に招待状を出さなかったのは“政治的な理由ではない”とし、「平穏かつ厳粛な雰囲気の下で式典を円滑に実施したい」という思いで決定したと述べている。つまり、式典会場に反イスラエルのデモ隊などが集まって混乱が起きるのを警戒したから、とした。

ところが、鈴木市長は以前、イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使に宛てて、「被爆地の市民は心を痛めている」と、停戦を求める書簡を送っていたこともあり、本当の動機はイスラエル批判だったのではないかと見られている。

理由はどうあれ、今回の長崎市長の動きは世界で物議となり、日本に対する評判に影響を与えたことは確かだ。その影響がどのようなもので、遺恨を残す可能性があるのかについて、本記事ではインタビューも交えて考察してみたい。

パレスチナを招待し、イスラエルは招待しなかった長崎市

G7(主要7カ国=カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカ)は、鈴木市長の決定が、ハマスによるテロ行為を正当化する反イスラエル的な動きだと見ている。G7の駐日大使らが連名で鈴木市長宛てに書簡を送り、遺憾の意を伝えたことは世界でも報じられた。

国外から見ると、平和のための式典が、イスラエルとパレスチナを巡る世界の分断と混乱を再確認させることになったのは間違いない。最終的に誰が式典に出席したのかをまとめた長崎市の資料によれば、長崎市が153カ国に招待状を出した中で、参加したのは101カ国と地域だった。結局、欧州からも20カ国が大使を送らず、G7やオーストラリアなど西側の価値観を共有する国々は総じて大使が出席しないという異例の事態になった。その一方で、日本が国家承認していない駐日パレスチナ常駐総代表部の一等参事官は参加した。

ウクライナ大使館から「なぜイスラエルを招待しないのか」の声も

さらにイスラエルを、もともとウクライナへの軍事侵攻を受けて招待していなかったロシアやベラルーシと同列に扱ったことも、各国から反発を招いている。長崎市側には、在日大使館などから鈴木市長の決定について問う連絡も入っていたといい、長崎市関係者は「ウクライナ大使館からも、なぜイスラエルを招待しないのかと問い合わせが来た」という。

今後長崎市には、世界から「厳粛な敬意」が与えられない可能性も

今回、筆者は中東をはじめ世界の外交関係者らともパイプのあるアメリカ人の元外交官マーク・ギンズバーグ氏に、この件について話を聞いてみた。ギンズバーグ氏は駐モロッコのアメリカ大使を務めた人物で、大統領の元安全保障アドバイザーでもある。

ー今回の一連の騒動をどう見ていますか?

「残念ながら、このような厳粛な機会に長崎市がイスラエル大使に外交的な『制裁』を加え、日本に駐在する他の大使らが参加するのも阻止する結果になり、アメリカは反発した。長崎市は、この種の祈念行事には関係のない外交問題を持ち出すことで、『世界が平和のために集う機会』という式典の信頼を世界的に損ねてしまった。これから長崎市には、厳粛な敬意が与えられない可能性もある。つまり、今回の式典の騒動は、実際に式典に出席した人たちよりも、参加しなかった国々の記憶に残るだろう」

ー日米関係にはどんな影響が?

「長崎市のボイコットは日米関係に永続的な影響を及ぼすことはないだろうが、式典への出席を拒否することで長崎市の決定に抗議するというラーマ・エマニュエル駐日アメリカ大使の決断は、アメリカのメディアで広く報道されている。アメリカが広範囲な軍事的関与をしているアジアの同盟国で、長崎市の指導者らが日米関係の大義に貢献しなかったことはバイデン政権の懸念となっている。またG7の国々が大使を送らなかったことは、アメリカの懸念を彼らが共有していることを意味する」

ー日本政府は、このイベントは長崎市が主催したものであり、政府は何ら関与していないとしています。この発言についてどう思いますか?

「日本政府が長崎市の決定に何ら関与していないと述べていることに異論はない。アメリカでもイスラエルによるガザ地区での行動に抗議する決議を可決した都市があるが、長崎市はそういう動きのレベルとは違い、日本政府の外交政策に介入した。日本政府は、アメリカなどで日本に対してここまでの不利な悪評を生むことは望んでいなかったはずだ」

多くの先進国駐日大使の式典不参加は“日本への警鐘”か

筆者はさらにインテリジェンス系のアメリカのコンサル企業「ファイブアイズ」のジョン・ロー氏にも話を聞いた。世界の軍や法執行機関、情報機関にも近い人物だ。ロー氏は言う。

「メディアの親イランと反イスラエルの偏向は、さまざまな人々に影響を与え、長崎市の決定にも影響を与えています。しかし、アメリカや他のヨーロッパ諸国では​​、両方の側面を見ており、イランのハマス支援など、世界中でテロ活動を組織していることは多くの人にとって明らかです。そのため、ほとんどのアメリカ人が長崎市でのこのような行動を見ると、自信を失い、両国間の関係拡大への熱意を失います」

最後に、インテリジェンスの側面から見ると、今回の長崎市の決定はどう映るのか。

「日本政府が長崎市長の決定に関与していたのか、あるいは決定前にそのことを知っていたのかは分かりません。しかし、長崎市は日本の重要な都市であり、この式典は多くの理由で重要なものでした。これは日本人に対する警鐘であり、世界の出来事について正確な情報を得ること、そしてその情報を日本の国、各地方の指導者に伝えることがいかに重要であるかを思い出させるものではないでしょうか」

今回の出来事が、先進国を中心に世界で遺恨を残すことになったのは間違いない。

この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」(文:山田 敏弘)

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