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どこからがいじめになる? 8割を占める「無自覚ないじめ」指導に苦慮する教員…「専任教諭」で効果

オールアバウト / 2024年8月28日 19時0分

どこからがいじめになる? 8割を占める「無自覚ないじめ」指導に苦慮する教員…「専任教諭」で効果

相手を傷つけようとせずに行ったことでも、いじめになる可能性がある。公立小学校で「いじめ対策専任教諭」を務める中尾先生(仮名)に、いじめの定義や発生時の対応について聞いた。

よかれと思ってやったことが、「いじめ」になる可能性も

算数の問題を解いているとき、友だちに答えをいわれた――。
「一緒に遊ぼう」と誘ったら、断られた――。

これらの状況は、「いじめ」といえるだろうか?

2013年度に制定された「いじめ防止対策推進法」によると、いじめとは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものと定義されている(*)。

この定義に当てはめると、冒頭の事例は当該児童が心身の苦痛を感じている場合は、いじめとなる。

ある公立小学校では、「相手が嫌な思いをしている」と気づかずに行った行為を「無自覚ないじめ」と呼んでいる。学校ではこのような無自覚ないじめが多く発生しており、対応に苦慮している教員は少なくない。軽微だと思われがちな事案であっても、解消されないままだと児童の苦痛は増していくことになるのだ。

このような事例も含め、いじめの認知件数が増えている現在、学校ではどのような対策をしているのだろうか。公立小学校で「いじめ対策専任教諭」を務める中尾先生(仮名)に話を聞いた。

3つの類型に分けられるいじめ。「無自覚ないじめ」にどう対応するか

中尾先生が勤める小学校では、教育委員会から「いじめ対策の手引き」が配布されており、そこにはいじめの類型が示されている。

「いじめは、1. 相手が嫌だと分かってわざとしたもの、2. 相手が嫌だと分からなかったが、少し考えれば分かるもの、3. 相手が嫌だと分からず、考えても分からないもの、の3つに分けられます。対応が難しいのは、3です。相手の気持ちが想像できず、『私はそれをされても構わない』という児童もいるため、相手の気持ちを丁寧に伝えていく必要があります」

当然ながら、同じことをされても嫌だと感じる児童とそう感じない児童がいるため、一概にその行為自体をとがめるわけにもいかないのが難しいところだろう。たとえ好意で行ったことであったとしても、相手が嫌だと感じる可能性はゼロではない。大切なのは“相手の気持ち”なのだ。

教員間でもいじめの認識をそろえるため、市内の学校では同じ期間内にいじめ対策点検が行われ、適切な対応ができているかを確認するセルフチェックシートの記入や研修が行われるという。さらに、中尾先生が独自に校内で研修会を開くこともある。

「先生たちからは、児童からの訴えの内容によっては、その後どのような対応をしたらよいか悩むという声が私のもとに多く届いていました。そのため児童から聞き取りをしたあとのフローチャートを作成し、それをもとに定期的に研修を行うようにしています。テンプレ通りの対応にはあまりしたくないのですが、やはり大まかな道筋は教員間でそろえておく必要があると思っています。また、職員会議や打ち合わせのたびに『いじめ対策の手引き』の読み合わせもするようにしています」

年4回のアンケートでいじめを早期発見。約8割は「無自覚ないじめ」

では、いじめはどのように発見するのだろうか。中尾先生が勤める小学校では、年4回のアンケートを通していじめの早期発見に努めているという。アンケートの8割を占める「無自覚ないじめ」「アンケートを取ったあとは、記載内容に関係なく、必ず担任の先生が一人ひとりの児童と個別で面談をすることになっています。いじめがあると書いた児童にはその内容についてヒアリングし、何も書いていない場合でも『本当になかった?』と聞いてもらうようにしています。あとから思い出す場合や、うまく書けなかった場合もあるので」

さらに中尾先生は、全校児童の出欠状況やその理由を毎朝確認するようにしているという。

「連日欠席していたり欠席理由が気になったりする児童については、担任の先生に『ご家庭に連絡してみてもらえませんか?』とお願いすることもあります」

ここまで徹底した取り組みにより、市内の学校におけるいじめの認知件数は全国と比べても多いという。

「本校の全校児童は600人弱で、年間200件以上のいじめが上がってきます。そのなかの約8割は無自覚ないじめです。ただ、もちろん教員の判断で『この程度のことなら……』と対応をおろそかにすることはありません。いじめの訴えがあった場合はすべて対応し、関係する児童の保護者には必ず連絡します」

経過観察は最低3カ月。いじめ対応後も見守りを続ける

いじめ発生時に対応するだけではなく、その後も該当児童を見守っていく必要がある。どのような場合に「いじめが解消した」といえるのだろうか?

「いじめへの対応をしてから3カ月間は、どのような状況であっても解消したとはいえません。必ず3カ月間は経過観察をします。児童に『最近はどう?』と声をかけることもありますし、出欠状況も確認します。その上で、被害児童と保護者の両者から異常がないことが確認できたら、いじめが解消したと判断します」

いじめが解消したとしても、年4回のアンケートやいじめ対策専任教諭の見守りは継続して行っていくため、再び事案が上がってきた場合は同様の対応をしていくこととなる。

いじめが起こった場合、一人の担任教諭だけではなく徹底して教職員がチームで対応する点は、近年の大きな変化ではないだろうか。それによって、すべての児童が安心して学校生活を送れるようになることを願う。

(*):「いじめ防止対策推進法」第一章 総則 第二条

この記事の執筆者:建石 尚子
大学卒業後、5年間中高一貫校の教員を務める。フィンランドにて3カ月間のインターンを経験したのち、株式会社LITALICOに入社。発達に遅れや偏りのある子どもやご家族の支援に携わる。2021年1月に独立。インタビューライターとして、教育や福祉業界を中心にWEBメディアや雑誌の記事作成を担当。
(文:建石 尚子)

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