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「私、実は昔女優をしていてね」認知症患者が「作話」をしてしまうワケ【脳科学者が解説】

オールアバウト / 2024年9月1日 20時45分

「私、実は昔女優をしていてね」認知症患者が「作話」をしてしまうワケ【脳科学者が解説】

【脳科学者が解説】「駅前のビルは私のお金で建てた」「昔は女優をやっていた」といった、事実ではない自慢話も含む「作話」。認知症で見られる作話は、一般的なウソや妄想とは性質の異なるものです。認知症で作話が起こる理由を、わかりやすく解説します。

認知症の本質は、「自分が認知症であることが認知できなくなる」ことにあります。もちろん、軽いうちは、少しは自分のおかしなところに気づくことができますが、進行すると最終的には自分のことがわからなくなってしまいます。

「わからなくなってしまう」とは、どのような状態を指すのか、そして、認知症になるとなぜ作話が起きるのかを、分かりやすく解説します。

作話とは……「メタ認知力」が失われ、事実ではない話を作ってしまう状態

自分が「わかっているかどうか」認知できることを、「メタ認知」といいます。たとえば私がペンを持っていて、「これは何ですか?」とあなたにたずねたとしましょう。「ペンです」と答えることができれば、あなたは「ペンという物を認知できた」といえます。

しかし何だかわからず、「わかりません」と答えた場合はどうでしょうか? この場合は、ペンを認知することはできなかったことになりますが、「自分がわかっていない」ということは認知できた、ということになり、つまり「メタ認知力はある」と判断されます。

認知症が進行してメタ認知力が失われた方は、「自分がわからないこともわからない」ので、ペンを見せられても、「花です」といったように、何かふと思いついたままに全く違う答えを返すことがあります。このような状態を「作話(さくわ)」といいます。

「嫁が私の預金通帳を持ち逃げした」といった「物盗られ妄想」に基づく発言も作話の一種ですが、他にも「駅前の大きなビルは私がお金を出して建てた」「私は昔女優をやっていてたくさんの映画に出た」など、事実ではないちょっとした自慢話も含まれます。

「作話」と「ウソ」の違いは? 記憶の空白を埋めようとする脳のはたらき

誤解しないでいただきたいのは、決してウソをついているわけではないのです。「ウソ」は相手をだます意図で、自分で事実でないとわかっていながら作り話をすることですが、「作話」の場合は相手をだまそうという意図はなく、あくまで思いついたことを、そのまま口にしているだけなのです。

私たちの脳には、情報に空白があるとそれを埋めようとする習性があります。わからないことがあると不安になり、それを解消するために、現実には存在しないものを勝手に作り出します。記憶についても、空白があると脳は不安定になり、適当に空白を埋めて話のつじつまを合わせようとします。

しかも、その内容が間違っていることを指摘しても、「あら、そうかしら?」とケロッとしていることがあります。本人は作話をしていることに気づかず、本当の記憶かのように自信たっぷりに話すのです。

しっかりと流暢に話すので、頭はしっかりしていると周囲から受け取られ、事実ではないことを話していても区別できないこともあります。亡くなられた後に、残された遺言が本当に当人の本意なのかどうかが問題になることも少なくありません。

メタ認知ができない場合、病院で「どこか具合が悪いですか?」と質問されても、自分で説明することができません。また、自分の病状を理解できなければ、進んで治療に取り組むこともできません。認知症の場合、どうしても周囲の助けが必要になる理由はここにあるのです。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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