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こわ~い『プーさん』のホラー映画が公開されたけれど…弁理士が首をかしげる「法的にグレーな部分」

オールアバウト / 2024年9月5日 20時50分

こわ~い『プーさん』のホラー映画が公開されたけれど…弁理士が首をかしげる「法的にグレーな部分」

プーさんが斧を手にクリストファー・ロビンに襲いかかるというホラー映画の続編が2024年8月9日に日本で公開。アメリカでプーさんの原作小説の著作権が切れ、プーさんがパブリックドメインとなったことで実現したこの映画の法的な問題などについて解説。

ホラー映画『プー あくまのくまさん』の続編、『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』が公開された ※画像はイメージ
医師になる勉強のためクリストファー・ロビンが100エーカーの森を離れて数年後、野生化したプーさんとピグレットが斧を手に、クリストファー・ロビンに襲いかかる……「プー! なぜこんなことをするんだ! 僕は君たちを忘れたことはなかった!」

こんな信じがたい内容のホラー映画『プー あくまのくまさん』が2023年6月23日に日本で公開されてから約1年後の2024年8月9日、その続編である『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』が日本で公開されました。

法的に「グレーな部分」を抱えて

第1作が製作費1000万円程度だったにもかかわらず、全世界興行収入が7億円ものヒットとなったことから、第1作よりも製作費を10倍ほど増やしてパワーアップ(?)しての第2作の公開となりました。

筆者も映画館でこの第2作を見たのですが、スプラッター度はかなり増しており、またストーリーもプーさんの誕生秘話が描かれるなど、第1作よりもしっかり作りこまれていました。なお、プーさんのビジュアルや動きは、だいぶブギーマンやジェイソン寄りです。

ちなみに、第1作の公開時に内容や法的な問題などについていろいろと賛否があり、内容は最低映画の祭典、第44回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)を5部門受賞するという結果となりましたが、法的な問題については、後述するいくつかの「グレーな部分」を抱えて現在まできています。

そうしたいくつかのグレーな法的問題がある中、なぜ、プーさんのホラー映画が公開できたのでしょうか。

プーさんの原作小説の著作権が切れた

プーさんのホラー映画が作られるに至った最大の理由は、アメリカでプーさんの原作小説の著作権が切れてプーさんが「パブリックドメイン」となったことです。今回のプーさんのホラー映画の監督も、インタビューなどでそれがきっかけであることを語っています。

小説や映画などの著作物の著作権は、その保護期間が永遠に続くわけではなく、一定の期間、著作権で保護された後は著作権が切れ、誰もが基本的に自由に利用できるパブリックドメインとなります。

古くから『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』などがパブリックドメインとして利用されて多くの二次創作がされていますし、『白雪姫』や『眠れる森の美女』といった童話もパブリックドメインとして利用されて、多くの二次的な作品が創作されてきました。

また、パブリックドメインになるまでの期間(著作権で保護される期間)は、国によって異なります。
 『クマのプーさん』(岩波少年文庫) ※画像出典:Amazon
たとえばアメリカでは、1923年~1977年の間にアメリカ国内で発行された著作物の保護期間は、発行から95年間としているため、1926年にアメリカで発行されたプーさんの原作小説『クマのプーさん』(原作:A・A・ミルン、挿絵:E・H・シェパード)は、2022年1月1日に著作権が切れてパブリックドメインとなりました。

なお、これはあくまでもアメリカ国内での利用の話であり、日本国内での利用に関しては、2017年5月21日に『クマのプーさん』の原作小説部分の著作権は切れています(原作者と挿絵作者の死亡年の違いなどから、挿絵部分は2024年現在も著作権が残っています)。

よって、ある国で著作権が切れたからといって全世界で利用できるわけではなく、基本的には、その著作物が最初に発行された国における保護期間(プーさんの原作小説の場合でいえば最初に発行された国はイギリスになりますので、著作者の死後70年間)を上限として、それぞれの国ごとに設定されている保護期間が経過した場合に、保護期間が経過した国においてのみ自由に利用できるようになるというものなのです。

そこで、今回のプーさんのホラー映画には1つの疑問が生じます。

まだ著作権が切れていない国でも上映している

プーさんのホラー映画は、映画データベースの「IMDb」で調べると、原作小説の著作権が切れているアメリカ、カナダや日本のみならず、まだ著作権が残っているはずのヨーロッパ各国でも上映されています。

ヨーロッパ各国では、イギリスを含むほとんどの国が著作者の死後70年間を保護期間としているため、プーさんの原作小説『クマのプーさん』の原作者ミルンが亡くなった1956年から70年後の2026年末まで、著作権が切れずに残っています。

それなのに、プーさんがまだパブリックドメインとなっていないヨーロッパ各国でもプーさんのホラー映画が上映されていることには、筆者は首をかしげます。

ここまで大幅な改変は少なくとも日本では許されないのでは

もう1つ、プーさんのホラー映画には疑問点があります。

アメリカ以外の多くの国では、著作者の死後も著作者の意に反する改変は禁止されている場合が多いです。少なくとも日本では、著作権法60条により、著作者が亡くなった後であっても、著作者が生存しているとしたならば著作者の意に反するような改変をしてはならないとされています(この規定はパブリックドメインにも適用されると解釈されています)。

プーさんの原作小説を改変してホラー映画にすることは、原作小説の著作者であるミルンが生存していたならばその意に反する改変に該当する可能性があるため、ミルンの遺族(日本だとミルンの配偶者、祖父母、父母、兄弟姉妹、子、孫まで)が日本でこの著作権法60条を主張して、プーさんのホラー映画の上映差し止めなどを裁判所に求めることも可能ではないかと考えられます。

第2作が公開された現在までに、ミルンの遺族が何らかのアクションを取ったという報道はありませんが、このプーさんのホラー映画は、上記のようなグレーな部分を抱えながら公開されていると言えます。

それでもなお続く名作のホラー映画化

先述のように、パブリックドメインになったとしても、ホラー映画化するという大幅な改変は認められない国もあるのではという疑念はあるものの、パブリックドメインをホラー映画化するという流れは年々加速しています。

今回のプーさんのホラー映画の制作陣は、近年パブリックドメインとなった『バンビ』や『ピノッキオの冒険(ピノキオ)』のホラー映画化を検討しているようですし、今年の10月25日には、『シン・デレラ』という、こちらもパブリックドメインとなっている『シンデレラ』のホラー映画が日本でも上映されます。

アメリカ国内では、今後2025年に「プルート」、2029年に「ドナルドダック」、2033年に「スーパーマン」、2034年に「バットマン」がパブリックドメインになる予定となっており、日本国内では、2032年に初代ゴジラがパブリックドメインになる予定です(初代ゴジラは1971年以前に上映されている映画であるため、旧著作権法が適用されるので、監督の死後38年として計算)。

こういった有名なキャラクターが今後パブリックドメインとなっていく中で、これらのキャラクターがその後どのような利用がされるのか、今後も目が離せないところです。

藤枝 秀幸プロフィール

大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。
(文:藤枝 秀幸(弁理士・行政書士))

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