どうも納得のいかない「京葉線のダイヤ改正」 騒動から垣間見えるJRと民鉄との“企業文化”の違い
オールアバウト / 2024年9月20日 21時15分
京葉線のダイヤ改正が波紋を呼んでいます。この9月に快速電車を増発するなどしましたが、まだまだ利用者の納得を得られているとはいえないのが実情です。今回の「京葉線ダイヤ改正騒動」はJRの国鉄時代からの企業文化に由来するのではないでしょうか。
JR東日本が運行する京葉線のダイヤ改正を巡って、交通機関のサービスと公共性のあり方についてさまざまな議論がなされています。
事の発端は、今年3月のダイヤ改正でJR東日本が、京葉線の朝夕の通勤時間帯における通勤快速の全廃と快速の大幅な削減を実施したことにありました。JR東日本の説明では、朝夕の快速時間帯における列車混雑の平準化を目的として、各駅停車を増やすことで乗客の分散を図り、沿線利用者の利便性の向上を狙ったものとのことでした。
しかし、利用者からはむしろ「通勤、通学に大きな影響が出る」として反発が相次ぎ、千葉県知事からは「容認できぬ」、千葉市長からも「市民の生活リズムに大打撃を与える極端な改正」とのコメントが出されるなど、大きな波紋を呼んだのです。
その後も、千葉県内の各自治体や経済団体などからJR東日本に対して再考を求める声が次々上がり、同社も譲歩せざるを得なくなって、今般9月のダイヤ改正で平日に快速を7本増発させるという対応に至りました。
とりあえず県知事、千葉市長共に一定の評価は表明しましたが、通勤快速は全廃のままで、かつ快速も3月以前との比較では1日20本以上も減った状態です。現時点では、地元の要望に沿った十分な対応とは言い難い状況であり、利用者の感情からはまだまだ納得できていないというのが実情なのです。
民鉄各社とJRの“微妙な”違い
以前、大手民鉄の広報担当者から、急行、快速などの停車駅について「停車駅を増やすことはできるが、減らすことは原則できない」という話を聞いたことがあります。その理由は、「利用者の利便性の低下につながる変更はしないのが大原則であり、また急行が停まらなくなったとなれば地価の下落にもつながりかねない。最悪の場合には、訴訟リスクもある」からだと言うのです。
今回のケースは停車駅の減少ではありませんが、快速本数が大幅に減るというのは、実質的に同じことを意味すると考えなくてはいけないでしょう。
JRは民営化されたとはいえ元々が国営の国鉄であり、公共性を帯びた事業体である電鉄業の中でもより公共性が高い企業であるといえます。
その企業活動のベースとなっているものは、日本の鉄道網の基本を作ってきたという国鉄文化であり、民間企業として沿線開発をしてきた民鉄文化との微妙な違いが、公共性に対する考え方にも微妙な違いを生んでいるように思えます。
すなわち、JRは国鉄時代の国民への安全な輸送手段の提供を目的とした事業姿勢がその基本であり、民鉄各社が一営利企業としての利用者の増加を目的に沿線の利便性の向上を旨として開発を進めてきたこととは、隔たりがあるのです。
2011年、東日本大震災の折の対応に、その隔たりは明確に表れました。
地震発生後、民鉄各社は駅構内を防寒場所として運転再開を待つ乗客に開放し、京王線では段ボールを切って座布団代わりに配布したという報道もありました。各社は、その日の夜半から続々運転を再開し、早期の帰宅手段提供に努めたのです。
一方JRはといえば、地震発生後早々に当日の運休を発表し、事もあろうか各駅のシャッターを下ろして、駅構内から帰宅困難者たちを閉め出すという暴挙に出たのです。時の都知事であった石原慎太郎氏はこのJRの対応に激怒し、後日JR東の社長が都知事を尋ねて謝罪するという顛末(てんまつ)に至りました。
「京葉線ダイヤ改正騒動」が示唆すること
今回のダイヤ改正について、JRが挙げた沿線の混雑回避という理由はいまひとつ釈然とせず、むしろこの東日本大震災の際に垣間見られた、「無意識のうちに、自己の論理を優先し利用者の利便性を後回しにする」という企業文化が感じられるのです。というのも、3月のダイヤ改正時に、通勤快速の廃止、快速の大幅削減と同時に有料の特急列車増発を行った事実もあり、コロナ以降乗車率が2~3割減ったという京葉線の収益回復策を狙った企業の論理だったのでは、と思われる節もあるからです。
民間企業は基本的に営利団体であり、企業の社会性は当然ありながらも、場面、場面で企業の論理から収益増強策を優先させることはあってしかるべきではあります。もちろん、その策が受け入れられなければ、顧客離れなどの形で自社に返ってくることもあるわけで。
しかし、電鉄会社のような「他の手段への代替が利かない公共的サービス」を提供する事業では、企業の論理を優先しすぎることは単に利用者の反発を買うだけでなく、社会正義の観点からも非難を受けることになりかねないリスクを負っているのです。
先の民鉄広報担当者の話は、まさに公共サービスを提供する企業として自社が負っているリスクを意識して、日々事業に取り組んでいることの証しであるといえるでしょう。
一方JRでは、企業の論理を優先するプロダクトアウト的な考え方で運営してきた国鉄時代の文化が、民営化から40年弱を経た今もまだ脈々と生きていると思わざるを得ません。今回の件は、JRも民鉄に倣い、沿線住民のニーズをくんで事業を運営する、マーケットインへの移行が求められていることの証左なのではないでしょうか。
知事をはじめ千葉県内の各自治体を巻き込んでの「京葉線ダイヤ改正騒動」が、JRの古い企業文化を変えるきっかけになるか否か、注目して見守りたいと思います。
大関 暁夫プロフィール
経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))
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