無料・フリー画像の落とし穴!? 自治体や学校で「イラストの無断使用」による損害賠償が増えている理由
オールアバウト / 2024年9月27日 21時15分
近年、県や市などの自治体、学校がイラストを無断使用したことで損害賠償をするという報道が相次いでいます。なぜこのようなイラストの無断使用が頻発しているのか、イラスト分野の法務経験が豊富な弁理士である筆者が解説する。
ここ最近、第三者のイラストを無断使用したとして、自治体などが損害賠償請求をされるという報道が相次いでいます。今年8月には滋賀県大津市、青森県八戸市、愛媛県西条市での事例が注目を集めました。
これらはいずれも自治体の職員らがイラストを許可なく使用したことによるものですが、自治体以外にも、学校の教職員がイラストを無断使用したことにより損害賠償請求をされるという報道も今年に入ってよく見られます。
2024年2月以降、筆者の調べる限りでは、自治体・学校によるイラストの無断使用事例として以下のようなものが確認できました。
イラストを無断使用した自治体・学校の一覧
上記事例のイラストの使用媒体は、広報誌、チラシ、生徒や保護者向けの資料など、紙媒体ばかりに見えますが、いずれの事例もほぼ共通してウェブサイトにも掲載されています。
紙媒体で市内などに配布していたものについては、著作権者も自分のイラストが使用されていたとしても分からないことが多いのですが、ウェブサイトにも掲載されている場合は、インターネットの画像検索などを利用すれば見つけることができるので、著作権者や著作権管理会社がイラストの無断使用を見つけたのだと考えられます。
このような自治体・学校などによるイラストの無断使用による損害賠償事例は、10年ほど前から割と見られるようになっていて、宮城県名取市では、2016年にイラストを無断使用して103万円を損害賠償した後、2023年に別のイラストを無断使用して新たに約17万円を損害賠償するといったこともありました。
なぜ近年、このような事例が相次いでいるのでしょうか。
理由1:画像検索の精度向上や機能追加
理由としてまず考えられるのは、Googleなど検索エンジンにおける画像検索の精度が向上したことや、類似画像を検索できる機能が追加されたことです。画像検索において利用者の多い「Google画像検索」は、2001年にサービスを開始したものの、当初は精度も低く、テキストでの画像検索しかできませんでした。
しかし、2009年に類似画像を検索できる機能が追加されたことや、画像検索の精度が年々向上していったことに伴い、日増しに類似画像を見つけやすくなっていきました。
そのためか、2014年ごろから、岡山県瀬戸内市、滋賀県野洲市、山形県寒河江市、長野県須坂市といった自治体によるイラスト無断使用の損害賠償事例が次々と報道されるようになっています。
2024年2月以降の自治体や学校によるイラストの無断使用は、その多くがウェブサイトにも掲載されていたものですので、Googleなど検索エンジンの画像検索により見つかったものと考えられ、類似画像の検索機能や画像検索の精度向上によってイラストの無断使用を発見しやすくなっているという状況が見て取れます。
続いて、二つ目の理由も重要です。
理由2:職員らの著作権に対する意識の問題
二つ目の理由としては、県や市、学校などの職員らの著作権に対する意識に問題があるためと考えます。自治体職員や学校教員によるイラストの無断使用の場合、報道記事には、だいたい次のようなコメントがあります。
「ネットで『フリー、無料』と検索して見つけたイラストだから無料だと思った」
「日常的に使用している無料素材と画風が似ているから無料だと思った」
「透かしやサンプル加工などの表示がないので無料だと思った」
画像検索で出てきたものを、その画像の掲載元の規約や利用条件などを確認せずに無断でダウンロードして利用していたという声が多いのです。
今年8月にイラストの無断使用が判明した滋賀県大津市の事例は、京都府の著作権管理会社が管理していたイラストを無断使用していたものですが、画像掲載元のウェブサイトにアクセスし、購入手続きをせずに画像をダウンロードしようとすると、「掲載作品のご使用には料金が発生します」というメッセージが表示されるようになっています。
もしも大津市の職員が掲載元のウェブサイトに直接アクセスしていたら、このようなメッセージを無視してまでダウンロードするとは思えません。やはり掲載元サイトにはアクセスせずにインターネットの画像検索で表示されたものをそのままダウンロードしたのでしょう。
筆者はこうした著作権に対する意識の低さが、今日になってもイラストの無断使用が相次いでしまう理由の一端になっているのではと考えます。
「無料」「フリー」と画像検索して出てきたからといって、それらが無料素材であるとは限りません。
画像検索は実際に無料であるか有料であるかを判断して画像表示をしているわけではありませんので、たとえ「無料」「フリー」と画像検索してヒットしたものでも、必ず掲載元の利用条件などを確認するべきです。
最後に、このようなイラストの無断使用が実際に発生した場合の損害賠償額の相場について、簡単に解説します。
イラスト無断使用の損害賠償額の相場
イラストを無断で使用した場合の損害賠償額の相場を考えるにあたって、参考になる裁判例を1つ紹介したいと思います。・東京地方裁判所 令和3年6月30日判決 著作権侵害損害賠償請求控訴事件
この裁判は、イラストレーターが制作した「りんご」のイラストを、アップルパイなどの焼き菓子を製造・販売するメーカーがイラストレーターに無断でウェブサイトに掲載したことにより、イラストレーターが損害賠償を求めた事件です。
この裁判では、イラスト1点をウェブサイトに1カ所掲載する場合の使用料を、掲載期間に関わらず「4万3000円」で妥当とし、このイラストが本件ウェブサイト上に5カ所掲載されていたと認定した上で、以下の損害賠償額を認めました。
・使用料相当額:21万5000円
・慰謝料(イラストレーターの精神的苦痛):20万円
・弁護士費用:4万1500円
・損害賠償額の合計:45万6500円
上記の裁判例やさまざまな自治体・学校などでのイラストの無断使用による事例を見る限り、イラストを1点無断で使用した場合の損害賠償額は「数万円×掲載箇所の数(または掲載期間など)」で算出されることがよく見受けられます。
また、先ほどの裁判のように、慰謝料や調査費といった名目の費用も合わせて請求される場合が多く、この金額もなかなか大きな金額になりますので、結果としてイラストを無断使用した場合に支払う損害賠償額は、数十万円~数百万円という大きな金額になると考えられます。
自治体や学校、企業のみならず、個人が著作権法上の私的利用の範囲を超えてイラストを無断使用した場合も損害賠償請求されることがあるため、第三者のイラストを使用する際は、必ずイラスト画像の掲載元の使用条件などを確認するようにしてください。
<参考>
・毎日新聞「大津市、29万円賠償へ 広報誌でイラスト無断使用 /滋賀」2024年8月22日
・デーリー東北「『無料イラストかと…』公民館職員、利用規約の確認怠る 著作権元、八戸市に損賠請求」2024年8月21日
・TBS NEWS DIG「自治体HPで著作権侵害の指摘… イラスト使用料240万円余り請求される 市は争う方針 愛媛・西条市」2024年8月27日
藤枝 秀幸プロフィール
大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。(文:藤枝 秀幸(弁理士・行政書士))
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