JR青梅線「拝島駅」には何がある? 米軍基地だけじゃない、多摩川&玉川上水のある自然の街。石川酒造も
オールアバウト / 2024年10月1日 20時55分
JR青梅線内で、立川駅と青梅駅のほぼ中間にあたる「拝島(はいじま)駅」。在日米軍横田基地の南端に近い場所にあり、牛浜駅や福生駅周辺とも並んで「基地の街」という印象を持たれがちですが、駅を降りた先の街中には何があるのでしょうか。
拝島駅について、「拝島≒横田」「拝島に行く用事は毎年の日米友好祭だけ」という印象を持つ人もいるのではないでしょうか。
東京都西部の多摩地域に広く横たわり、在日米軍と航空自衛隊が使用している横田基地。その横田で毎年開催される「日米友好祭(フレンドシップ・フェスティバル)」へと向かう際、最寄りの牛浜駅が混雑することを避けるため、代わりに利用をすすめられるのが拝島駅です。
駅周辺の街並み自体は、豊かで安らかな風景。有名な日本酒「多満自慢(たまじまん)」の石川酒造もあるなど、基地だけではない見どころもある街ですよ。
駅の基本情報:家賃相場はいくら?
東京都の福生市、昭島市の境目にある拝島駅はJRと西武鉄道の複数路線が乗り入れており、貨物利用もあるなど、実は東京西部で立川や八王子に次ぐターミナル駅! JR青梅線では西の青梅・奥多摩方向と東の立川方向に行けるほか、青梅線の一部電車は拝島駅でJR五日市(いつかいち)線に接続し、秋川渓谷のある武蔵五日市駅の方向に向かいます。また、JR八高線は北に行くと埼玉県の高麗川(こまがわ)駅や、JR川越線の川越駅まで直通。八王子駅にも立川を迂回(うかい)することなく、八高線1本ですぐに行けます。他にも西武拝島線(西武新宿線に接続)で小平駅や田無駅へ電車1本でアクセス可能であるなど、都内西部や埼玉県を巡る上では極めて便利な駅なのです。
家賃相場は駅徒歩10分以内、築年数10年以内でワンルームが約6.1万円、1LDK約7.5万円(SUUMO、2024年9月25日確認)。隣の昭島駅に比べると若干安めながら、それでも青梅線全体では比較的高い方。前述の電車交通のよさを反映した相場なのでしょうか。
拝島という名前は、もともと近くの多摩川で「島」のような中州に大日如来観音像が流れ着き、観音様を地域の住民がありがたく「拝」んだ故事に由来するそうです。
拝島は「水辺」と関わりが深い街
拝島駅は、そこそこの規模があるターミナル駅らしく、直方体のスマートな見た目です。拝島駅の構内は「Dila(ディラ)拝島」という、ちょっとした駅ナカのショッピングモールになっています。店舗は「吉野家」「ミスタードーナツ」などのイートイン店舗にコンビニ、書店、スイーツ店、ドラッグストアなど。拝島駅での乗り降りだけでなく、路線乗り換え時のちょっとした食事や買い物に便利そうです。北口(東側)と南口(西側)をつなぐ自由道路部分にある、ステンドグラスのパブリックアートが目を惹きます。芸術家ルイ・フランセンが手掛けたもので、タイトルは『美しい水の流れ、吹き渡る風に夢を乗せて FUSSA』。この「美しい水の流れ」というのが、拝島散策の上でポイントになります。
玉川上水沿いの緑道。あちこちで歴史探訪できる
駅北口を出てすぐの場所にあるのが、「玉川上水」沿いの緑道。この上水は17世紀半ば、江戸市中へ良質で豊かな水量を引き込むべく、玉川兄弟が普段の努力・苦闘の末に開発したことで知られています。玉川上水は現在の東京都羽村市から新宿区四谷まで流れ、一部区間は何と令和でも現役。また、玉川上水の上流は澄んで豊かな水と、それに育まれた植生や生態系があり、ちょっとした散策や自然観察にもぴったりです。
その途中には幾つもの分水があり、その1つである拝島分水の取水口も外に見える形で現存。江戸時代、この近辺にあった宿場町「拝島宿」での生活用水に使われたそうです。取水口の近くにある「平和橋」は、昭和中期に地元有志の人々が寄贈した橋とのこと。玉川上水緑道は江戸時代までの拝島の姿が感じられますが、一方で「平和」橋というネーミングからは、「基地の街」としての近現代の拝島が見て取れます。
平和橋を渡らずに左折して、少し歩いた場所にあるのが「日光橋」。1891年に作られたレンガ造りのアーチ橋を、さらに1950年に拡張工事したもので、橋の下をよく見ると明治期のレンガが露出しています。拝島はあちこちで歴史探訪できる街のようです。
拝島駅から横田基地は歩いて十数分
日光橋を渡って少し進むと国道16号と五日市街道の合流する三角地帯にぶつかり、一気に視界が開けます。この太く広い道に沿って北方向へ歩いた先にあるのが横田飛行場、いわゆる「横田基地」です。1940年に大日本帝国陸軍の飛行場として開設され、戦後に連合国軍に接収された横田飛行場は、現在でも在日米軍の極東における最大拠点とされています。日本国内に米軍の基地が置かれている是非についてはさまざまな意見がありますが、現状この基地が日本の国防にとっても、日米協力にとっても重要な場所であることは間違いないでしょう。国道16号沿いには、ところどころにアメリカンな店舗が点在しています。こちらは横田教会。キリスト教の教会そのものは珍しくはないですが、横田教会は無骨でガッチリした建物やロゴが印象的。米軍の兵士や将校も、休日などは基地から外出し、教会で礼拝をしているのでしょうか。
毎年5月中旬頃に開催される「日米友好祭(フレンドシップ・フェスティバル)」の際は、ここの長い歩道が基地へ向かう来場者で埋め尽くされます。初めて参加する人は基地に入る前から驚くことでしょう。友好祭の出し物も、広大な基地内での落下傘部隊の実演、米軍のブラスバンド隊によるコンサート、米軍&自衛隊の軍用機の展示など見どころいっぱいです。
「七面鳥の脚まるごと1本使ったスモークターキー」「糖分とカロリーが凄そうなクリームたっぷりのホールケーキ」「アメリカ本国でのみ販売のカラフル&ビッグなスポーツドリンク」など、友好祭でしか口にできない飲食も多くて楽しいですよ!
なお、前述の通り、日米友好祭へは拝島駅から徒歩でのアクセスが推奨されていますが、拝島駅から横田基地の入り口(第5ゲート)は約1.5キロメートルと距離が離れているので、開催時期によっては歩行中の熱中症などに注意した方がいいでしょう。
また、国道16号沿いの歩道は基地寄りの片側が途中行き止まりになっており、横田基地までたどり着けないので注意を。友好祭当日は警察や警備員が交通整理をしており、聞けば案内もしてくれますので必ず指示に従いましょう。
水喰土公園〜日光橋公園の遊歩道は夏でも快適!
国道16号沿いの散策は途中で切り上げ、「水喰土(みずくらいど)公園」へ。このネーミングは江戸時代の玉川上水開削工事に由来しています。玉川兄弟が最初の堀を完成させて水を通したところ、この近辺で流水が「土に喰われる」かのように地面に吸い込まれ消滅し、工事は失敗。この地盤層が、当時の工事関係者から「みずくらいど」と呼ばれ、恐れられたそうです。工事失敗と「みずくらいど」にも果敢に立ち向かい、江戸市中まで上水を通してみせた玉川兄弟ですが、当初の失敗した堀は園内に福生市指定史跡「玉川上水開削工事跡」として残されています。ただし、その石碑と説明看板は園内でも木々や雑草がかなり鬱蒼(うっそう)と生いしげった場所にあるため、見学に行くのは草木の枯れる秋冬〜春先が最適。雑草がピークになる真夏〜初秋は正直おすすめしません……。
すぐ引き返せばよかったのですが、石碑脇の小道に興味を覚えて先へ進んでしまったのが失敗でした。2024年の猛暑エネルギーでたくましく繁殖した雑草をかき分け、デカデカと張り巡らされたクモの巣の下をくぐり、「出口どこ!?」と虫の影におびえながらさまようこと、約10分。なんとか拝島駅へとリターンできる遊歩道を発見し、ひと安心。何とも物静かな雰囲気です。
取材当日は30度弱で日差しが強く、夏がぶり返したかのように暑い日でしたが、玉川上水沿いの遊歩道は木の陰と水辺のマイナスイオンを浴びて、涼しく快適。夏場の散歩にはよさそうです。
東京都内でも福生〜昭島エリアはとりわけ水質がいいことで知られています。拝島近辺の玉川上水も例外ではなく、水面下の所々にはきれいな水草が生育し、清流を好むハグロトンボ(東京都の絶滅危惧種)の姿も見られました。カルガモの親子が泳ぐ姿もあり、遊歩道は野鳥や昆虫にとっても快適なすみかのようです。
また、遊歩道がJR八高線の下をくぐるスポットも。タイミングが合えば玉川上水・遊歩道の緑・八高線の列車を1度に撮影できそう。遊歩道をしばらく進んだ先にあるのは、拝島駅にほど近い「玉川上水緑地日光橋公園」。子ども向けの遊具も整備されており、自然散策というよりレクリエーションの場という雰囲気でした。
日光橋公園の上を国道16号(武蔵野橋)がまたいでいます。公園近くの階段から橋上に出ると、秋雲が群島のように散らばる青空が広がっていました。気温はいまだ高くとも、季節は確実に秋へ向かっているようです。
南口ロータリーから「石川酒造」へ
武蔵野橋をまたいで階段を降りると、すぐ近くに拝島駅南口の商店街があります。いかにも小さな街の小さな商店街といった雰囲気ながら、シャッター街といった寂れた様子はなく、夜にもなれば居酒屋や飲食店などはそれなりににぎわうようです。駅南口からロータリーと西側の風景は、なかなかに開放的。この近辺の地形は駅周辺から多摩川へと緩やかな傾斜になっており、ロータリーからでもかなり遠方の街並みや山々が見られます。駅前商店街のあちこちにあるのが、福生の酒造「石川酒造」の日本酒ブランド「多満自慢」の字。
拝島駅南口のすぐ近くにある、多摩地域特産品のセレクトショップ「たまてばこ」でも、「多満自慢」をはじめグッズなどを数多く取り扱っています。店内は清潔に整えられており、コーヒーやクラフトビールなどを注文できるイートイン席も完備されています。
駅南口の東側にあるのは「五鉄通り」。戦前に立川〜拝島間を通っていた路線「五日市鉄道」が、太平洋戦争中に金属供出のため「不要不急線」として廃止され、その跡地が遊歩道として整備されたものです。
今では鉄道時代の名残は一部のモニュメントや立て看板、あとは遊歩道全体の緩やかなカーブのみ。遊歩道に沿って駐輪場や飲食店があるなど、地域住民の憩いの場となっています。拝島駅南口のロータリーから出発し、東京都道7号の杉並あきる野線に沿って西方向へ歩くこと十数分。東京都産の日本酒として有名なブランド「多満自慢」を製造する酒造「石川酒造」の施設に到着しました!
日本酒「多満自慢」の製造元、「石川酒造」は楽しさいっぱい
石川酒造は幕末の1863年に創業した酒造会社で、明治維新後の1881〜1883年に現在の地域へ酒蔵を新設。創業当時は「八重桜」という銘柄を用いていましたが、大正時代の1919年に「八重梅」に変更し、さらに昭和に入った1933年に現在の「多満自慢」を使用するようになりました。現在では東京都を代表する有名酒造の1つとして知られています。敷地内は日本酒を製造・保管している「本蔵」のほか、日本酒、食品類、グッズ類を扱う直売所「酒世羅(さけせら)」、敷地内の雑蔵(ぞうくら)1階を改築したレストラン「食道 いし川」、同じ雑蔵の2階で酒造と地域の歴史を展示する「雑蔵史料館」など、見どころは盛りだくさん!
本蔵は国の登録有形文化財に指定されているほか、美しく伝統ある酒造内の建物・風景は、ドラマ『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)、『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)、『さよならマエストロ』(TBS系)などのロケ地としても知られています。とりわけ推したいのが、1992年に開館した「雑蔵史料館」。創業家の石川家&酒造の歴史、そして石川家が関わり続けてきた地域全体の歴史が詰まっています。江戸時代に石川家で用いていた生活道具類や、かつての酒造現場の様子を再現したジオラマなどもあり、入場無料とは思えない情報量には圧倒されるばかりです。
また、直売店「酒世羅」で購入した日本酒やおつまみなどは、敷地内の所定スポットで飲食OKとのこと。かつては試飲などもあったようなのですが、2020年以降のコロナ禍以来、感染症予防のため中止しているそうです。
なお、石川酒造では日本酒だけでなく、クラフトビール「多摩の恵(たまのめぐみ)」も1998年より製造・販売しています。「福生のビール小屋」というイタリアンレストランもあるので、酒造が作ったビールを現地で味わうことも可能です。さらに、現在の石川酒造は「酒坊多満自慢」というゲストハウスも経営しています。酒造でおいしいお酒&料理を堪能した後、そのまま現地で宿泊なんて何ともぜいたく。インバウンド需要も高そうです。
そして、高品質な日本酒を作るためには、高品質な水が欠かせません。石川酒造では直近の多摩川水系の水だけでなく、玉川上水を熊川という地域で分岐させた「熊川分水」も、「多満自慢」「多摩の恵」の仕込み水として活用しています。
雑蔵史料館での説明によると創業者の石川家は、洪水で農地を壊されて悲しむ地域住民のため、多摩川の治水事業にも深く関わっていたそうです。石川酒造の敷地内では、多摩川と熊川分水(玉川上水)への感謝と畏敬が端々から感じられました。敷地内を流れる熊川分水の用水路で、メダカなど大小の淡水魚が泳いでいました。
拝島駅のステンドグラスのタイトルの一部「美しい水の流れ」は、まさにこうした水と自然の豊富な環境に集約されているのです。
拝島は玉川上水&多摩川の両「タマガワ」に彩られた「水辺の街」
石川酒造の美しさに満足し、お土産に日本酒や食品を買い込んでから、さらに西へ進んだ先にあるのが「多摩川緑地福生南公園」。広場や野球場、テニスコートなどが整備されており、川沿いの見晴らしも大変よく、地域の人々のレクリエーションに重宝されています。ランニングやサイクリングのための遊歩道も整備されているので、多摩川の豊かな自然を眺めながら体を動かせそうです。多摩川をまたぐ「睦(むつみ)橋」からの風景も広々&爽やか! JRの駅から十数分ほど歩いただけでこの景色です。
拝島駅周辺は、水と緑を体感する上で申し分ない環境。「米軍基地の街」という印象が強いですが、実際に降りて駅周辺を散策してみれば、中世・近世から現在まで続く深い歴史と、玉川上水&多摩川という豊かな「水辺」に彩られた自然豊かな街であることが分かります。見どころの多い「拝島」駅。1度訪れてみてはいかがでしょうか。
この記事の筆者:デヤブロウ プロフィール
都内在住の街歩きライター。Yahooエキスパートとして台東区の地域情報を発信するほか、「macaroni」など複数メディアで執筆を行う。飲食店、博物館、銭湯巡り、寺社探訪を中心に地域情報を発信中。東京シティガイド検定を取得済み。
(文:デヤブロウ)
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