「カワイイの基準」はなくならない。「見た目」に悩み続けた女性がルッキズムの呪いを解くまで
オールアバウト / 2024年10月15日 22時5分
渋谷駅に貼られた化粧品会社のポスターが、ルッキズムに反対しているようで助長しているとして炎上。女性はいつの時代も「見た目」に翻弄されながら生きている。実姉が地元でも評判の美人だったというある女性も、「見た目」に悩まされ続けた1人だ。
「#カワイイに正解なんてない」という化粧品会社の広告が話題になっている。
「私たちに必要ないカワイイの基準」として渋谷駅に、さまざまなポスターを展開、
【遠心顔 / 求心顔】黄金比に対して顔のパーツがずれていることを表す言葉。
【中顔面 6.5cm】目の下から唇までの長さのこと。小顔かどうかを判断する基準。
【出目】眼球の位置が比較的前にある目のこと。
など10項目が示され、「遠心」「求心」「中顔面」などルッキズムに関わる文字に取り消し線が引かれている。一般的に言われている「カワイイの基準」を羅列、それを打破していく方式だ。
「カワイイの基準」を結果的に示していると炎上
ところが掲出された場所が若者が渋谷だからこそ、「美の基準を示されていることでかえって落ち込む」といった声が続出。本来の意図である「#カワイイに正解なんてない」が霞んでしまう勢いなのだ。正解などないと言われても、こうやって基準があるではないかと若い女性は思いがち。人のコンプレックスを刺激してしまったのだろう。
いくつになっても、コンプレックスはそう簡単になくならないし、「自分は自分。これでいくしかない」と折り合いをつけられないうちは葛藤するしかないのかもしれない。
「ルッキズムはよくない」と言われれば言われるほど、人は「美」への執着を増していくともいえる。それはもはや子どものころからの問題となっている。
小学生の「体毛事情に関する調査」(2024年4月、鈴木ハーブ研究所)によれば、子どもがムダ毛を気にし始めるのは小学校4年生から。3年生まではムダ毛手入れをしているのは5~6%だが、4年生になると24%がしていると答えている。6年生では28%だ。
きっかけは本人が周りと比べて気づいたり友だちにからかわれたり、あるいは親が気にするケースもある。
世界を見渡せば「脇毛をはやしたままの女性」が増えている印象もあるのだが、日本ではやはりそういう状態は流行らない。「見た目」を気にする傾向が強いのだろうか。
「足して2で割れば、ちょうどいい」と言われた私
「同じ姉妹なのに、姉と私はまったく顔が違うんです。姉は地元でも有名な美人。誰が見てもキレイで利発だった。3歳違いの私は腫れぼったい一重の目、鼻筋のない鼻、丸顔。小顔で二重の大きな目をもつ姉とは比べものにならない。周りからもいつも比べられていたし、私自身、コンプレックスの塊でした。親でさえ、冗談交じりに『足して2で割れば、ちょうどいいのにね』と言っていた。姉は私に優しかったけど、それがまた同情からくるものだろうと思っていたから、私は性格もひねくれていきました」
過去をそう語ってくれたのはルリコさん(43歳)だ。姉は大学を卒業後、就職した会社で役員の御曹司に見初められ、26歳で結婚していった。
「もったいないなあと思いましたよ。あれだけの美貌なら、もっと独身生活を楽しめばいいのにって。私は結婚なんて考えていなかったから、自力で一生暮らしていけるだけの技術をつけようと思い、大学を出てから、とある国家資格を取得し、それを生かして就職しました」
姉は夫の女癖の悪さに苦しめられ、2年で離婚した。キレイな顔が歪むほど悩んだようで痛々しかったという。その後、実業家と結婚して2人の子をもった。夫の酒癖の悪さやら義母の意地悪やら、さまざまな「理不尽」に耐えながら現在も結婚生活を維持しているという。
結婚しても「子どもはいらない」と思っていたが……
「私は結婚する気はなかったけど、35歳の時に気の合う仲間から恋愛に発展した男性ができて、私なんかでいいのかなと思いながら結婚しました。彼が子どもがほしいと言った時、『私のようなコンプレックスを持たせなくないから、子どもはいらない』と伝えたんです。でも彼は『きみは、“いい顔”をした女性だと思う』と言ってくれて。長年の胸のつかえが下りたような気持ちでした。ああ、生きててよかったと思った」
2人の間に産まれた一人息子は、今年、小学校に入学した。世間から見て「不細工」かどうかは分からない。私にとっては誰よりかわいいし、真っすぐ育ってくれればそれでいいとルリコさんは言う。
「結局、姉はキレイだったがゆえにちやほやされ過ぎて、自分の意志をはっきり持てなかったのかもしれません。自分の美に翻弄されたのかもしれない。私は私で、今だってコンプレックスに苦しむことがありますよ。いくら夫が気にしなくても、自分は気になるから。
ルッキズムはよくないと言ったところでどうにもならないものがある。本当なら、私はもっとかわいく生まれたかった。そうしたら違う人生があったと思う。ただ、それを考えてもどうにもならないなと思うことが、大人になることなのかもしれないと今は感じていますね」
ルッキズムはよくないが、どうにもならない
美に関しては、自分なりにメイクに凝ってみたり、髪を艶やかに保つ努力をしたり、ファッションセンスを磨こうとがんばったりしてきた。そうやってコンプレックスと闘ってきた挙げ句、「私は私」に行き着いたのだという。「若いころは悩んで当然だけど、悩んだ先に何を見つけるかが重要なのかもしれません。悩まずにすむ人はそれでいい。人生というのは理不尽なものだって、早く気づいて対処できた人が、早く自分の生き方を見つけられるのかもしれませんね」
人がどう思うかではなく、自分がどう思うか、どうしたいのか。息子には、そういう価値観をもってほしいと彼女は真顔で言った。
<参考>
・「カワイイに正解なんてない」(ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング)
・「お子さまの体毛事情に関する調査」(鈴木ハーブ研究所)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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