年金法改正で「障害年金の対象者」は増える?
オールアバウト / 2024年10月25日 18時30分
令和6年7月30日に社会保障審議会(年金部会)で障害年金制度について久しぶりに話し合いが行われ、初診日要件、保険料の納付要件、受給者の保険料免除の取扱い、就労収入との調整など対象者拡大方向で検討されました。
障害年金とは?
障害年金は病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、20歳以上の現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。請求する傷病について最初に通院した日(初診日)に加入していたのが国民年金なら障害基礎年金、厚生年金なら障害厚生年金、障害手当金を請求することができます。障害年金請求の流れ
請求するには初診日の前々月までの間に一定期間年金保険料を納付していなければなりません。図は、障害年金請求の流れです(日本年金機構HP参照)。「障害認定日による請求」って?
初診日から原則1年半後の障害認定日の症状で障害等級が決まります。障害認定日の翌月分から障害年金の請求ができます。これを「障害認定日による請求」といいます(日本年金機構 令和6年度 障害年金ガイドより)。「事後重症による請求」って?
障害認定日の後、症状が悪化したときも「事後重症による請求」という形で障害年金を請求することができます(日本年金機構 令和6年度 障害年金ガイドより)。障害年金見直し、何を話し合っているの?
令和6年7月30日社会保障協議会(年金部会)では「障害年金における初診日要件」「障害が後日悪化して請求した場合(事後重症による請求)の年金支給開始時期」「初診日直近1年間の保険料納付要件」「障害年金受給者の国民年金免除取扱い」「障害年金と就労の調整」について話し合われました。1. 障害年金における初診日要件
年金部会で話し合われた「初診日要件」とはなんでしょう。図のように現在は、会社員(厚生年金加入)を退職後、国民年金加入中に傷病について初診日がある場合は、退職前にどんなに長く厚生年金に加入していても障害厚生年金の請求はできず、障害基礎年金のみ請求ができます。厚生年金は障害等級が1、2、3級、障害手当金があり、比較的軽い状態でも障害厚生年金を受けられますが、国民年金は重い障害である障害1、2級に該当した場合に障害基礎年金が受けられます。
そこで「長期要件」として老齢年金のように長期間厚生年金保険料を納付していれば、初診日時点で厚生年金加入中でなくても、また退職後でも一定期間内に初診日があれば、障害厚生年金が請求できるようになる「延長保護」が検討されています。
2. 事後重症の場合の支給開始時期
初診日から1年6カ月後の障害認定日に障害の状態が軽くても、その後症状が悪化した場合については、「事後重症」制度というものが適用されます。具体的には、65歳の前日までに、障害等級表に定める障害の状態になり、本人の請求があったときは、請求日に障害年金の受給権が発生するというものです。事後重症による請求で障害が認定された場合、請求の翌月から障害年金が支給されます。
障害等級に該当するに至った日が医師の診断書で確定できるなら、障害等級に該当した翌月までさかのぼって障害年金が支給されるように、年金部会では検討しています。
3. 年金保険料納付の直近1年要件
現行の制度として初診日がある月の2カ月前までの直近1年間に、年金保険料未納期間がなければ、保険料納付要件を満たしていると見なす特例があります。令和8年3月末まででしたが、令和18年3月末まで、この特例が延長される予定です(日本年金機構 令和6年度障害年金ガイドより)。
4. 障害基礎年金受給者の国民年金保険料免除の取扱い
昭和61年4月以降の年金大改正以来、障害基礎年金受給者(障害1、2級)は、国民年金保険料が法定免除となります。そのため65歳前に障害が軽減して障害基礎年金が支給停止された場合、法定免除期間については全額免除となり、65歳以降減額された老齢基礎年金を受給することになってしまうのが現状です。
障害が軽減し、障害基礎年金が支給停止された場合でも、障害基礎年金受給中の期間を保険料納付済み期間として計算して、65歳以降の老齢基礎年金が増額されるように検討しています。ただ現在の制度でも障害年金を受けながら年金保険料を納付している方もいるので、公平性が考慮されるでしょう。
5. 障害年金と就労収入の調整
障害年金は原則障害の等級にかかわらず、就労して給与収入などを得ても、減額されません。ただし、20歳前に初診日があり、障害基礎年金を受給している人が、一定額の所得(令和6年度472万1000円以下)を得ている場合、その間の障害基礎年金は支給停止になります。
障害の種別によっては診断書の更新時の就労状況に応じて障害等級の変更が行われることがあり、さらには年金の減額や支給の打ち切りもあるとのことです。同じ等級でも障害の種別によって、就労が障害年金の等級や認定基準に影響する場合としない場合があるのは、不公平とも考えられます。
医療の進歩により、同じ等級の障害年金が支給されている人でも、日常生活や就労への影響には差があるため、見直しが検討されているということです。もし障害年金と就労収入の調整を行うなら、いつの所得を見ていつの給付から調整するか、充分な検討が必要と思われます。
縮小が検討されている遺族年金と比較すると、障害年金はやや対象者を拡大する方向に検討されているようです。60歳未満の方も対象になり得る障害年金、幅広くさまざまな方の意見が反映されることを願っています。
文:拝野 洋子(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士)
銀行員、税理士事務所勤務などを経て自営業に。晩婚で結婚・出産・育児した経験から、日々安心して暮らすためのお金の知識の重要性を実感し、メディア等で情報発信を行うほか、年金相談にも随時応じている。
(文:拝野 洋子(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士))
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