東京メトロは上場でどう変わる? 新線建設、都営地下鉄との一元化…鉄道専門家の見立て
オールアバウト / 2024年10月27日 21時35分
10月23日、東京地下鉄(東京メトロ)が東証プライム市場に上場した。上場初日は、買い注文が殺到。初値は予想以上で順調な滑り出しだ。今後の東京メトロは、どう変わるのか、あるいは変わらないのか、考えてみたい。
10月23日、東京地下鉄(以下、東京メトロ)が東証プライム市場に上場した。IPO(新規株式公開)価格は1株1200円、上場後、買い注文が殺到してなかなか値が付かず、10時過ぎにようやく1630円という初値が付いた。まずは順調な滑り出しだ。上場後の東京メトロは、どう変わるのか、あるいは変わらないのか、考えてみたい。
購入希望者が殺到した東京メトロ株
東京メトロのIPOは予想以上に取り引き希望者が殺到した。個人投資家の場合は、競争率は15倍以上だったといわれている。筆者は東京メトロの沿線住民であり、日常的に利用しているので優待乗車券を活用したく、多めの株数で口座を持っている証券会社2社に応募した。しかし、当選したのは1口100株のみ。やや残念な結果だった。優待がもらえるのは200株からなので、早速上場初日に市場での購入を目論(もくろ)んだ。ところが、予想以上の初値だったので、寄り付き前の指値では購入できず、午後になってようやく1740円で約定(やくじょう)。なんとか当面の優待をもらえる権利は確保した。といっても、100株でもらえる優待乗車証(東京メトロ線に片道1回乗車できる乗車証)は半年で3枚と少ない。3月末の権利確定日までには、あと数百株購入したいと思っている。
株主優待&魅力的な配当利回り
東京メトロ株に個人投資家が殺到した理由は、優待もさることながら、鉄道株の中では配当金が高いことも挙げられる。年間配当金は、2025年3月期は1株40円を予定している(中間配当はしない方針)。10月24日の終値1702円で計算すると配当利回りは2.35%。鉄道株は、全体的に配当利回りは高くなく、JR東日本(東日本旅客鉄道)=1.74%、東急=1.20%、小田急電鉄=1.92%、阪急阪神ホールディングス=1.48%など1%台のところが多いので、JR九州(九州旅客鉄道)=2.35%と並んで魅力的ともいえる。優待は、株主優待乗車証が200株で3枚(半年分)、400株で6枚……1万株以上だと全線定期乗車証(有効期間中、東京メトロ線内を何度でも利用できる定期券)が1枚もらえる。
そのほか、ECサイト「メトロの缶詰」300円引きクーポン(3000円以上購入につき)、「地下鉄博物館」無料招待券5枚、「そば処めとろ庵」かき揚げトッピング無料券3枚、ゴルフ練習場「メトログリーン東陽町」入場無料券(平日限定)5枚といった関連施設での各種優待券が用意されている。ただし、魅力的に感じる人は少ないかもしれない。
上場後、東京メトロはどう変わるのか?
では、上場後の東京メトロはどう変わるのか、あるいは変わらないのか、考えてみたい。1. 新線建設の見通し
まずは、計画されている新線建設について。東京メトロは2030年代中ごろまでに、有楽町線の豊洲駅から東西線の東陽町駅を経て半蔵門線の住吉駅に至る支線の延伸開業を目指している。
東京メトロの株式の半分を保有していた東京都が、保有株式の半分を売却する条件として有楽町支線の建設を促進することを挙げていただけに、沿線自治体は歓迎ムードだ。東京都の売却益1600億円超の使い道は未定となっているが、そのうちのある程度が建設資金に回されれば、建設はスムーズに進むのではないか。
計画路線は、もう一つある。南北線の白金高輪駅から白金台を経て品川駅に向かう支線だ。リニア新幹線の起点、さらには羽田空港へのアクセス駅として脚光を浴びる品川駅だが、東京都内にあるいくつものターミナルのうち唯一、東京メトロが乗り入れていない駅なのだ。
この支線の開業によって東京メトロのネットワークは一層充実し、利便性も格段に向上する。資金調達の目途が立ちそうで喜ばしい。
2. 東京メトロと都営地下鉄の一元化
一方、東京メトロと都営地下鉄の一元化は当面棚上げになりそうだ。都営地下鉄の路線は、都内の“一等ルート”とはいえない区間が多く、東京メトロ(前身の営団地下鉄)の食指が動かなかったからこそ、東京都が税金を投入して建設を進めたものだ。民営化した東京メトロとしては、お荷物を背負い込みたくないであろうし、株主も敬遠するであろう。
しかし、都内に2つの異なる事業主による地下鉄が併存するのは、混乱を招くもとである。ましてや事情を知らない海外からの訪日客にとっては不便このうえない。せめて、運賃の共通化くらいは進めてもらいたいと思わずにはいられない。
3. 脱・鉄道依存は進むのか?
上場している鉄道会社の多くは、鉄道事業以外のウエイトが高く、旅客運輸収入が営業収益に占める割合は2割程度かそれ以下である。一方、東京メトロは8割台と高い。新型コロナウイルス禍で旅客収入が大幅に落ち込み、経営が苦しくなった経験を踏まえ、脱・鉄道依存、すなわち不動産や流通業に占める割合を高めようとしている。例えば、株主優待にもある「そば処めとろ庵」は店舗が少なく、大手町、錦糸町、新木場、西船橋など7店のみだ。
また、エキナカ(駅の中)あるいはエキチカ(駅の近く)の商業施設エチカ「Echika」もまだまだ少なく、あっても規模が小さい。エキナカに力を入れているJR東日本と比較すると、はなはだ物足りない。地上に広大な土地を持っているJRと異なり、地下がメインなのでハンディはあるものの、少しでも工夫して充実した駅施設にしてもらいたいものだ。
まだまだ開発の余地は残されている東京メトロ。上場を機に一層の発展を期待したい。
この記事の執筆者:野田 隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。(文:野田 隆)
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