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定年を迎えた両親が「熟年離婚」した理由とは? 仲良し夫婦が埋められなかった“老い方”の違い

オールアバウト / 2024年10月30日 22時5分

定年を迎えた両親が「熟年離婚」した理由とは? 仲良し夫婦が埋められなかった“老い方”の違い

子どもたちが高校生になったあと、二人で楽しそうに外出するなど、両親は仲が良いと思っていたのに熟年離婚した。話を別々にきいてみると、老後はのんびりすごしたい父と、趣味に仕事に華やかに暮らしたい母とではこの先一緒に暮らすのは無理だとわかった。

「熟年離婚」が少しずつ増えている。ある日突然、熟年の親が離婚したと聞いて、すでに大人になっている子どもたちはどう思うのだろうか。

「両親はうまくいっている」と思っていた

「うちの両親はずっと共働きでした。私は2歳違いの妹と4歳違いの弟がいるんですが、きょうだい3人はいつも仲がよかった。家には母方の祖母がいたので、それほど寂しいとも思わなかった。ただ、学校行事には母が来ると思っていたら父が来たり、父が来るはずだったのに母が来たりということはありました。

今思えば、二人で連絡をとりあってどちらかは必ず行こうと決めていたんでしょうね。スマホもなかったでしょうに、二人で頑張ったんだなあと思っていました」

フミさん(36歳)は、そう過去を振り返る。彼女自身も6年前に結婚し、一児の母となったがやはり共働きを貫いている。働いている母親がかっこいいと思っていたし、忙しくても母は常に、自分たちときちんと向き合ってくれたと感じているからだ。

「母はすごかった。『あとで』と言わない人でした。私たちきょうだいが一気に話しかけても、ちゃんと順番に話を聞いてくれる。話を流されたとか、ちゃんと返事が返ってこなかったという記憶もない」

母が残業し、父が早く帰ってくるように

フミさんが10歳のころ、同居していた母方の祖母が急逝した。その後は父が料理を作ることが多くなった。両親は家事を分担し、それ以前よりさらに忙しそうだった。

「父が少し働き方を変えたようでした。残業が減って早く帰ってくる日が増え、母の方が遅くなることが多くなった。二人は同じ会社だったから、いろいろ話し合ったんでしょうね」

両親はいつも仲がよかった。子どもが高校生になると、夫婦は二人でよく「デート」に出かけた。いつもバリバリ働いているであろう母が、唯一、甘えられるのが父なのではないかと大学生のころ、フミさんは感じていた。

子どもたちが成長し、妹も弟も独立したのが8年ほど前のこと。それでも二人は共働きを続け、60歳で定年になったあとも父は他社で、母は同じ会社で仕事を続けていた。

「私は結婚しましたが、妹は未婚のまま子どもを産み、弟は結婚して離婚しました。それぞれの人生、楽しんでよと母は何があっても笑っている。そんな母が好きでした」

仲良し夫婦が突然の離婚?

ところが半年ほど前、母から電話がかかってきた。いつもならLINEで連絡してくるのに、いきなり電話というのは珍しい。

「どうしたのと聞いたら、『お父さんが出て行っちゃった』と。父は再就職した会社でまた定年を迎えたんですが、それから1週間後のことでした。珍しくみんな集まってお疲れさま会をしたばかり。どういうことと聞いたら、『一人になりたいって言うのよ、お父さんが』と母は泣いてばかり。

父に電話をしてみたら、『もうお母さんとはちゃんと話し合ったから』と言うんですが、いや、泣いてばかりでよくわからないと言うと、ショックだったのかなあと父はのんびり言うんです」

フミさんは翌日、仕事を早めに切り上げて父に会った。父は妙にすっきりした顔をしていたと言う。

結婚生活を振り返り「重圧だった」と父

35年以上にわたる結婚生活がずっと重圧だったと父は語り出した。子どもたちが小さいころは忙しくて何も考えられなかったが、少しずつ手が離れていく中で、母は徐々に思い切り仕事をするようになった。それはいい。

子どもたちが家を出てからは、母は平日は仕事仲間と食事をしたり、仕事関係の会合などがあって家では食べなくなった。そのうち、週末も趣味の集まりに出かけるようになった。

「父はそんな母についていけなくなったようですね。もともと父は、家にいるのが好きなタイプ。お互いにもう仕事最優先ではなく、二人でのんびり過ごしたかったみたい。でも母は定年後、ますます仕事をして友だ付き合いも華やかになっていった。老いていくことへの考え方があまりにも違うと父は思ったんだそうです」

そんなとき、父の実家が空き家になって困っていると親戚から連絡があった。どうせならそこでのんびり田舎生活をするのも悪くないと父は思った。母に打診すると、絶対に嫌と言われたそうだ。

「離婚届を出す必要もないけど、いったん自分の人生にケリをつけたいと父は思ったそうです。だから離婚したい、と。お母さんが悪いわけじゃないと父は言っていたけど、寂しかったのかもしれませんね、父は。母は父に甘えてばかりいたから。とはいえ今さら私も両親を説得する立場でもないですから、父の意志を尊重すると伝えたんです」

「大丈夫だけど寂しいわよ」と涙ぐむ母

数日後、母を連れ出して食事に行った。母は涙ぐみ、「まあ、しょうがないわよね、お父さんがそうしたいなら。だけど思うのよ、私の結婚生活って何だったのって」と言いながらも、バクバク食べていた。

「この無神経さ、というかある意味でのたくましさが母の真骨頂なんでしょうね。一方の父はもっと繊細な性格だったんだと思う。父はずっと我慢してきたんだろうなと思いましたよ。だから『お母さんはひとりで大丈夫ね』と言うと、大丈夫だけど寂しいわよって本音を洩らしていました」

今も両親は元気だ。「大丈夫だけど寂しい」のではなく、母は「寂しいけど大丈夫」なのだとフミさんは確信した。父はもうじき実家へと旅立つ。都内から数時間なので、行き来はそれほどむずかしくはない。

「妹や弟も、両親の離婚は少なからずびっくりしたようですが、まあ、二人の問題だからと静観しています。二人とも心身が弱ってきたら、また考え直す時期がくるのかもしれませんね」

両親のことには口を挟まないと決めているものの、仲良く見えた両親の裏の気持ちを知ったフミさん。「本音を話し合っておくことも大事だよね」と夫と再確認しているようだ。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))

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