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酷評を浴びたドラマの映画版『アクマゲーム』に「悪くない」感想が上がるワケ

オールアバウト / 2024年10月31日 21時25分

酷評を浴びたドラマの映画版『アクマゲーム』に「悪くない」感想が上がるワケ

厳しい評判と視聴率となったドラマ版『アクマゲーム』の問題と、上映中の映画版には好意的な評価が寄せられている理由などをまとめます。そこには、今後の漫画の実写化作品が反面教師にするべきポイントがたくさんあったのです。(※サムネイル画像は筆者撮影)

『劇場版 ACMA:GAME(アクマゲーム) 最後の鍵』が10月25日より劇場公開中です。

申し訳ないですが、まずはネガティブな話題から語らなければならないでしょう。今回の映画の前に放送されていたドラマ版の評判はかなり悪く、視聴率も大苦戦を強いられていました。

そもそも原作漫画の面白さはどこにあったのか、ドラマ版のどこが具体的によくなかったのか、そして映画版には好意的な評価が寄せられている理由などを、原作者の投稿も交えながらまとめます。

そこには、今後の漫画の実写化作品が反面教師にするべきポイントがたくさんあると思えたのです。なお、主たる問題は後述する理由で、ドラマ『セクシー田中さん』の件はまた別種のものであることも、主張しておきます。

ドラマ版は気合の入った大型プロジェクト、のはずだった

2024年4月から6月まで放送されていたドラマ『アクマゲーム』(日本テレビ系)の評価はFilmarksでは5点満点中2.8点、Amazonの視聴ページでも5点満点中2.3点(記事執筆時点)で、レビューサイトでは酷評が目立ちます。視聴率は初回から5.7%と低調で、その後もほぼほぼ右肩下がりで最終回の第10話は2.9%まで落ち込み、日本テレビの「日曜ドラマ」枠としては過去最低クラスの数字となっていました。

ドラマ化の発表時には「日本テレビが全世界に向けて自信をもって届けることができる超大型プロジェクト」などとも銘打たれていました。主演の間宮祥太朗を筆頭に豪華キャストが集い、制作には日本最高峰のVFX技術を誇る「デジタル・フロンティア」が参画。実際にそれらの魅力はできあがった作品に確かにあり、気合の入った企画だったはずです。

しかし、そのドラマ版は詳しくは後述するように、「整合性が求められるはずのゲームおよび物語部分がチグハグで、納得できないが多い」ことを筆頭にして、あまりに問題の多い内容となっており、せっかくのいいところも台なしに。作り手の熱意が空回りして、全体的にもはっきり出来がよくないと、原作漫画の大ファンだった筆者個人としても認めざるを得なかったのです。

映画は好評の声も多く寄せられる結果に

今回の映画も325館という大規模公開ながら興行ランキングでは初登場4位と、お世辞にもいいとは言えない興行成績となっています。しかし、評判そのものはドラマ版に比べると「悪くない」程度に落ち着いていることにも、ぜひ注目してほしいのです。

実際にFilmarksでは5点満点中3.4点、映画.comでも5点満点中3.4点と、否定寄りに傾いていたドラマ版よりもかなり高スコアであり、もちろん厳しい感想も散見されるものの、「ドラマ版より分かりやすいし面白かった」「最後は不覚にもウルっときた」といった好評の方が多い印象です。

筆者個人としては、ドラマ版に引き続き問題を感じる部分は残っているものの、改善または目立たなくなっており、原作漫画から大幅にアレンジした物語や世界観がしっかりと収束していく、見どころの多い完結編だったと思います。そのため、「ドラマ版を最後まで見たけどがっかりした」という人も、ぜひ映画まで付き合ってみることをおすすめします。

なお、今回の映画はドラマ版の終わりからそのまま続く物語で、これまでのキャラクターの関係性や展開を踏まえた内容かつ、おさらいとなる説明もほとんどないため、「一見さんには優しくない」内容であることは申し上げておきます。とはいえ、ゲームの内容や物語の進む方向性はかなりシンプルなので、映画からいきなり見ても最低限のことは楽しめるでしょう。

さらに余談ですが、同作のプロデューサーである岩崎広樹による『WEBザテレビジョン』のインタビュー記事によると、そもそも『アクマゲーム』は「映画とドラマを合わせてスケールアップすることで動き出した企画」であり、ドラマの企画決定と同時に映画化も決定していたのだとか。

初めに企画書を書いたときは連続ドラマのみの企画だったものの、「世界観を実現するには大型作品としてVFXやセット美術に予算投下をする必要がある」「スクリーンサイズで見ていただく方がより面白くなる」ことから、映画につなげるために連続ドラマを設計していくというプロセスがあったそうです。その言葉通りに、映画館のスクリーンで映える画や展開も、確かに用意はされていました。

確かなロジックと荒唐無稽さが両立していた原作漫画の魅力

『アクマゲーム』の原作漫画の魅力を簡単に説明しておきましょう。基本的にはほぼ強制的に「賭け」をさせられる「ゲーム」を主軸とした作品で、そのプレーヤーはゲーム中のみ「悪魔の能力」を使うことができます。

乱暴な言い方をすれば、頭脳戦と心理戦が展開する漫画およびドラマ『ライアーゲーム』などの「ギャンブルもの」や「デスゲームもの」に、『ジョジョの奇妙な冒険』のような超能力バトルを組み合わせた内容です。

ゲームそのものはシンプルな駆け引きや身体能力が求められるものから、時には複雑なルールが説明されるため理路整然とした攻略方法が求められるものまでさまざま。そこに「悪魔の能力」という「反則気味な」「現実な離れした」(時には役に立たない?)要素が加わっていることも魅力的です。クセの強いキャラクターの掛け合いや、予想外の方法の攻略方法など、グイグイと引き込むケレン味のある展開こそが面白い作品でもありました。

つまりは、ゲームの展開に納得できるロジックをしっかり守り切ること、荒唐無稽さや現実から誇張された要素、その両方が求められるので、そもそも実写化が難しい題材とも言えるのです。

ドラマ版にあった、あまりに多い問題点。楽しむコツは原作者の感想?

そんな原作漫画をドラマ化する方法論として、ドラマ版は第1話からいきなり失敗していると思えました。

漫画の主人公「織田照朝」は「悪魔のカギ」というアイテムを初めて知って、そのまま理不尽なゲームに強制参加させられ、「巻き込まれる」「翻弄される」姿が読者の感情と一致していたのですが、ドラマ版では「悪魔の鍵の秘密を求めて世界を放浪している」ため「途中から始まる」ような印象が強く、さらにはゲームが始まるまで20分以上もかかるため、第1話から「入り込みにくい」構成になってしまっているのです。

さらなる問題は肝心のゲーム部分で、第1話の「部屋が極寒のはずなのに息が白くなっていない」作り込みの甘さはまだ許容できたとしても、頭を抱えたのは「原作よりもさらにもう一つどんでん返しを加える」という欲が出た結果としての強引さです。

特に第3話での「それはできちゃダメだろ!」と思うほかない展開に加え、最終話となる第10話では「その単語は口に出してなかっただろ!」「その単語を選んであの判定になるワケないじゃん!」とさらに白けてしまいました。第8話に至っては、なんとゲームの過程そのものを省いてダイジェストにしてしまう有様だったのです。

そのような具体的なドラマ版のツッコミどころは、漫画の原作者(作画ではなく物語担当)のメーブ先生のX(Twitter)のポストを見てみるといいでしょう。実際にドラマ各話の視聴後にメーブ先生の感想を読むとめちゃくちゃ楽しめます。

メーブ先生は「僕はこのドラマを本当に毎週楽しみにしているのよ。毎週感想を書く前に3回は観るし、最終的に各話10回は観てる」とも投稿しており、途中まではドラマ版をツッコミどころを含めて楽しんでいたことも伝わるのですが……第7話からはかなり批判モードになってしまっていますし、前述した第10話の問題にも容赦のないツッコミを入れています(いずれもネタバレ注意)。
はっきり言えるのは、「ツッコミどころがあっても許されるタイプの作品」は世の中にはありますが、『アクマゲーム』という作品ではそこを絶対におろそかにはしてはいけなかったということ。

確かに、原作漫画にもやや無理のある展開はなくはなかったのですが、それでも緻密なロジックを土台にゲームを構築しているからこその面白さがありました。反面、ドラマ版は原作から足した部分や改変の多くが納得できないものになっており、それらのツッコミどころの全てが「どうでもよくなる」ほどに強引でずさんなものだと思いました。

原作の改変そのものが問題ではない

前述したようにドラマ版を初めは楽しく見ていたはずのメーブ先生も、次第に厳しい意見を投稿するようになり、「一度情報をしっかり整理してほしい。漫画と設定を変えてもいいんだけど、それで矛盾が発生して、その矛盾がキャラの心情すらも分からなくさせてしまっている気がします」とはっきり批判をしています。全くその通りで、問題は「原作を改変したこと」そのものではないのです。

なぜこんなことになってしまったのか。どうしたって推測の域は出ませんが、「作り手同士の連携がうまく取れていないのではないか?」と思わせるところがあります。例えば第7話では、見た目では麻雀のような「手牌」に見えるものが「手玉」と呼ばれており、おそらくは美術の都合上で名前を変えるべきところがそのままになっており、こちらもまたメーブ先生が指摘しています。

脚本の段階から問題があったことももちろん考えられますが、ドラマ化の発表時には「脚本家と監督と1年以上かけて脚本を練り上げた」ことも記されていますし、脚本の問題だけでここまでの整合性に欠けた内容になるとは、さすがに考えづらいのです。原作から改変したことでの未整理の情報や矛盾について、脚本会議や撮影現場で「これはおかしい」と問題点を指摘する人がいなかったのではないか、はたまた指摘されてもそのまま進めてしまったのではないか。そのような背景が作品そのものから想像できてしまいます。

なお、メーブ先生は、Xのポストの批判が視聴者からの「『セクシー田中さん』の件から何も学んでない」という憶測も含めて記事化され、その他にもネガティブキャンペーン的な動画が拡散されたことについて「僕は過去のポストで、『セクシー田中さんの件や芦原先生について、憶測で私見を述べることはしません』と明言してます」「そんな人間のポストを利用して、当の漫画やドラマも確認することなく、セクシー田中さんの件に絡めて『時事ニュース』と称して動画をつくる。倫理観どうなっとるんや?」などと、「炎上させようとする」姿勢そのものを批判しています。

これもまたその通りで、メーブ先生はドラマ化について「全部お任せした結果、よいものが出来たかどうかは視聴してくれた方の評価で決まるのかなと思います。そのときは僕もただのいち視聴者です」と投稿したこともあります。

『アクマゲーム』の企画は『セクシー田中さん』の問題発覚より前に進行していましたし、原作からの改変で脚本家と原作者の衝突があり、さらに最悪の結果を招いた『セクシー田中さん』とはまた別種の問題であることは明白なのです。

批判を浴びたドラマ版、それでもいいところはあった

ここまで問題点を記してきましたが、もちろんドラマ版にはいいところもたくさんありました。実写化をする際に一番のハードルの高さとなる「悪魔」のVFXはハイクオリティーでしたし、豪華声優陣の演技もあって悪魔それぞれのクセの強さも含めて印象に残ります。オリジナル要素の解説役として「おろち」というかわいいAIのサブキャラター(声は人気声優の花澤香菜)を据えていたのもよかったです。
ドラマとしての演出は「特撮もの」のようなケレン味があり、役者陣の極端な演技演出も含めて賛否を呼んでいましたが、個人的には漫画らしい極端さが作品にマッチしていたと思います。特にギャンブラーの「上杉潜夜」役の竜星涼は、いい意味で時にイラっとする言動も含めて原作の印象そのままの好演でした。

また、ドラマ版の第4話はゲーム内容は原作漫画にほぼ忠実で、対戦相手の「長久手洋一」役の桐山漣の熱演や、仲間となる田中樹演じる「斉藤初」のサブエピソードも感情移入しやすく、しっかりしたクオリティーのものになっていました。メーブ先生もこの回は楽しめたと感想を投稿しています。

映画では現実を見据えた志の高さも

その上で、筆者個人は今回の『劇場版 ACMA:GAME(アクマゲーム) 最後の鍵』をとても楽しめました。状況がどんどん悪くなり、悲壮感と絶望感が強くなっていっても、主人公と仲間たちが諦めない流れには引き込まれますし、原作ファンとしては「あり得たかもしれないifのラスト」を見届けたような感慨があったのです。

やや無理のある、強引な展開もありますが、ゲームそのものがテンポよく展開することもあってドラマ版よりも気になりませんでした。何より、とある「能力」の解釈が、人間そのものへの希望のメッセージにつなげる様には、なかなかの感動があったのです。

また、岩崎広樹プロデューサーは、WEBザテレビジョンのインタビューにて、佐藤東弥監督とこの作品で何を描きたいか、という話をした時に、「今このタイミングで実写化するなら人間同士の争いをどうしたら止められるだろうかということもドラマの要素として描きたい」という話が上がったことを告げています。

実際に今回の映画では、「ウクライナやイスラエルの情勢、世界中で絶えず争いが起こり続ける現実」を踏まえ、人間としての希望を提示するという、志(こころざし)の高さが表れていました。

結果としてドラマおよび映画『アクマゲーム』は商業的に失敗したプロジェクトであることは認めざるを得ないですし、前述してきた作品上の問題もとても大きなものですが、作り手には間違いなく熱意があったこと、いいところもたくさんあったのも事実です。何より、ドラマ版の散々な評価からすれば、映画は有終の美を飾る……とまでは言わなくても、その完結編および、一つの娯楽作品として求められるクオリティーを十分にクリアしていたことは称賛したいのです。

何より、このドラマおよび映画『アクマゲーム』の反省を生かして、これから先に良き実写化作品が生まれることを、何よりも期待しています。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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