迷うのは無意味だった!? 「冷湿布か、温湿布か」効果の違い【薬学部教授が解説】
オールアバウト / 2024年10月31日 20時45分
【薬学部教授が解説】冷湿布と温湿布はどちらが効くのでしょうか。「炎症を抑えるために冷やすべき」「血行をよくするために温めるべき」という声もありますが、実はどちらも効果に違いはありません。分かりやすく解説します。
Q. 冷湿布と温湿布はどちらが効きますか?
Q. 「冷湿布と温湿布はどちらが効きますか? フットサルで足首をひねってしまい、熱を持っているなら冷やした方がいいだろうと冷湿布を貼っていたのですが、チームメイトには血行をよくするべきだから温湿布の方が効くんじゃないかと言われました。どっちの方が早く治るのでしょうか?」A. 実はどちらを選んでも同じです。冷感・温感は皮膚の「錯覚」なのでお好みで
捻挫も含め、慢性的な肩こりや、急な腰痛に、市販の湿布はよく使われているようです。一方で、ドラッグストアの売り場で、「冷湿布」と呼ばれる冷感タイプの湿布と、「温湿布」と呼ばれる温感タイプの湿布のどちらが効くのか、迷う人は多いでしょう。チームメイトのかたの指摘のように、一般論として「冷湿布は熱や痛みを抑える効果があり、温湿布は血行を良くする効果がある」といった説明を耳にすることがありますが、実は薬学的にはこれは誤りです。結論を言ってしまうと、冷湿布と温湿布のどちらを使っても、患部の「温度」はまったく変わらないのです。
冷湿布を貼ると患部がひんやりするのは、主に「メントール」という成分が入っているためです。メントールは食べるとスーッとするので、口臭対策用のガムやリップクリームなどにも入っています。香りづけを目的としてタバコなどに添加されていることもあります。
メンソールに触れると肌がひんやりするのは、皮膚のすぐ下にある感覚神経の温度受容器にメンソールが作用し、「冷たい」という錯覚を生じるからです。感覚としては「冷たい」のですが、実際の皮膚温度はまったく変わりません。
温湿布を貼ると患部がほんのりと温かい感じになるのは、主に「カプサイシン」という成分が入っているからです。カプサイシンは、唐辛子の成分です。人体で温度センサーのような役割を果たしている「TRPV1」という分子が刺激されることで、灼熱(しゃくねつ)感を生じます。
カプサイシンは食べると「辛い」と感じますし、皮膚に触れると皮膚のすぐ下にある感覚神経が刺激されて「温かい」と錯覚するのです。しかし、実際の皮膚温度が変わるわけではないので、血流がよくなることはありません。
どちらも直接冷やしたり温めたりする効果はないので、好みで選べばよいのです。メンソールやカプサイシンが入っていない湿布でも、痛み止めとしての効果は同じです。
湿布に含まれていて痛みを和らげる効果を発揮するのは、「消炎鎮痛成分」と総称される薬です。サリチル酸メチル、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、フェルビナク、ジクロフェナクなど多くの種類があります。
さまざまな会社から異なる成分の製品が販売されていますが、作用機序はほとんど同じです。差を意識する必要はありません。
結局のところ、ご自分がいいと思うものを使うのが一番で、効果の差を考えての悩みは無用です。薬の「プラセボ効果」はよく知られているものですが、痛み止めの湿布にも、貼ることで安心する、ある意味「お守り」のような心理的効果もあると考えられます。
ただし、市販の湿布を使っても症状の改善が見られない場合、治療が必要なけがや、別の病気が隠れている可能性もあります。自己判断せずに、一度専門医に診てもらうことをおすすめします。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))
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