正社員を辞めて「収入が2倍」に。新法施行に注目が集まるフリーランス、妊娠や出産への懸念を聞いた
オールアバウト / 2024年11月4日 21時25分
11月からフリーランス保護新法が施行される。新法には、取引の適正化に加え「妊娠、出産・育児介護への配慮」が盛り込まれていることも話題に。フリーランスで働くアラサー女性に話を聞いた。
11月からフリーランス保護新法が施行される。新法には、取引の適正化に加え「妊娠、出産・育児介護への配慮」が盛り込まれている。特に新法に期待を寄せているのは、ライフスタイルの変化の大きい女性だ。フリーランスで働くアラサー女性に話を聞いた。
会社員からフリーランスになって収入が2倍に
「会社員からフリーランスになって収入が2倍になりました」こう話すのは、マイカさん(仮名/30代/シナリオライター)だ。彼女は2018年から2年間、ゲーム会社の正社員として働いたのち、シナリオライターとして独立。現在は週4日での在宅ワークと、週1日の出社で生計を立てている。
マイカさんがフリーランスになったのは、会社の業務内容に対する不満がきっかけだった。
「シナリオライターとして入社したのに、ふたを開けてみたら、プランナーの仕事を任されたんです。『言ってたことと違うじゃん!』って。それで2年後にフリーランスに転向することにして」
退職後、マイカさんはフリーランス向けのエージェントに登録し、シナリオライターの案件を紹介してもらったという。
「ちょうど自分がやりたかった案件があったのでラッキーでした。保険料や年金などを差し引いても、手取り収入は倍になって。正社員で働いていた会社は、どれだけ残業をしても、”みなし残業”だったこともあり、給料が全く上がらなかったんです。今はフリーランスだけど、エージェントが間に入り、苦手な金額交渉をやってくれて助かっています」
「収入がアップして自分に自信がついた」と語るマイカさんだが、今後フリーランスで働くことに対しての不安もある。
「社員のような保証はないので、体調を崩したとしても休みづらい。仕事をしないとお金にならないですからね。収入が増えてもそこの不安はあります」
さらにこんなフリーランストラブルも。
「私はエージェントを介しているのでトラブルはないのですが、知り合いに、突然会社の事情で”次の案件なくなったよ”と告げられた経験をした人もいるようです。会社員と比べると、フリーランスは不当な扱いを受けることが多いと思う」
未経験から”手に職”のエンジニアへ。出産や育児に対する不安も
フリーランスに転身し、収入アップややりがいを感じる一方で、不安を口にする人はほかにも。「航空業界からフリーランスのITエンジニアになりました」
こう話すのはミキさん(仮名/30代/ITエンジニア)だ。彼女はマイカさんのように、会社員時代と同業種でフリーランスになったのでなく、全くの異業種である航空業界からフリーランスのITエンジニアになったという。現在はフルリモートで週4日の仕事に従事している。
「前職では自分になんのスキルも身についていないのではないかと不安になることがあって。30代を前に”手に職”をつけたいなと思いはじめました」
そうして見つけたのが、フルリモートで仕事が可能なITエンジニアだった。ほぼ独学で知識を身に着けたという。
ミキさんは現在、フルリモートの仕事とプライベートを両立させている。「”手に職”で長く働きたい」と語るが、フリーランス3年目になった今、今後のライフプランについて考えるようになった。
「現状としては理想の働き方を実現していますが、今年結婚し、子どものことを考えるようになりました。でも一歩踏み出せない気持ちです」
心配なのは収入面に加え、「妊娠や出産により案件が打ち切られてしまう可能性」だと話す。
増加するフリーランス人口
10月30日、レバテックがフリーランス保護新法の施行に先駆けた女性IT人材向けキャリアイベント「レバテックMe conference」を開催した。イベント参加者はフリーランスとして働く女性やフリーランスを検討中の女性で、上記のマイカさん(仮名)とミキさん(仮名)もイベント参加者である。マイカさんはイベントへの参加理由として「フリーランス同士で会える場は少ないので、参加して情報交換してみたいと思った」と話す。
マイカさんやミキさんのように、フリーランスを選択する人の数は年々増加している。同社によると、2023年のフリーランスの案件希望者数は、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年から比較し約3.8倍と著しく増加しているという。
ITソリューション事業部部長で一般社団法人ITフリーランス支援機構副理事の小池澪奈(こいけれな)氏は「フリーランスを選択する人の年齢層は幅広いが(同社に登録しているユーザーの)全体的な傾向として女性は30~40代が多い」と話す。
マイカさんやミキさんのように、20代で会社員を経験したのち、収入アップやプライベートと仕事の両立、手に職をつけたいなどの理由で30代以降にフリーランスを選択する女性は多い。しかし、案件の打ち切りや未払いなどのトラブル、出産など女性ならではのライフスタイルの変化に対する不安もあるのが実情だ。
内閣官房の「2020年フリーランス実態調査結果」によると、業務委託を受けて仕事をしているフリーランスのうち、約4割がなんらかの取引先とのトラブルを経験したと回答している。
フリーランス新法が11月から施行
女性がキャリアについて考えるタイミングと結婚や出産、育児などのライフイベントは重なりがちだ。会社員に比べると場所や時間の融通が利きやすいフリーランスは、育児との両立が可能。キャリアを継続させる上で有効な選択肢となる。しかし、育児の前段階の妊娠や出産で、キャリアが途絶えてしまう不安が残る。前述の小池氏は「出産に伴う女性の離職やビジネスケアラーに伴う経済損失は日本の大きな社会課題となっている」と語る。
2024年11月から施行されるフリーランス保護新法には「取引の適正化」に加え、「妊娠、出産・育児介護への配慮」や「ハラスメント防止措置義務」などが盛り込まれている。新法に期待を寄せているのは、マイカさんやミキさんのような30代女性だ。
ミキさんは「フリーランス新法によって、妊娠や出産にも前向きになれることを期待する」と語った。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
(文:毒島 サチコ)
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