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映画『アット・ザ・ベンチ』の“尊さ”から、実写版『秒速5センチメートル』への期待がさらに高まった理由

オールアバウト / 2024年11月14日 20時15分

映画『アット・ザ・ベンチ』の“尊さ”から、実写版『秒速5センチメートル』への期待がさらに高まった理由

2025年秋公開予定の実写映画版『秒速5センチメートル』でメガホンを取る奥山由之監督は、11月15日公開のオムニバス映画『アット・ザ・ベンチ』も手掛けています。作品の特徴や魅力、そして『秒速5センチメートル』との共通点を記しましょう。(※サムネイル画像出展:(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.)

松村北斗主演の実写映画版『秒速5センチメートル』が 2025年秋公開に公開予定です。その前にぜひ見てほしい、11月15日公開の映画『アット・ザ・ベンチ』を紹介しましょう。

監督は、米津玄師やサカナクションのMVも手掛けていた

2007年に公開されたアニメ映画『秒速5センチメートル』は根強い人気を誇っており、後に『君の名は。』で国民的作家となる新海誠監督の「センチメンタルだけど優しい」作家性が濃密に表れた作品です。
同作はファンタジーやSF要素は少ないため実写映画化がしやすいという意見がある一方、表現手法が異なるアニメから実写化への不安の声も見かけました。

その実写映画版『秒速5センチメートル』を手掛けるのは奥山由之監督。米津玄師の『KICK BACK』やサカナクションの『スローモーション』など有名アーティストのミュージックビデオを手掛け、高い評価を得ているのです。
そして、今回の奥山監督作『アット・ザ・ベンチ』を見ると、「この監督なら実写映画版『秒速5センチメートル』は大丈夫どころじゃない、素晴らしい作品になるのは間違いない!」と確信できたのです。
その理由および作品の面白さを、本編の内容に触れつつ、かつ決定的なネタバレは触れないように5つのポイントから記していきましょう。なお、11月15日より公開の劇場はテアトル新宿、109シネマズ二子玉川、テアトル梅田と3館のみ。それ以降、公開予定の劇場も少ないので、ぜひ公式Webサイトの劇場情報をチェックしてください。

1:豪華キャストが「古ぼけたベンチで話し合う」ことが面白い!

『アット・ザ・ベンチ』は短編5編のオムニバス映画で、総上映時間は86分とタイト。その時点から、短編3編で構成され、総上映時間が63分だった『秒速5センチメール』と、どことなく似ている感覚を抱く人もいるかもしれません。

そして、本編の内容は「古ぼけたベンチで話し合うだけ」と言っても過言ではありません。そんな映画が面白いの……? と疑問に思う人もいるでしょうが、実際に見ると退屈する暇がいっさいないほどに面白いのです!

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
理由は「会話からその人の世界や価値観が広がる」ことに加えて、さらに後述する大きなテーマが浮かび上がってくるから。

また、「ベンチと人間を映しているだけだと画(え)は地味では?」とも思う人もいるでしょうが、ベンチを取り巻く風景がとても美しく撮られており、数々のメリハリのある演出がされ、さらには(特に第4話での)大胆かつ予想外の作劇もあって、全く飽きることはありませんでした。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
さらなる魅力は、自主制作映画とはとても思えないほどの豪華なキャストが集結していること。それぞれにマッチした役どころと熱演に、時に圧倒され、心から共感し、見惚れることができるでしょう。

ここからは、ネタバレにならない範囲で内容の紹介をしていきます。それぞれの脚本家の名前もぜひチェックしてほしいのです。なお、(アニメ映画の)『秒速5センチメートル』の核心的な要素にも少し触れているので、そちらを未見の人はご注意ください。

2:第1話は「久しぶりに再会する幼なじみの男女の話」

第1話の出演者は広瀬すずと仲野太賀。恋人ではないけど親友といえるほどに仲がいい幼なじみの男女が「元々は公園だった場所で、ただ1つのベンチが残された理由」について語っている最中で、公園やベンチを「擬人化」しているような物言いが面白く、また尊い内容でした。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
例えば、「(公園がなくなる)前兆はあったはずなんだよ。それに気づけなかった」「悲しませたくなかったんだよ。公園には公園なりの気遣いがあった」「公園のそういうところ、嫌いじゃなかった」といったような何気ない会話です。

とても気が合うけれど、どこか本音を隠しているようにも見える2人が、会話の中で少しずつ関係性が変化しているように思えるのも見どころ(聞きどころ)なのです。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
脚本を手掛けたのはテレビドラマ『silent』(フジテレビ系)が絶賛を浴びた生方美久。後述する第5話でも脚本を務めており、その男女の会話や心の機微を描く作家性が、このエピソードでもいかんなくはっきりとされていました。

3:第2話は「昼下がりのカップルと不思議なおじさんの話」

第2話の出演者は岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々。内容ははっきりとコメディーです。まずカップルの会話で、女性の方から「別れてみる?」といきなり提案して、とある突飛な「例え」を繰り出し、それに対して男性が「ツッコミ」をする一連の流れは、舞台で見るコントのよう。なおかつ映画という媒体だからこその「自然さ」も担保されていました。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
そのカップルの会話を、後ろから知らないおじさんが聞いている(見ている)という状況もまた笑いを誘います。もちろんおじさんはただ聞いているだけだけなく、とある「割り込み方」をするのですが……そこからの展開(ボケとツッコミ)もまた予想外かつ、ある意味では「確かに」と納得できるものもあり、大笑いできました。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
脚本家は8人組ユニット・ダウ90000主宰のお笑い芸人であり、公演の演出も手掛けている蓮見翔。作品のインスピレーションを得たものとして、友人との会話やファミレスで聞く隣の人の会話などがあったそうです。そんな「日常的にあり得る」おかしみを作品に昇華できるタイプの作家なのだと思えました。

4:ネタバレ厳禁、まさかの展開も!?

第3話以降の内容も簡単に記していきましょう。

第3話は「家出をした姉とそんな姉を探しにやってきた妹の話」で、出演者は今田美桜と森七菜。エピソードの冒頭から「怒鳴り合っている」勢いのある内容ながら、やがてそれぞれが抱えている悩み、はたまた矛盾が見えてくる、全エピソードの中で最も切実な内容でした。脚本は映画『もっと超越した所へ。』などの根本宗子です。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
第4話は「ベンチの撤去を計画する役所の職員たちの話」で、出演は草なぎ剛、吉岡里帆、神木隆之介。職員2人が目の前のベンチの寸法を測ったりする中でボケとツッコミが応酬する、第2話に負けず劣らずコメディー色が強い作品なのですが……それ以降の展開はネタバレ厳禁! 3人の出演者、特に草なぎ剛の個性や「らしさ」が生きた役どころにも大いに注目です。

脚本を担当したのは監督の奥山由之自身なのですが、これまでで最も「攻めた」内容であることにも驚きました。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
第5話では、第1話の幼なじみの男女、広瀬すずと仲野太賀がもう一度登場します。具体的な内容は秘密にしておきますが、後述する通り、この第5話にこそ「この監督なら実写映画版『秒速5センチメートル』を成功できる」と確信できた理由があったのです。

5:『秒速5センチメートル』との共通点は「寂しさ」

この『アット・ザ・ベンチ』で掲げられた大きなテーマであり、かつ(アニメ映画の)『秒速5センチメートル』との何よりの共通点は「寂しさ」を描いていること、もっといえば寂しさを「それでもいいんだ」と肯定していることでしょう。

『アット・ザ・ベンチ』の第1話では(第5話でも)公園がなくなりただ1つだけ残ったベンチに向けての思い入れを語り、さらにはその寂しさはただ悲しいだけではないということを、はっきりと(でも細い希望のように)主張しているのです。

(C)2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
『秒速5センチメートル』の内容は小学生、中学生、社会人の3つの時代を描くという、それだけを取り出せば『アット・ザ・ベンチ』とは異なるものです。しかし、やはりそれぞれのエピソードにおける「すれ違い」や「別れ」の切なさ、「思い出」の尊さ、そこから主要登場人物2人のさまざまな感情が垣間見える様は、両者で一致しているように思えたのです。

それだけでなく(前述してきた通り『アット・ザ・ベンチ』はエピソードそれぞれで脚本家が異なりますが)、人間の愛おしさや優しさを、美しい風景をもって描くことに、奥山由之監督と新海誠監督には似た作家性があると確信できたのです。アニメと実写で表現方法が異なったとしても、その「芯」を外さないことは、その共通する作家性、あるいは相性のよさからも、「間違いない」と思えたのです。

さらに、奥山監督は公式Webサイトのコメントにて「東京という街は、いつだってうねるように、まるで生き物のように、部分的な変化を続けている。便利になったり、きれいになったり、もちろんいいこともあるのだけれど、いつの間にかなくなってしまう景色を懐かしむ間もなく、記憶は塗り替えられてしまう」などと、やはり実体験に基づく寂しさを(それだけではない散歩コースで実際に見かけたベンチへの思い入れも)語っています。

そんな『アット・ザ・ベンチ』の舞台は、東京・二子玉川の川沿いにあるベンチ。新海誠監督もまた『秒速5センチメートル』のみならず、『君の名は。』や『天気の子』で東京という街(都会)をいつくしむように描いているので、「東京への思い入れ」も両監督は似ているのかもしれません。

2024年には「寂しさ」を肯定する名作が他にも公開

また、くしくも2024年は、他にも『秒速5センチメートル』と『アット・ザ・ベンチ』につながる、寂しさを描く映画が公開され、絶賛を浴びています。
それは、4月に公開された24年間すれ違い続ける男女の姿を描く『パスト ライブス/再会』と、11月8日より公開中の犬のロボットの友情をつづったアニメ映画『ロボット・ドリームズ』です。

どちらも、長い時間、離れ離れになる切なさをはっきりと描きつつも、それがあってこその「経験」「過去」「未来」をネガティブなものとしては捉えていない、いやはっきり肯定している映画といえるのです。こちらもぜひ、併せてご覧になってください。

※草なぎ剛の「なぎ」は、弓へんに前+刀が正式表記

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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