小中学生の9人に1人が?「発達障害」と診断を受ける子が増えている3つの背景を専門家が解説
オールアバウト / 2024年11月15日 20時45分
近年、発達障害(神経発達症)の診断を受ける子が増えている。一見すると障害の発生率が急増しているようにも見えるが、実際はどうなのだろうか。診断数増加の背景について解説する。
文部科学省が2022年に行った調査によると、公立小中学校の通常の学級には、学習面・行動面に著しい困難さを示す児童生徒が8.8%いると報告された(*)。2012年の同調査では6.5%であった。
一見すると、障害の発生率が急増しているようにも見えるが、実際には診断基準の変化や社会全体の意識向上などさまざまな要因が影響している。背景について専門的な視点からくわしく解説する。
背景1.時代とともに診断基準も変化する
発達障害の診断数が増加している背景には、診断基準の変化と社会全体の意識向上がある。発達障害の診断においては、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)とICD(International Classification of Diseases)が主要な役割を果たしている。DSMはアメリカ精神医学会が作成した精神障害の診断基準であり、ICDは世界保健機関(WHO)が作成する国際的な疾病分類である。
これらの診断基準は、精神医学と医療の分野において標準的な指針として広く用いられている。
近年、これらの基準が改訂され、以前は診断されなかった行動特性も現在の基準で診断可能となった。DSM-5では、「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」などの発達障害に対する診断基準が拡大され、より広範な行動特徴が認識されるようになった。
ICD-11もまた発達障害の診断基準を拡充し、より詳細な分類を提供している。
診断基準の拡大により、発達障害と診断される子が増加している状況において重要なのは、正しい理解と適切なサポートを通じて、子どもの可能性を広げることである。診断は支援の一助となるべきであり、それに基づいて適切な保育や教育のサポートを提供することが求められる。
背景2.保育や教育現場で発達障害への意識向上
保護者や保育者、教育者、医療従事者の意識向上により、発達障害の行動特徴が早期に認識されることで、適切な支援を求める家庭が増加している。以前は、発達障害に対する認識が低く、適切なサポートや介入が限られていたが、2000年代にかけて特別支援教育が徐々に発展し始めたことで、専門性や統一された教育方針の整備が進んだ。近年は、社会全体で多様性への理解が求められるようになり、特別支援保育や特別支援教育が拡充している。
特にスクリーニングと支援体制の改善により、乳幼児健診や就学相談において、予防的支援を必要とする子どもたちへの早期対応が可能となった。また個別のニーズに合わせたサポートが一般的となり、専門の支援員や多職種連携が強化され、個別の教育計画が作成されるようになった。
市区町村による支援体制も強化した。相談から診療・療育までのプロセスが充実している例として、横浜市では9つの地域療育センターが運営され、新規相談児数の増加に対し、即時対応のモデル事業が開始、効果的な支援体制が整備されている。
このような変化は、発達障害に対する認識の変革と、社会全体での多様性への理解を促進し、より包括的な支援体制を確立する重要なステップである。
なお集団の場である教育現場と、家庭や医療現場など個別の場では、子どもが見せる行動にも違いがある。診断で重要な行動特徴は決まっているため、しっかりと見極める必要があることも忘れてはならない。
背景3.発達障害のリスクを高める社会的・環境的要因の可能性
発達障害の増加には、社会的・環境的要因も影響している可能性がある。発達障害のリスクを高める要因としては、高齢出産、環境汚染などが研究されている。しかし、これらの要因が直接的に発達障害の増加にどの程度影響を与えているかは、まだ明確ではなく、さらなる研究が必要な段階である。これからの研究の進展により、発達障害の背景が明らかにされれば、診断数の増加にも多少寄与が考えられる。
発達障害の診断数増加の背景には、以上のような診断基準の変化、意識の向上、スクリーニングの改善、社会的・環境的要因、遺伝的理解の進展などが影響している。しかし、これは診断へのアクセスや評価方法の改善が要因であって、実際の発生率の増加を直接示すものではない。
また診断数が増加するなかで重要なことは、その特性についての正しい理解と適切な支援である。発達障害の概念が社会に広がることにより、多様性への理解が求められる一方で、ネガティブなイメージにより本人や親の自己肯定感が低下し、適切な支援が受けられなくなる可能性もある。
特に幼児期や児童期においては「苦手な部分」があること理解した上で、適切な課題を行うことにより子どもたちの成長を促すことが重要である。今後も社会全体でのさらなる理解と支援体制の充実が求められている。
<参考>
*「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」(2022年)
河合 高鋭プロフィール
鶴見大学短期大学部保育科准教授。児童発達支援センターでの障害児クラス担任という経験を活かし、保育者養成教員に。幼稚園教諭免許、特別支援学校教諭専修免許他。障害の有無にかかわらず、全ての人が自己実現を果たせる社会を実現するために支援活動を行う。(文:河合 高鋭(障害児保育・教育ガイド))
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
韓国「障害者虐待」通報が増加…「虐待に対する意識の高まり」が背景に
KOREA WAVE / 2024年11月14日 17時0分
-
[社説]不登校最多 適切な支援につなげよ
沖縄タイムス+プラス / 2024年11月3日 4時0分
-
変わる子育て支援制度。新たに設立された「子ども家庭センター」って、何?
ファイナンシャルフィールド / 2024年10月29日 22時10分
-
不登校に関する政党アンケート結果~子ども本人、保護者、学校関係者への現状認識と今後の取り組み~
PR TIMES / 2024年10月22日 16時45分
-
令和6年後期保育士試験の解答速報を保育士向け人材紹介「保育士人材バンク」が試験当日に公開元園長や保育士が監修し、正答をスピーディーに配信。自己採点ツールの活用で正誤判定も可能
PR TIMES / 2024年10月18日 18時15分
ランキング
-
1「親に似てきた」半数実感 性格や食の好み、40歳以上で
共同通信 / 2024年11月16日 13時6分
-
2闇バイト描く「3000万」NHKで異色作なぜ誕生? 安達祐実はじめ、キャスティングも絶妙すぎる
東洋経済オンライン / 2024年11月16日 14時0分
-
3「50代おひとりさま」の平均貯蓄額ってどれくらい?
オールアバウト / 2024年11月12日 11時30分
-
4ダイソーで絶対買うべき「550円アイテム」売り切れ続出の“高見え”インテリアも
週刊女性PRIME / 2024年11月16日 13時0分
-
5「虫が大量発生のゴミ屋敷」少女が1人で暮らす理由 尋常じゃない数のゴキブリ・クモの中に取り残されていた
東洋経済オンライン / 2024年11月16日 12時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください