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きれいが続く掃除テクとは? 羽田空港を9年連続「世界一清潔」に導いた“清掃のカリスマ”に聞いた

オールアバウト / 2024年11月17日 21時50分

きれいが続く掃除テクとは? 羽田空港を9年連続「世界一清潔」に導いた“清掃のカリスマ”に聞いた

羽田空港を世界一清潔な空港へと導いている“清掃のカリスマ”新津春子さん。数々のテレビ番組に出演し、著作も多くある新津さんに、家の掃除を最高に上手にこなすテクニックを伺いました。

9年連続11回の世界一! 羽田空港の清潔を守る

羽田空港(東京国際空港)は、「The World‘s Cleanest Airports※1」で空港内の清潔さや快適さなどが評価され、2024年に9年連続11回目の世界第1位に選ばれた極めて清潔な空港です。そこで働き、受賞の功労者として知られる新津春子さんに、家の掃除を中心とした「清掃の極意」を教えていただきました。

※1)1989年創立のイギリスに拠点を置く航空サービスリサーチ会社「SKYTRAX」による世界の空港や航空会社の評価。

“思う心”で清掃技術の日本一に

新津さんは中国・瀋陽で生まれ、学生時代は砲丸投げの選手として高い目標を達成すべく練習する日々を過ごしました。

17歳の時に中国残留孤児の父と一家5人で来日し、生活のために清掃の仕事を始め、数々の職場で技術を体得。より高度な知識を東京都立城南職業能力開発訓練センターで学んだ後、今の職場(羽田空港テクノ)に就職しました。

仕事の傍ら目指したのは、全国クリーニング技能競技会でした。特訓は職業能力開発訓練センターの恩師でもあった日本空港テクノの鈴木常務(当時)による指導のもと、仕事が終わる17時半から21時半ごろまで、毎日4時間以上行われました。

その最中、鈴木常務から言われた「もっと心を込めなさい」「心に余裕がなければいい清掃はできませんよ」という言葉で、型ややり方を超えた「物や相手を大切に思う心」に気づかされたそう。技術により一層の磨きがかかった新津さんは、1997年に最年少で全国クリーニング技能競技会で優勝しました。

掃除をするうえで大切な3つのこと

新津さんが清掃の仕事をするうえで大切にしているのが、次の3つです。

1. 笑顔 周囲を楽しませる気持ちを忘れない
2. 観察 人や物をすみずみまでよく見る
3. 道具を作った人のことを思い、丁寧に扱う

例えば、机を掃除するとき、見方を変えて観察します。すると「机の上面が『頭』に思えてきて、机の脚とのつなぎ部分である『首』もきれいにしようと思う。そうして角度を変えて観察したら、ネジの緩みが見えたり、さらに『足元』にも気づくものがあったり」と、ただ拭くだけのときとは全く違って見えてくるといいます。

家の掃除は家族だけでなく、自分のためにもなる

一方で「家の掃除」についてはどうお考えでしょうか。「必要な理由」を尋ねてみたところ、「家族みんなが健康でいるためなのはもちろんのこと、自分のためでもある」と教えてくれました。

自分が病気やけがで体が動きにくい日、散らかった部屋を見たときに「やらねばならないのにできない」ことはストレスになる。それに体調不良が積み重なれば、いつしか家中がゴミ屋敷のようにならないとも限りません。だから、そんな時期があっても大丈夫なように、日頃の掃除をしておいた方がよいというお考えです。

体調不良は誰にでもあること。仕事や育児で忙しい人や、年を重ねて体の不調が起きやすくなってきた人も、この一歩先を見据えた心がけを見習いたいですね。

1枚のタオルで清潔な暮らしが始まる

タオルを使った掃除についての書籍『清潔な暮らしは1枚のタオルからはじまる』(朝日新聞出版)も出版されている新津さんは、拭き掃除に薄手のフェイスタオルを使うことを勧めています。

厚手でなく薄手のタオルを使うと、リモコンの細かい部分やあちこちの凹凸を指先の感触を確かめながら拭くことができるので、洗ったときに絞りやすいという利点も。安価なものでOK! 乾きやすいのもいいですね。

場所ごとに色分けし、「湿り拭き」で!

タオルを8等分すると手のひらにぴったりのサイズに! 端が集まった側を親指側で持つと、タオルがバラつかず、全体に力を入れて拭きやすい
家庭では、場所によって掃除用タオルの色を使い分けているそう。一気に掃除して回り、最後にまとめて洗っても、どれがどこのものかすぐに分かるので、日々の掃除が効率的になります。

拭き掃除におすすめの「タオルの状態」は、濡れすぎず乾いてもいない「湿り拭きタオル」。水に濡らして絞った水拭き用のタオルと乾いたタオルを用意して、その2枚を重ねて丸め、水分を乾いたタオルの方に移して作ります。

“適度に湿った状態になり、軽い汚れやうっすらとついたほこりの拭き掃除などに便利。拭き跡が残らないので、から拭き不要になります。
『NHKまる得マガジン 羽田空港流 世界一のおうち掃除術』(NHK出版)より”

タオルは8つ折りにして使えば、表裏で16カ所に使えるので洗う回数が減ります。

掃除時のフォームの大切さ

腕だけを振るのではなく体全体を移動させながら拭くことで、力を使わず手への負担も少なくなる
タオルの持ち方は、自然体の疲れにくいフォームで。8つ折りにしたタオルの「端が集まった側」を親指側にして、親指と人差し指で挟むようにして持ちます。そうすることで全体に力を入れて拭きやすいそう。

例えば壁のような広い面を拭くときは、腕だけを振るのではなく、タオルを壁に当てた状態で体全体を移動させれば自然と腕もついてくるので、その動く力を利用して拭きます。

「自分の体が健康でいられるやり方で」とおっしゃる新津さん。誰かに教わったわけではありませんが、長く仕事をしているうちに腰椎のヘルニアになってしまった経験から、健康第一の掃除術を提唱しています。

「自分で試行錯誤しながら体得したんですよ」。

きれいな家の状態を維持するためには?

新津さんはご自宅で、毎朝1時間の掃除を欠かさないそうです。そう聞くと、ものすごく本格的な掃除を想像して、まねするのは不可能だと絶望してしまいそうですが、ご安心を!

朝の掃除では、ドアノブなど決まったところを拭いて回るそう。窓からドア、次のドア、その次のドア、そして玄関へ……といった具合です。家の中で一番汚れやすいのが、これら手で触る場所だからです。これはまねできそうです!

「苦にならないのは、動きを習慣化しているからですよ」。コロナ禍でもこうした掃除の仕方が役に立ったといいます。習慣化できれば、面倒だと思うよりも先に、拭き掃除を終えられそうですね。

実際は、ドアノブだけでなく、家中のあちこちも拭いていると言いますが、日頃から「誰がどう動いてどこが汚れやすいか」をよく観察していて、そのときに必要だと思われるところをきれいにするのだそうです。

家族に見せると手伝ってくれるようになる!

「家の掃除をしている姿を家族に見せることも、とても意味があります」。

新津さんのお宅では、「毎朝見ている夫が手伝ってくれるようになった」のだとか! 高くて手の届きにくい場所を拭いてくれるそうで、「やってくれたら、ありがとうって言います。そうやって夫は育てていかないと!」と、家事シェアの極意を教えてくださいました。これは子育てでもいえること。口で言う前にやり方を見せておくことは大事ですね。

なお拭き掃除をする新津さんの動きはきっと、最高に無駄なく美しく、しかも楽しそうで、まねしたくなるご家族の気持ちが分かる気がします!

新津春子さんの現在のご活躍

清掃という仕事の社会的地位を上げたい気持ちから、頑張っているという新津さん。

「私が就職したころは、女性は男性の三歩後ろを歩き、決して前に出てはいけないと言われ『なんで?』と思ったし、そう言いました。そういうふうに扱われる毎日だったけれど、今はそんなこともなくなりました」。
羽田空港第一ターミナル内(B1F南ウイング)にはなんと、新津さんの展示コーナーが設けられています
後輩への指導やハウスクリーニング国家試験の受験者への指導など、社内外で指導者としても引っ張りだこの新津さんは、『プロフェッショナルの流儀』(NHK)に「世界一清潔な羽田空港のカリスマ清掃員」として出演したことで一躍有名に。『まる得マガジン』(NHK Eテレ)にも出演して掃除の技術や心を伝えたり、子どもからシニアまでさまざまな人へ向けた書籍を出したりとご活躍です。
羽田空港で開催された体験イベントで、新津さんとハイアールが共同開発した「吸引式床拭き掃除機MIZUKI」を説明する新津さん。ハンドル部分を持ち運びの楽なデザインにし、ヘッドの水量は、石や畳などのほか、日本のフローリング事情に合う特別なしくみを導入するなど独自の視点を盛り込んだ。中国の工場まで行って全製造ラインを細部までチェックしたそう
また、競技大会の時に得た「思う心」は2018年に新しく立ち上げたハウスクリーニング事業部門の名称となりました。

世の中には、家の掃除がどうやってもできるようにならない人、年を重ねてできなくなっている人もいます。

「そんな人は無理せず頼っていい。無理に頑張りすぎるよりは、その分できることをやっていけばよいのでは」。

出会う全ての人への、あふれんばかりの温かい思いやりを感じずにはいられない、すてきな新津さんの今後が、ますます気になります。

新津さん、どうもありがとうございました。

新津春子さん プロフィール

1970年中国残留日本人孤児2世として、中国・瀋陽に生まれる。中国残留日本人孤児であった父と一家で渡日。言葉が分からなくてもできるという理由で清掃の仕事を始めて以来、37年以上清掃の仕事を続ける。1995年、日本空港技術サービス(現:日本空港テクノ)に入社。1997年に(当時)最年少で全国ビルクリーニング技能競技会1位に輝く。以降、指導者としても活躍。現在は羽田空港の清掃の実技指導者に加え、同社ただ1人の「環境マイスター」として、羽田空港全体の環境整備に貢献している。『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に4回取り上げられた。
(文:毎田 祥子(家事ガイド))

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