実は逮捕例、1000万円の損害賠償例もある…ゲーム内容を改ざんする「チート行為」の意外な落とし穴
オールアバウト / 2024年11月16日 21時15分
オンラインゲームやスマホゲームなどのチート行為における実際の逮捕事例や逮捕されやすいチート行為の基準、逮捕された場合の処罰内容などについて、ゲーム分野の知的財産権や法務を専門とする弁理士が解説します。
「“チート行為”なんてみんなやっているから悪くないでしょう」
そんなふうに思っている人もいるかもしれませんが、実はオンラインゲームなどでチート行為をしたことで逮捕されるという事例はいくつもあります。
先日話題になった「若年化する『チート』、犯罪意識薄く『こんなことで事件に』憤る親も」(時事ドットコム)という記事においても、18歳のときにオンラインゲームでチート行為をしたことで家裁送致(家庭裁判所送致)され、100万円を超える損害賠償金を支払ったという男性の事例等が掲載されています。
チート行為とは、オンラインゲームやスマホゲームなどのプログラムを不正に改造するなどして、キャラクターの能力値を変更したり、ゲームを有利に進めるためのアイテムを不正に入手したりする行為をいいます。
チート行為の逮捕事例
古くは、プレイステーション用ゲーム『ときめきメモリアル』の主人公の能力値変更や、プレイステーション2用ゲーム「DEAD OR ALIVE 2」のキャラクターのビジュアル改変といったチート行為が著作権法違反にあたるかどうかが裁判で争われたりもしましたが、オンラインゲームやスマホゲームにおいても、そうしたチート行為の逮捕・書類送検事例がいくつもあります。オンラインゲームやスマホゲームの場合は、著作権法違反、私電磁記録不正作出・供用、電子計算機損壊等業務妨害・偽計業務妨害のいずれかで処罰される場合が多いですが、これまでの事例を見ても、そのどれに該当するかは次のように判断されると見受けられます。
・著作権法違反:能力値の変更やキャラクターのビジュアルを変更などする行為
・私電磁記録不正作出・供用:アイテムやキャラクターの不正入手及び販売
・電子計算機損壊等業務妨害・偽計業務妨害:上記のいずれにも該当しないチート行為やチートツールの販売、他ユーザーへの迷惑行為など
かつてプレイステーション用ソフト『ときめきメモリアル』の主人公の能力値変更が著作権法違反に該当すると2001年に最高裁(最判2001年2月13日)で判断されたことを踏まえてか、オンラインゲームなどにおいても、ゲーム内のキャラクターの能力値変更は著作権法違反で処罰するという傾向が見て取れます。
なお、この最高裁の判断を否定する日本の判例は現在もありませんので、オフラインゲームにおいてもキャラクターの能力値を変更などすると著作権法違反にあたる可能性が高いです。
また、チート行為で実際に逮捕・書類送検まで至る場合としては、不正に入手したレアアイテムやチートツールを販売するといった販売行為が絡むケースが多いですが、『荒野行動』などの一部の事例では、販売等がなくチート行為・チートツールの利用のみで逮捕・書類送検されている場合もあります。
他にも、『人狼ジャッジメント』の事例のように、チート行為の方法をWebに掲載するだけで逮捕・書類送検されるというケースもあるので、チートツールの利用や販売をしていなくても逮捕・書類送検されるという可能性もないとはいえないのです。
では、実際に逮捕・書類送検された場合にはどのような処罰がされ、またどういった点を重視して裁判等で処罰内容が判断されるのでしょうか。
チート行為で逮捕された場合の処罰内容
チート行為で逮捕・書類送検された場合、先述の逮捕・書類送検事例にあるものでは、以下のような処罰内容でした。・『パズル&ドラゴンズ』の所持モンスターの能力値変更など(著作権法違反)の場合は、罰金50万円
・『モンスターハンターフロンティアG』のゲーム内アイテムの不正入手代行等(私電磁記録不正作出・供用罪)の場合は、大学3年生に懲役1年(執行猶予3年)
・『パズル&ドラゴンズ』のチートツールの販売等(偽計業務妨害幇助等)の場合は、チートツールの販売者に懲役1年6月(執行猶予3年)
・『人狼ジャッジメント』のチート方法をWeb上へ掲載するなど(偽計業務妨害等)の場合は、1000万円の損害賠償(民事裁判)
通常は刑事罰として罰金や懲役刑が科されますが、その他に、『人狼ジャッジメント』のケースのようにオンラインゲームの運営会社が個別に民事裁判を起こして損害賠償請求をするという場合もあります。この場合は、多額の損害賠償金となることも。
裁判などではどのような点が重視されるのか
チート行為などで逮捕・書類送検されて、実際に裁判になった場合に、どのような点が重視されるのか、2019年の『パズル&ドラゴンズ』のチートツール販売等における横浜地方裁判所の事例(2019年4月16日)をもとに解説します。この事例は、『パズル&ドラゴンズ』のダンジョンに挑む際にスタミナが消費しないようにするツール『ゴーストルーター』を作成して販売したことが問題となり、販売者が逮捕・書類送検され裁判となったものです。この裁判においては、「運営会社の課金機会の減少」という点を重視して判断されていました。
具体的には、まずオンラインゲームが無料でダウンロードし、プレイできるものであるとしつつも、ゲームを有利に進めるためにはアイテム購入が必要になるという収益モデルであることを前提とします。その上で、チート行為やチートツールの販売は、そうしたアイテム購入の機会を減少させるものであり運営会社の業務を妨害するものである、という判断でした。
こうした裁判における判断を踏まえると、チートツールの作成、販売、利用やレアアイテムの不正入手や販売等は、いずれも運営会社の課金機会を減少させるものであるため、こうした行為はやはり厳しく処罰される可能性があります。
最近では、『荒野行動』や『人狼ジャッジメント』の運営会社などはチート行為の逮捕・書類送検事例や裁判事例等を自社のWebサイトで報告するなどして厳しく取り締まっており、今後、他のオンラインゲーム等の運営会社においても、より一層チート行為を厳しく取り締まっていくことが予想されます。
<参考>
時事ドットコム「若年化する『チート』、犯罪意識薄く『こんなことで事件に』憤る親も」
藤枝 秀幸プロフィール
大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。(文:藤枝 秀幸(弁理士・行政書士))
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