Netflix『地面師たち』が面白い理由!実話ベースの不動産詐欺のからくりとコンゲームの緊張感に痺れる
オールアバウト / 2024年11月18日 20時25分
Netflixシリーズとして大ヒットを記録した連続ドラマ『地面師たち』(全7話)。実際に起こった地面師詐欺の事件をベースにした同名原作小説を大根仁監督が映像化。この作品の魅力、モデルになった事件、原作との違いについて徹底解剖します。※サムネイル画像:(C)新庄耕/集英社
大ヒットを記録したNetflixシリーズ『地面師たち』。公開後瞬く間にネットやメディアを席巻し、社会現象にまで発展。2024年ユーキャン・流行語大賞に作中のセリフ「もうええでしょう」もノミネートするなど今年を代表する作品に。そんな本作の魅力はどこにあるのか。モデルになった事件、原作との違いなどについて徹底解剖します。
Netflixシリーズ『地面師たち』とは
映像ディレクターの大根仁監督が映像化したNetflixシリーズ『地面師たち』は新庄耕の同名小説を映像化した連続ドラマ。原作は2017年、東京都品川区五反田で実際に起こった不動産詐欺事件を元にしたフィクション。これを映像ディレクターの大根監督が企画から関わり、映像化権を取得し、見せ場を増やして大胆に脚色。全7話の連続ドラマとして作り上げました。
メインの不動産詐欺グループ“地面師たち”を演じるキャストは、綾野剛、豊川悦司、北村一輝、ピエール瀧、小池栄子。彼らをサポートする人物を染谷将太、アントニーが演じています。
『地面師たち』は2024年7月25日よりNetflixドラマとして世界配信がスタートすると、国内再生ランキングで1位を取得する大ヒット。加えて内容も高評価!
「面白過ぎて全7話、一気見した!」という声も多く、見始めたら止まらない傑作なのです。
これが“地面師たち”不動産詐欺師グループだ
このドラマを理解するためにまずは詐欺師のメンバーを把握しておくことが重要。では地面師たちをご紹介しましょう。・辻本拓海(綾野剛)
不動産会社に対する交渉役として、柔らかな物腰で相手の懐に入っていく。パスポート、免許証の偽造依頼を仲間の長井(染谷将太)に依頼する他、風貌を変えて潜入調査も行う。
・ハリソン山中(豊川悦司)
地面師グループの首謀者。彼がメンバーを動かして不動産詐欺を成功へと導く。獲物を捕らえるためには残酷な殺しも厭わない感情のないモンスターのような男。
・竹下(北村一輝)
詐欺をする土地の情報を集める図面師。候補の土地、想定取引価格、売主情報のリサーチをして提案をする。ドラッグ依存症で金への執着が異常。
・麗子(小池栄子)
地主のなりすまし犯を用意する手配師(写真右)。お金に困っている候補者を探して、なりすまし交渉が成立すると、地主の個人情報などを叩き込み、交渉現場に送り込む。
・後藤(ピエール瀧)
元司法書士(写真中央)。書類偽造とターゲットの不動産会社との直接交渉を担当。関西弁の巧みな話術で相手を取り込み早く決断させるのがうまいネゴシエーター。
・長井(染谷将太)
交渉の際、必要なパスポートや運転免許証などの書類を偽造する役割。主に拓海とのやりとりで地面師とつながりを持つ。
・オロチ(アントニー)
竹下の子分だが、拓海の仕事をサポートすることが多い。地面師に憧れているが地頭がよくないことに加え、場の空気を読めない勘の悪さが弱点。
次はストーリーを“ネタバレなし”でご紹介します。
『地面師たち』のストーリー
舞台は2017年。ハリソン山中と地面師グループは、都内一等地の地主になりすまし、偽地主と偽造書類で大手不動産会社へ売却を相談。相手が食い付くと速攻で契約を進め、巨額の富をだまし取る不動産詐欺集団として活動しています。
彼らは高輪ゲートウェイ駅近くにある寺の住職(松岡依都美)が所持する土地に目を付けますが、住職は売りに出す気はゼロ。しかし、地面師たちが裏ルートで偽の売却情報を流すと、大手不動産・石洋ハウスの幹部・青柳(山本耕史)が飛びついてきます。
社内でライバルと次期社長候補として競っていた青柳は大型案件を決めて、社内で優位に立ちたいと思っていたからです。
一方、ハリソン山中、辻本拓海らで構成された地面師たちは、地主の秘密を探り出すために潜入調査をしたり、地主になりすましてくれる協力者を探したり……と各自が役割を進めていくのですが、実は裏で警察も動いていました。
定年退職間近の刑事・辰(リリー・フランキー)が、ハリソン山中を追いかけていて、新人刑事の倉持(池田エライザ)と共に独自の調査を開始。ハリソンに近づいていくのですが……。
『地面師たち』にハマるポイント5つ
【その1】実際に起こった不動産詐欺事件がベース新庄耕の小説『地面師たち』(集英社文庫刊)のモデルになったのは、2017年に起こった「積水ハウス地面師詐欺事件」。
品川区五反田の海喜館(うみきかん)と売買契約を結び、巨額の代金を支払った積水ハウス。しかし、彼らが売買契約を結んだ地主は偽物で、すべては地面師たちの仕業だったのです。
この事件の詳細はノンフィクション『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(森功/講談社文庫刊)に詳しく書かれているのでぜひ読んでいただきたいのですが、事件の首謀者・内田マイクとカミンスカス操は、豊川悦司が演じた地面師グループのボス、ハリソン山中のモデルになった男ではないかと思われます。
【その2】不動産詐欺のスリル
このドラマの面白さは、地面師グループメンバーの濃いキャラクターと役割分担がきっちりあることに加え、不動産詐欺のプロセスが詳しく描かれていることでしょう。準備段階での各自の数々の仕込みも面白いのですが、緊張するのはターゲットである不動産会社との本契約の場面。
地主のなりすまし役は、手配師の麗子から地主情報をインプットされるのですが、どんなに練習しても本番でどんな質問が飛んでくるか分からない。だからこそインタビューシーンはスリリング! 特に石洋ハウスとの交渉は思いがけないトラブルも起こり、手に汗握ります。
【その3】「なぜだまされたのか」不動産会社側の心理も描く
積水ハウス地面師詐欺事件が起こったとき「大手不動産会社がなぜ詐欺集団にだまされたのだろう」と誰もが思ったはず。大根監督は「大手デベロッパー側の描写が実はポイントじゃないかと思ったんです。
(中略)そこをしっかり描けば大企業で働くサラリーマンの世界も同時に描けるんじゃないかと思って」(公式インタビューより抜粋)と語っています。「なぜ?」の答えは当然、だまされた側にあるわけです。
『地面師たち』では青柳がその役を一手に担っています。ライバルと次期社長争いをしているけれど、ライバルがリードしている状況ゆえに危機感が暴走。地面師側も計画通りに進まず、ちょいちょいボロを出していたのに、青柳はスルーしてしまうんですよ。
冷静に慎重に進めていけば“うそ”に気付いたはずなのに……。青柳の野心と焦りが、地面師たちを助けてしまったのです。
【その4】原作との違いを楽しむ
『地面師たち』の原作小説は文字で楽しむエンタメですが、映像化するにあたり、見せ場を作るために設定を変えるのは実写化あるあるです。『地面師たち』も大根監督が原作者・新庄耕さんの許可を得て、より楽しめる作品にするために設定を変えています。例えば……。
・地主の住職は、ドラマはホストに入れ揚げている設定。しかし、小説では劇団の主宰者と不倫中で、彼と劇団にかなり金を貢いでいる。
・ホストの楓(吉村界人)は、住職が入れ揚げているホストとしてドラマでは重要な役だが、小説では存在しない。
・住職のなりすまし犯が役を引き受けた理由は、ドラマでは重い病を患う子どもの手術費用のためだが、小説は多額の借金のため。
・刑事の辰とハリソンの間に起こったことと辰の運命、また新人刑事・倉持は小説には存在しない。
・物語の最後の着地はドラマと小説では異なる。ドラマはより壮絶でアクション満載に描いている。
その他にも細かい変化は見られます。原作とドラマ、どこが違うか見比べるのも楽しいです。
【その5】作品を成功へと導くキャスティング
それぞれの役に合ったキャスティングに加え、出演俳優たちが第一線で活躍しているスター俳優だったことも『地面師たち』の強み。大根監督は脚本を書く際、俳優をイメージした当て書きに近いことをするそうですが、監督がイメージした通りの俳優たちをキャスティングできたのは大きい。
そして、俳優たちも期待に応えて……というかそれ以上の怪演を見せています。
ハリソン山中を演じた豊川悦司のスマートさと残酷さを兼ね備えたラスボス感。悲しい過去を抱えながら感情を殺して地面師として生きる拓海を細やかな芝居で見せた綾野剛。ピエール瀧の後藤、小池栄子の麗子、北村一輝の竹下は、原作からそのまま飛び出してきたようなハマり役! 全員が隙のない芝居で全7話、駆け抜ける姿は圧巻です。
というわけで、 Netflixシリーズ『地面師たち』は、詐欺師集団が繰り出すコンゲームの面白さに、闇の世界で生きる男たちの狂気を加えた犯罪エンターテインメント作品。配信ドラマは数々ありますが、2024年を代表する作品の1本であることは間違いありません!
Netflixシリーズ「地面師たち」Netflixにて独占配信中
監督・脚本:大根仁
出演:綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、松岡依都美、吉村界人、アントニー、松尾諭、駿河太郎、マキタスポーツ、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史
原作:新庄耕『地面師たち』(集英社文庫刊)
(C)新庄耕/集英社
<参考>
新庄耕『地面師たち』(集英社文庫刊)
森功『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社文庫刊)
ユーキャン「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン新語・流行語大賞」
(文:斎藤 香(映画ガイド))
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