細字ブームの中あえて太字シャープペンを出したのはなぜ? トンボ鉛筆の新作「モノワーク」の開発秘話
オールアバウト / 2024年11月19日 20時35分
トンボ鉛筆の「モノワーク」はマークシートテストで「速く濃くマークできる」ことを目的に開発された太字シャープペンですが、その特徴から幅広い用途に対応します。細字が流行する中、あえて太字の筆記具を出した背景をトンボ鉛筆に聞いてみました。
トンボ鉛筆の「モノワーク」は、「マークシートテストで、速く濃くマークできる」という特徴を持つ芯径1.3mmの太字シャープペンシルです。トンボ鉛筆が行った200問塗りつぶし実験では、0.5mm芯に比べて、1.3mm芯では約1.33倍速くマークすることができたそうです。
一方で、太い芯は折れにくく、鉛筆に近い書き味で、書いた文字も見やすいなど、アイデア出しやちょっとしたスケッチ、メモなどにも便利です。しかも今回トンボ鉛筆では、シャープペンシル本体だけでなく、芯も新しく開発して、「速く濃く書ける」を実現しています。
「弊社は、マークシート用鉛筆を昔から販売していて、2017年には、文字などが印刷されていない消しゴムを“試験用の消しゴム”として発売するなど、試験を意識した文具を作っています。
これが、好調だということもあって、試験用文具を拡張していこうという流れの中で、実際にマークシート試験には、どういうものがあるんだろうと調べていました。
そこで分かったのが、日本でのマークシート試験ではTOEICの受験者数がダントツで多いということでした。次いで英検という感じでした。そして、多くのマークシート試験で、シャープペンシルの使用を許可しているんです。
実際にアンケートを取ったところ、鉛筆よりシャープペンシルのほうがマークシート試験での使用率が高かったんです。そこで開発を始めたのが、『モノワーク』の始まりです」と、「モノワーク」の開発を担当した株式会社トンボ鉛筆プロダクトプランニング部の渡邊弘樹さん。
鉛筆、消しゴムに続く試験用文具としてのシャープペンシルを
トンボ鉛筆のマークシート用鉛筆や、モノ消しゴムのカラーリングだけを残して文字を完全になくした消しゴムは、試験用文具として、かなり広く使われている印象があります。それだけでなく、文字がない消しゴムや鉛筆はデザインとしてもシンプルでカッコいいのです。
「全ての試験を確認したわけではないのですが、実際は、試験で使う筆記具に文字が印刷されているとダメという決まりがある試験はそれほど多くないと思っています。
とはいえ、実際に試験を受けられる方は、万が一でも疑われたら困るという心理が働くようです。より安心して試験に臨めるように文字なし仕様を用意して、それが非常に評判が良いということで、今回もそれを踏襲しています」(渡邊さん)
おそらくメーカーとしては、メーカー名や製品名を製品の中に入れたいという考えはあると思うのです。ただ、生活の中で使う道具として、文字などがないスッキリしたデザインは、とても魅力的です。
「試験用」とすることで、ユーザー側にもうれしいデザインが実現しているというあたりが、試験用文具が大人にも好まれる要因かもしれません。
「モノワーク」では、トンボのマークと芯径である1.3という数字だけが軸に印刷されています(限定品を除く)。クリップもないので、よりスッキリしたシルエットです。
面白いのは、パッケージ台紙の裏に「シャープペン本体には商品名や品番が印刷されていないため、この台紙を大切に保管してください」と書いてあることです。軸の印刷をなくすのにはさまざまな配慮が必要なのですね。
仕事などでも幅広く使えるシャープペンシルとして「モノワーク」と名付けられた
「基本的には試験用として最適な設計仕様を全て採用していますが、実際に開発をしていく中で、『これって普通に文字書きとしても使う方がいるのではないか』という議論が起こりました。その結果、一般向けの筆記具としての用途も提案していこうと考えて、この製品では『モノワーク』という商品名にしたんです」(渡邊さん)
実際、モノのマークシート用の専用鉛筆は「モノマークシート」という名前になっているし、文字なし消しゴムとのセットも「モノマークシート用無地鉛筆セット」という名前になっています。そこをあえて、シャープペンシルで「モノワーク」としたのは、マークシート用途以外にも、このシャープペンシルは便利だということでしょう。
「具体的には鉛筆に近い感じで、芯が折れることを気にせずに書け、思考を邪魔しないため、サッとしたメモ書きやアイデアを練るときに適していると考えています」(渡邊さん)
「速く濃く」書けるを実現するさまざまなディテールへのこだわり
さまざまな用途にも使えるのは、とにかく「速く濃く」書けるというコンセプトを徹底的に追求したような設計にも表れています。
例えば、ノックボタンが後端ではなく、サイドにあるのも、モノのシャープペンシルの特徴でもある“大きく長い繰り出し式の消しゴム”の使い勝手を考えてのこと。また、クリップをなくしたのにも理由がありました。
「やはり筆記具なのでクリップがあったほうがいいのではないかという意見もあったんです。ただ、シャープペンシルは芯の片減りを防ぐために、軸を回しながら書く方も多く、クリップが邪魔だという声も多いんです。
一方で手に当たらないようにクリップを短くすると、クリップの機能性や見た目のバランスが悪くなってしまいます 。そこで、この製品にはクリップがないほうが筆記に集中しやすくなりデザインも良くなると考えて、思いきってクリップをなくすことにしました」(渡邊さん)
しかも、このサイドノックボタンには、滑り止めのラバーが付いています。この小さなパーツにわざわざ2色成形を行っているわけです。
ボタンを大きくするとノックはしやすくなるけれど、見た目のバランスも崩れるし、持ったときに邪魔に感じることもあるわけで、そこを、ラバーを付けることで解決しています。しかも、軸色にラバーの色が合わせてあります。渡邊さんも「ここが一番僕が頑張ったところかもしれません」と笑っていました。
デザインにもこだわるトンボ鉛筆ならではのモノづくりですね。
実際、この「モノワーク」、シンプルなデザインの中にさまざまなアイデアと配慮が生きています。
例えば、軸は下のほうに向けて少し膨らんでいます。その膨らんだ先にあるラバーグリップは、一度細くなって、ペン先に向けて再び太くなる、くびれた形状になっています。このグリップのおかげで力が入れやすく、マークシートを塗るのが楽になるのですが、それは同時に、文字などを書くときの安定感にも役立つのです。
また、ペン先は一体成形の金属製で、パイプ自体も1.3mm用なので太く、強い筆圧もしっかりと受け止めます。それによって、太い芯ならではの筆跡の太さをコントロールしやすく、絵を描くときなど筆記の強弱を生かした線が描けるのです。
今回、筆者がこのシャープペンシルを取材したいと思った一番の動機が、この、シャープペンシルなのに描線のコントロールができること、太くて濃い、見やすい文字が書けることが、とても良いと思ったからでした。
濃く書けるのに消えやすい、相反する機能を実現した新開発の「1.3mm芯」
芯も今回、「モノワーク用 HB/B」を新開発しています。
「芯の作り方は、従来の0.5mm用などと同じなのですが、成分の配合などを見直して、平たく言えば、黒鉛の粒子が崩れやすいようにしています。よって、紙に黒鉛が付きやすくなって、濃く書けます。
マークシート用紙の読み取りに用いられる光学式マーク読取装置は、黒鉛に光を反射させて、塗られているか塗られていないかを判別するので、黒鉛の塗布量が多いことが、読み取り精度の向上につながるんです」(渡邊さん)
芯の濃さはHBに関しては規格が決められているけれど、それ以外に関しては、例えばBならHBより濃ければよいということになっています。そこで、この「モノワーク用 B」に関しては、通常のBよりも濃くしているそうです。
つまり、0.5mmのBより、このBのほうが濃く書けます。「弊社の0.5mmの2Bくらいの濃さになっています」(渡邊さん)
また、トンボ鉛筆としては、昔から、消しゴムで消えやすいという点も大事にしているポイントです。さらに今回は、マークシート用ということで、きちんと消えるというのは、濃く書けるのと同じくらい重要になります。
「“よく消える芯”という点に非常にこだわりました。やはり、グラファイトがより紙面に乗るということは、消したときの消え残りも多くなります。しかし万一でも、消したつもりがよく消えていないという状態になると、マークシートの読み取り時に誤読が発生してしまう可能性があります。
なので、消えの良さに関しては絶対に担保しなくてはいけない。そこはすごくこだわりました」(渡邊さん)
濃く書けること、しっかり塗れることと、消えやすさは相反するように思うのですが、そこをクリアしたからこそ製品化しているわけです。ただ、どうやってそれを実現したのかは秘密だそうです。
聞けば聞くほど、よくできたシャープペンシルで、実際、筆者もすでに品薄状態になっている「モノワーク 限定色フルブラック」に濃さBの芯を入れたものを、日常的な筆記具として愛用しています。この柔らかくて、しっかり書ける心地よさは、このシャープペンシルならではだと感じています。
※受験筆記具は試験の実施主体の規定に従ってください
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))
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