『グラディエーターII』が「理想的な続編」になった5つのポイントを解説。一方で批判の声も上がる理由
オールアバウト / 2024年11月20日 21時5分
公開中の『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』について、「理想的な続編」になった5つのポイントを解説しましょう。ただし、明確に賛否を呼ぶ理由もあったのです。(※サムネイル画像出典:(C) 2024 PARAMOUNT PICTURES.)
11月15日より『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』が公開中です。前作『グラディエーター』が公開された年は2000年で、なんと24年ぶりの続編となります。
高すぎるハードルを越えた続編に
何しろ前作はアカデミー賞作品賞受賞作で、世界中で絶賛を浴びた名作であるため、続編に求められるハードルは並大抵のものではありません。結論から言えば、筆者個人としては前作の魅力や面白さを引き継ぎつつ、単なる繰り返しにもせず、意義のある「その後」の物語を描ききった、理想的なアプローチができている続編だと感じました。後述する通り賛否を呼ぶポイントはあるものの、レビューサイトやSNSでもおおむね高評価で、特にFilmarksでは4.0点と、3.9点だった前作を上回るスコアを記録しています。
見る前の4つの注意事項
見る前に知ってほしいことの筆頭は、なるべく前作を見ておいたほうがいいということ。登場人物のほとんどは一新され、今作から見ても、劇中で語られる内容から前作の内容は把握できますが、「前作であったこと」を前提に話が進む場面もあるからです。また、刺激の強い刀剣による殺傷流血の描写がみられるという理由でR15+指定がされており、それは納得できるレーティングでした。残酷描写の数そのものは多くはないものの、やや突発的にショッキングなシーンがあることを覚悟しておいたほうがいいでしょう(なお前作は再公開の際にPG12指定でした)。さらに、上映時間は148分とやや長めなので事前のトイレを忘れずに。内容そのものは複雑ではありますがテンポがいいので、個人的には実際の時間よりも短く感じました。
なお、本作は劇場パンフレットが制作されていません。その理由は定かではないですが、ローマの歴史を踏まえた読みどころが期待できる内容なだけに、残念ではあります。ここからは、前作から受け継がれた、または変わったポイント、5つの項目に分けて称賛しましょう。おおむね肯定していますが、中には批判が出るのも当然だと思う要素もあったのです。
1:前作からかなり複雑化した人物関係こそが魅力的
前作から引き継がれていた面白さは「全てを失った男が剣闘士になる」ことにあります。どちらも家族を殺された男の「復讐劇」であり、試練を克服して英雄となる「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」でもあるのです。加えて、前作はホアキン・フェニックス演じる「コンモドゥス皇帝」が愛されない哀れな男で、ラッセル・クロウ演じる「マキシマス」が奴隷でも剣闘士として愛され大衆に期待される、という皮肉的かつ対照的な構図が面白い作品でした。歴史大作映画は往々にして小難しいという印象を持つ人も多いでしょうが、『グラディエーター』の大筋は分かりやすく、感情移入もしやすい内容だったのです。そのように皇帝と剣闘士(奴隷)の対立がシンプルだった前作に対して、『II』ではかなり複雑化しています。後述するように、デンゼル・ワシントン演じる「マクリヌス」の「権力でローマを支配しようとする」立場を筆頭に、多層的な愛憎劇、政治劇、策略が展開することこそが今作の大きな魅力になっているのです。
2:まさかのサメの登場も、史実を踏まえれば「ない話じゃない」
前作と同様に今作もコロセウム(闘技場)での闘いが大きな見どころであり、「重装備の剣闘士が乗ったサイ」「凶暴なヒヒ」などの「人間以外の相手」とのバトルは、もはや荒唐無稽に思えてしまう人もいるでしょう。24年前の前作ではCGIの技術として実現不可能だったそれぞれの画のインパクトも、今作では大きな魅力になっています。その中でも「さすがにこれはあり得ないでしょ」と多くの人が思ったであろうことは、「コロセウムが水であふれ、人食いイタチザメで埋め尽くされ、船に乗った何百人もの男たちが戦う」シーンでしょう。しかしながら、実際にローマ人は精巧な水道橋を建設しており、コロセウムにも水を張って船を浮かべ模擬海戦(もぎかいせん)をしていたのだとか。水中にウツボを放して、人が落ちたらウツボに襲われるようにもしていたそうです。そうしたところから、リドリー・スコット監督は「あんなコロセウムを建設できるなら、海洋生物を中に入れることもできるはずだ」とも語っています。実際には海水ではなく湖から淡水を引いていたようですし、さすがにサメまでコロセウムの中で暴れる様には「ないない」と笑ってしまう人もいるでしょうが、史実を踏まえれば実は「ない話ではない」のです。
3:キャラクターそれぞれの立場と思惑が交錯する
本作はキャラクターの特性や奥深さも魅力的です。それぞれを紹介しましょう。前作の主人公マキシマスが皇帝に忠誠を誓うローマ軍のリーダーだった一方、今作のポール・メスカル演じる「ルシアス」は侵略してくるローマ軍から故郷を守る蛮族でローマとそれに関わる全てを憎んでいる、という正反対の立場です(ただし両者とも奴隷となり強制的に殺し合いをさせられます)。このことを踏まえると、彼の言動がより興味深く見られるでしょう。ラヴィという医者のキャラクターとの会話では、それまでやや内面が見えにくかった彼の「人間らしさ」も垣間見えました。もう1人の主人公のような存在感を放つ「マクリヌス」は、商人や剣闘士のスポンサーとして地位を築き、莫大な富と影響力を得る権力者。彼を演じたデンゼル・ワシントンは「彼は誰のことも気にしていない。利用するだけだ」という冷徹さがありつつも、「権力は中毒性のある麻薬だ。一度手にすると、それなしでは生きられなくなる」と権力に酔いしれている状態であることを分析しています。「マルクス・アカシウス将軍」は、ルシアスから見れば冷酷な征服者のはずですが、劇中の多くでは道徳心と思いやりがある高潔な男にも見えますし、ペドロ・パスカルはとある決断をするまでの葛藤を見事に表現しています。彼の妻である「ルッシラ」への愛情も確かなものであり、前作のキャラクターの多くが死亡している中で、ルッシラ役を続投したコニー・ニールセンと共通する(あるいは別の)苦悩の演技も見どころです。さらに、ジョセフ・クインと フレッド・ヘッキンジャーが演じる「ゲタ」と「カラカラ」の兄弟皇帝は、共に残忍な言動をしているようですが、どこか“薄っぺらい悪役”という印象を観客に与えます。リドリー・スコット監督は前作のコモドゥス皇帝の卑劣な遺産を超えるべく、キャラクターの悪意を意図的に増幅させていたそう。とてつもなく憎らしくて狂気的ですが、兄弟、そして“ライバル”としての関係には、ごくまれに「それだけではない」感情も見えるのです。なお、前作の主人公のマキシマスおよび、今作の主人公ルシアスは架空のキャラクター(モデルになった人物もいる)ですが、マルクス・アカシウス将軍、マクリヌス、ルッシラ、ゲタとカラカラの兄弟皇帝は実在の人物です。
自由な解釈でドラマを紡ぎつつ、ベースでは綿密なリサーチに基づいた歴史上のローマを参考にしていることも、前作から引き継がれた強固なドラマにつながっていたと思います。
4:殺し合いに熱狂する観客と、それぞれの立場から思い知らされること
さらに前作から引き継がれた要素として、「見せものとしての闘いを楽しむコロセウムの観衆の姿は、映画を見に来ている自分たちの姿と重なる」こともあります。リドリー・スコット監督は「個人の力では抗えない社会や世界にある仕組み」をシニカルに描くことが多い作家。前作に続き『グラディエーター』という作品では、「剣闘士が大衆から英雄と称えられていたとしても、それは殺し合いに強制的に参加させられる、非人道な権力の犠牲者である」という、当たり前かつ欺瞞(ぎまん)を許さない姿勢が一貫されています。それを映画という「娯楽」として描くことで、その「加害性」を認識させるという効果があるのです。そして、政治より個人が搾取され続けたり、人心を掌握して(その気になって)より自身の権力を強固にしたり、あるいは大衆のための行動を起こそうとするも誰かに踏みにじられてしまう……といった図式は、2024年現在の世界にあるさまざまな事象にも当てまっています。それをもって、権力や決闘(という名目の殺し合い)にある浅ましさを示しつつも、それ以外に大切な何かがほかにあるのではないか……と、観客に自主的に考えさせる構造も備えているのです。
※以下からは前作『グラディエーター』のラストのセリフと、(公式Webサイトには掲載されている)『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の主人公の隠された設定に触れています。ご注意ください。
5:賛否を呼んでいる設定には「血統」の問題も
ここまで『II』を称賛してきましたが、賛否を呼んでいるのは「主人公ルシアスが、かつての英雄マキシマスと、ルッシラの息子」であることです。実は、前作の序盤ではマキシマスとルッシラは「昔からうそが下手なのね」「あなたはうその達人だ」と話し合うシーンがあり、「かつて2人が恋人同士だった」ことを匂わせる描写があるため、その時にルッシラがルシアスをみごもったことは「あり得る」と解釈できるのです。しかしながら、これを「後付けの設定のようで不自然」と感じる人が多いのも事実。前作では「受け手に想像させていた」ことを、続編では明確にしてしまっていると言えますし、前作で妻と子どももいたマキシマスに不誠実さを感じてしまうのも無理はありません(しかもその子どもはルシアスと同じ年齢)。
さらに、ハリウッド映画ではたびたび話題になる「血統主義」の問題があります。特に続編で「かつての英雄の子どもがまた英雄となる」様が、「意志を継ぐものは血縁者でなければならないのか」と批判されることがあり、『II』ではその観点からも「ルシアスを無理やりマキシマスの息子にしなくてよかったのではないか」という意見が上がるのは、もっともなのです。
ただし、前作のマキシマスの最期のセリフは「Lucius is safe(ルシアスは安全だ)」であり、彼はその前に会っていたルシアスを潜在的に息子だと確信していたとも解釈できますし、それをもって『II』のラストを鑑みると、より胸に響くものがあります。賛否も当然の設定ながら、それは確かな意図により打ち出されたものと言えるでしょう。
まったく違う続編の案もあった!
最後に余談ですが、以前にはまったく違うバージョンの脚本が開発されていたそうで、それは「マキシマスが死後の世界に到着し、キリスト教徒として復活。キリスト教の拡大を阻止するという使命を帯びてローマに戻る旅に出る」といった「神話的」な内容だったのだとか。もしもそのバージョンの続編が作られていたら、批判の声は今作の比ではなかったと想像できるので、24年ぶりの続編における「舵取り」は正しかったと思えるのです。いずれにせよ、賛否も含めて見た人同士と語り合うこともまた楽しいですし、今作からまた前作を見返して、政治や権力の問題を考えることにも意義のある作品であることは間違いありません。何より、スクリーン映えする画やスペクタクルがふんだんなので、映画館で見る機会を逃さないでほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
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