築100年超の京町家は、どうモダンによみがえったのか。匠の技が随所に残る「Nazuna 京都 東本願寺」
オールアバウト / 2024年11月24日 21時15分
2024年11月、京都に誕生したリノベーション宿「Nazuna 京都 東本願寺」。宿として100年以上の歴史を経てきた京町家建築が、どうモダンによみがえったのか、取材してきました。
2024年11月1日、京都に新たな宿が開業しました。場所は京都市下京区、東本願寺のお膝元。京都駅から歩いて10分程度とアクセスがよいこの界隈は古来、東本願寺の檀家さんのための宿泊施設や仏具、念珠など関連の店舗が多く集まっていました。今もなお門前町の面影を色濃く残している、静かなエリアです。
建物の歴史を今に伝え、匠の技を随所に感じられる宿
「Nazuna 京都 東本願寺」は、かつて「御宿 にわ」として親しまれた築100年余りの京町家旅館をリノベーションし、生まれ変わった宿。元々ここは、度重なる東本願寺の火災焼失の再建の過程で、大工職人たちが寝泊りする詰所として利用されてきた場所だったそう。そこで、単なる古い京町家の再生宿ではなく、「これまでの歴史を今に伝え、職人技を受け継ぐ宿に」という思いを込めて再生に至りました。歴史ある町家建築がどのようにリノベーションされたのか。興味をそそられ、早速試泊してきました。
京都駅烏丸口を出て、京都タワーを左手に見ながら烏丸通りを北上すること約9分。繁華街の喧騒(けんそう)がすっと鎮まり、通りの対面に東本願寺の山門を過ぎると、白いのれんが下がる町家造りの宿が現れました。 のれんを潜ると、正面に鉋(かんな)などの大工道具を並べた装飾が。引き戸を開けるとスタッフが出迎えてくれました。
木造建築の建築用語が付けられた客室は3タイプ7室
木造2階建ての建物に、客室はわずか7室。「束(TSUKA)」、「垂木(TARUKI)」、「大引(OBIKI)」など、客室名に異なる木構造の名称が使われているのがユニーク。1階露天風呂付き、2階半露天風呂付き、メゾネットタイプの3タイプが用意されています。内装や家具には地元産の木材がふんだんに使用され、木の温もりや香りが感じられました。
2階半露天風呂付きのセミスイートルーム「楣(MAGUSA)」は、旧建物の梁(はり)を残した吹き抜け構造。梁だけでなく、浴室の壁や天井は剥がされたままになっていて、昔の建物の記憶が今も息づいています。
またメゾネットタイプのスイートルーム「垂木(TARUKI)」は、1階に和室と寝室、2階に広々とした内風呂とミニバーを備え、5人まで宿泊可能なのでグループや家族での利用がおすすめ。
寝室のベッドサイドには、襖の引手を並べた装飾が。建具としての歴史を終え、装飾として新たな命が吹き込まれる。そんなすてきなアイデアに目を見張りました。
一人泊の筆者が案内されたのは、1階の「束(TSUKA)」。2ダブルベッドの寝室、6畳和室にはソファセットが配され、坪庭風の露天風呂が付き、一人で滞在するのにはぜいたくすぎる広さ。
ベッドヘッドには古い欄間に透かしをかけた装飾が配されています。内装の木材の色味と合わせてあり、シックで落ち着いた雰囲気。
和室の床の間には無垢(むく)材に鉋(かんな)を配した、匠の技へのリスペクトが感じられる意匠がなされています。このように、部屋の随所に大工職人がこの地で活躍した面影を感じ取ることができます。
チェックイン直後、スタッフがウェルカムティーを淹れてくれました。ウェルカムティーは京都・和束の和紅茶「おくみどり」の水出しと氷出しの2種類。宿オリジナルの琥珀糖「SORA AI」が添えられています。深みのある甘みが感じられるお茶に、上品な和三盆の甘さ広がる琥珀糖がマッチ。
室内の冷蔵庫には、宇治の玉露「玉兎」や伏見「玉乃光酒造」の純米吟醸「青まねきつね」、京都の柚子サイダーなどが入っており、自由に飲むことができます。
滞在中は1階のラウンジでも、コーヒーやエスプレッソのほか、日本酒やワインなどを、ドライフルーツやナッツ、チョコレート、クッキーとともに自由に味わえるので、一人で退屈な時、気分転換に利用できるのがいいですね。
こちらの宿では、2食付きで予約して、A4ランクの和牛と国産豚のしゃぶしゃぶの夕食をいただくこともできますが、今回筆者は朝食付きのプランを予約。夕食は近くのカウンターのある洋食屋さんで軽く済ませ、宿でまったり過ごすことに。
部屋で少しお酒を飲み、夜20~21時の間に「にしんそば」の夜食がサービスされるので、いただきました。
ほろ酔いの疲れた体に染み入るような、やさしいお出汁の味にホッと心が和みます。にしんの炊いたのも美味。京都の小さな宿ならではの温かなおもてなしに癒されました。
夜も更けてきたところで、露天風呂に浸かることに。洗い出しの楕円形の湯船は一人で身体を伸ばして浸かるのにちょうどいいサイズ。広い湯船に浸かると、日中たくさん歩いた疲れが吹っ飛びます。
湯口の上には升に入ったバスソルトが用意されていたので、たっぷり湯に入れて長湯を楽しみました。シャワーブースは別に用意されています。
湯上がりの素肌を包んでくれるのが、綿100%素材で肌ざわり柔らかなオリジナルパジャマ。バスタオルも宿のロゴ入りのオリジナル。ふかふかで吸水性抜群でした。
朝食は囲炉裏で調理された炭火焼をメインに京の旬の味覚を
朝食は1階ダイニングで。一人客の筆者は囲炉裏を目の前にしたカウンター席へ。前日夜に主菜を肉か魚からチョイスします。この日は、豊後牛のステーキまたは鮎の塩焼きでしたが、筆者は鮎の塩焼きをチョイス。まず、ご飯と赤出汁みそ汁、きのこの餡かけ、牛肉の山椒煮や玉子焼、柿を模した麩饅頭などが小鉢で提供されます。
やがてスタッフが炭の上に網を敷き、季節の野菜を焼き始めます。この日は万願寺唐辛子、蓮根、パプリカ、椎茸、丹波しめじ、プチトマト、生麩でした。刻み山葵、柚子みそ、田楽みそ、塩、しょうゆなどでいただきます。表面は香ばしく、素材の瑞々しさが程よく残る絶妙な焼き加減で、上品な味でした。
鮎の塩焼きは、皮がパリッと、身はしっとりと焼き上がっており、鮮度のよい上質な鮎と分かります。頭から尾びれまで、余すところなく味わい尽くしました。
翌朝のチェックアウトは11時まで。朝食後は静かな東本願寺界隈をお散歩したりしながら、ゆったりと過ごせます。宿は13歳以上が宿泊可で大人のゲストのみなので、静かで落ち着いた雰囲気でした。
居心地がよく、心身ともに安らげたのは、移築された建物ではなく、100年以上この地で歴史を重ねてきた京町家建築の再生宿だからこそ。また、大工道具や古い意匠を身近にできるので、日本の伝統建築についての知識が得られる滞在にもなりそうです。
町屋旅館「Nazuna」ブランドは伝統的な建築を活かした宿づくりをコンセプトに、京都市内で『ミシュラン京都・大阪』で三ツ星を獲得した「Nazuna 京都 二条城」、「Nazuna 京都 御所」や、「Nazuna 京都 椿通」などを展開。機会があれば、他の宿へも足を運びたいと感じました。
「Nazuna 京都 東本願寺」
・住所:京都府京都市下京区不明門通上珠数屋町下る亀町2
・TEL:075-585-2670
・交通アクセス:JR京都駅から徒歩9分、または地下鉄五条駅5番出口・8番出口から徒歩すぐ
(文:塩田 典子(一人旅ガイド))
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