【斎藤氏と石丸氏】二人が歩んできた「キャリアの違い」から見える、政治家としての“強み”と“課題”
オールアバウト / 2024年11月24日 20時45分
先日の兵庫県知事選で再選された斎藤元彦氏。SNSを選挙に有効活用した点で東京都知事選に立候補した石丸伸二氏との比較もされるが、今回は二人のキャリアの違いから政治家としての強みと課題について考察する。 ※サムネイル写真:アフロ
先日の兵庫県知事選で111万3911票を獲得して再選を果たした斎藤元彦氏。当初パワハラ疑惑などで劣勢の状況から、SNSでの情報発信を有効活用し、20代~40代までの若者層の支持を得て見事に圧勝した。
SNSを選挙に有効活用した点において、7月の東京都知事選に立候補した石丸伸二氏を重ねた人も多いだろう。
共に40代の若手政治家であり、地方自治体のトップを務め改革を進めてきた二人だが、それぞれが歩んできたキャリアの違いから見える政治家としての資質や強み、そして課題はどのような点にあるのだろう。
東大と京大、官僚と民間トップ企業出身というキャリアの違い
斎藤氏と石丸氏の分かりやすい共通点は、斎藤氏は東京大学卒、石丸氏は京都大学卒という「学歴エリート人材」であるという点である。確かに二人のメディアでの受け応えは大変論理的で、話し方や説明も分かりやすい。偏差値トップ大学の出身者は受験で求められる知識量や記憶力が着目されがちだが、実は「論理的思考力」が高いことが共通点として挙げられる。
多くのメディアや有権者に対して政策やビジョンを伝える際に、より論理的に分かりやすく伝えるためには、この論理的思考力が必須であり、斎藤氏と石丸氏は共にその能力に秀でていることが分かる。
一方、対照的なのは二人のファーストキャリアの違いである。
斎藤氏は大学卒業後に総務省に入省して官僚に、石丸氏は民間の大手メガバンクである三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行している。
斎藤氏は早くから三重県、新潟県佐渡市、宮城県などの地方自治体にも出向。2018年には大阪府の財政課長として維新府政の「身を切る改革」を現場で支えてきた。
まさに兵庫県でさまざまな財政改革を進めることができたのは、官僚時代に各地方自治体で財務面における実務経験が豊富だったからであろう。
それに対して石丸氏は入行後に姫路支店などに配属された後、2014年には為替アナリストとしてニューヨークなどで海外駐在員として金融業界の最前線で経験を積んできた。
この民間トップ企業で培った経験やビジネス感覚を生かして、2020年に広島県安芸高田市の市長になってからは財政の健全化だけでなく、ふるさと納税額や市の公式YouTubeアカウントの登録者数を飛躍的に伸ばすなど、PR面の結果も残している。
まさに官僚出身の斎藤氏、民間企業出身の石丸氏らしいそれぞれの強みの発揮の仕方といっていい活躍っぷりである。
トップエリートがゆえの、周囲への調和と共感の難しさ
そんな優秀でかつ実績も出している二人には共通の課題もあった。それは「県議や市議との対立」である。斎藤氏は今回の選挙によって民意を得て、選挙中もさまざまなメディアによって誤解は解かれていったものの、県議会による不信任決議を受け失職となってしまった事実はある。
石丸氏も市議会で市議と真正面からぶつかっていた様子はよくSNSでも話題になっていた。ただ、結果的に市議の賛同が得られずに実現できなかった政策もあることを考えると、ベテラン市議たちとあそこまでぶつかりまくったのは、市政にプラスになっていたのかは分からない。
あえて言うならば、二人とも優秀で仕事ができ過ぎるのだろう。そしてだいたいの意見は正論で、反対する側は反対すればするほどしんどくなっていったに違いない。結果的に「あいつの言うことは正論だが、応援したくない」という状況を招いていたことは少なからずあるだろう。
どの業界でもエリート人材に欠けやすい力の一つに「共感性」がある。かなりの高確率で自身が正解を導き出せてしまうがために、他者の意見や不完全な解に対して歩み寄ることが難しいのだ。
ちなみに社会(特に地方)では、正解だけで物事は進んでいかない。特に不正解のものでもその場の空気や人間関係を重視され、採用されてしまうことがある。これは決して正しいことではない。しかしそれを否定してばかりいては、リーダーは孤立してしまう。
斎藤氏も1期目には、あまり他の県議との交流や会食をしなかったことは反省していた。適度な距離感は大切ではあるが、歩み寄ることによって信頼関係を築く力もリーダーには必要だ。
斎藤氏も石丸氏も、自身の優秀さと強い改革意識がゆえに、周囲との調和がうまく取れていなかったとしたら、進むべきものもうまく進まないことが出てくるのも当然であろう。
政治家になるために必要なキャリア、能力とは何なのか
それでも斎藤氏と石丸氏の持っている高い実務能力と、地方自治を改革してきた実績は評価したい。それはやはり官民それぞれのトップで実務経験を積んできたからこそなせる業であると思う。よく政治家はさまざまな分野で活躍した人材の「セカンドキャリア」となることが多い。特に五輪で活躍した元スポーツ選手や元人気タレントなどは、その知名度を評価されより多くの議席を確保したい党から推薦を受けて立候補するケースも多い。
しかしそれは政治家にとって「選挙で勝つ力(=票を取る力)」が過大評価されているのではないかと思う。
斎藤氏も石丸氏も就任当初は全く無名の政治家であった。しかし二人とも地道な政務活動で実績を積み上げ、再度選挙に出た際にはその実績や活動がSNSで取り上げられ、知名度アップにつながった。
もともと知名度や地盤がある人だけが政治家になるのでなく、最初それらはなくとも、本当に政治家に必要な能力や経験を身に付けてきた人材がSNSで民衆の注目を集め、支援につながり、活躍する機会を持てる世の中になってきているのだと、今回の選挙を見て少なからず実感することができた。
(文:小寺 良二(ライフキャリアガイド))
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