「私は売れるうちに自分を高く売りたいだけ」20歳の娘に全否定された“あくせく働く”生き方
オールアバウト / 2024年12月12日 22時5分
自分は、理解のある夫のもとで、互いにやりたい仕事を続けながら2人の子どもを育ててきた。しかし、思春期になる娘は母親を反面教師にしたのか「早く結婚して専業主婦になる」と言う。なぜ、そんなことを言うように育ってしまったのか愕然としている。
恋愛や結婚を通じて、「女だから損をしている」「理不尽な目にあっている」と思ったことのある女性は多いはず。自分でも気づいていなかった「男を立てなければ」という気持ちや、私がここで出しゃばっていいのだろうかという不安が突然、頭をもたげることもあるかもしれない。
そんな社会や男性との関係の中で頑張って生きてきたのに、もし我が子が母を否定するような生き方を選ぼうとしたら……。
夫婦でタッグを組んで頑張ってきた
「打ちひしがれていますよ、私。自分の生き方を否定されたみたいで」つらそうにそう言うのは、アヤノさん(51歳)だ。結婚して21年、20歳になる長女と17歳の息子がいる。ずっと共働きで頑張ってきたのは経済的な理由だけではなく、アヤノさんが仕事を自分の人生の一部だと思っていたからだ。
「私の母は専業主婦だったんです。決して幸せそうには見えなかった。父は横暴なタイプではないけど、随所に『オレが食わせてやっている』という気配がにじみ出るような人でした。
私が中学生くらいの時に母はパートに出るようになった。給料日はうれしそうでしたね。自分の自由になるお金があるってすてきなことなのよと、私に洋服を買ってくれたりした。結局、自分のためにはあまりお金を使わなかったけど、それでも自由になるお金が母を支えているように見えた」
社会の中で、歯車でしかない自分に疲れた
アヤノさんは大学卒業後、「とりあえず内定をもらった」大企業に就職、5年頑張ってはみたものの、単なる歯車であることに疲れていった。そんな時に知り合ったのが飲食関係の仕事をする同い年の男性だった。自分の店を持ちたいと夢を語る彼に、彼女は惹かれた。「私も彼の夢を一緒に追いたいと思った。でも、私はあなたを支えるよと言った瞬間、いや、違うと思ったんですよ(笑)。私にも夢があったと思い出した。それですぐに転職、中堅企業に入社しました。給料は下がったけど、やりたかった仕事への第一歩を踏み出してうれしかった」
彼はその経緯を見て、「よかった」と言った。自分の夢を支える女性と一緒に歩くのはしんどいから、と。互いに支え合おうという彼の笑顔を見て、アヤノさんは結婚を決めた。
「大変でしたけど、私は昼間の仕事、彼は夕方から夜にかけての仕事だから時間が合わない。それでも結婚して一緒に住んで、子どもができたら案外、時間的なやりくりがうまくいきました。互いに連絡も密に取り合って、なんとか家庭を保ってきた」
15年頑張った時、子どもたちも大きくなって少しラクになったとアヤノさんは言う。
「私はかわいい女でいたい」と娘
夫は本当にフラットな人だとアヤノさんは言う。相手を見て自分の立場を決めるのは卑怯(ひきょう)だと彼に言われたことがあるそうだ。「結婚してすぐのころ、彼の両親には遠慮があって言いたいことを言えなかった。当然ですよね。でも彼は『言いたいことは言い方を考えながら言うべきだ』というタイプ。ケンカ腰にならず、言いたいことを伝えていくのが大人だよ、と。
それで鍛えられましたね。自分の言いたいことは自分で言うことが大事。義母は、言えば分かってくれる人なんです。夫いわく“社内でのし上がった人”だから、数年経つうちにすっかり打ち解けて、いろいろ相談にも乗ってもらいました」
互いに思いやりをもって不公平にならない生活を心がける。夫は、それを体現してきた両親を見て育っていたのだ。自然とアヤノさんものびのび生活できるようになっていった。
「それなのに……」
20歳になった娘の夢に「愕然とした」
アヤノさんは肩を落とす。「つい先日、20歳になった大学生の娘に将来の夢を、なにげなく聞いたんです。すると『適当なところに就職して、早く結婚して専業主婦になる』って。夫も私も顔が引きつっていたと思う。どうして? やりたいことはないの? と思わずたずねると、『私はかわいい女でいたいの! お母さんみたいにあくせく働くのは嫌』って。
夫を見ると『落ち着け』という顔をしている。思わずカッとしたんですが深呼吸をして、私は充実した人生を送ってるよと言いました。長男は『ねえちゃん、バカだよ。いくら金持ちと結婚したって、会社が倒産するかもしれないし、夫が早く死んじゃうかもしれないじゃん』って。
それ以前に、自分の人生は自分で見つけなさい、それに結婚がついてくるの、別に結婚しなくてもいいんだしとつい言ってしまいました」
娘は母をじっと見て、「私はね、売れるうちに自分を高く売りたいの。それも私の選んだ人生でしょ」と言った。
「いざという時に自分1人くらい食べることができなかったら、人生詰むよと言ってやりました。なんだかねえ、私を反面教師にしているのか反抗しているのか」
ショックが大きかったアヤノさんだが、夫は「若いうちはコロコロ考えが変わるんだよ」と慰めてくれたという。
「私も学生時代はたいした志がなかったけど、でも善悪はともかく『いい成績をとっていい会社に入りたい』という野心はありました。その後、それは間違いでやりたいものを追い求める方向にいきましたが、娘にはどちらもない。
ふわふわとかわいく生きていきたいだけ。そもそもかわいいって何よと、夫に八つ当たりしてしまいましたよ。夫が苦笑いしていましたけど」
ふわふわ、かわいく生きていきたい。その気持ちはどこから来たのか、単純に母親を見ていただけではないだろう。社会のありようそのものが、アヤノさんの娘から「何か」を奪ってきたのではないのだろうか。夢を持つこと、それに向かって着実に歩むこと。そんなことは無駄なんだと思わせる社会になっているのではないだろうか。
「そうですね。娘の言葉に腹が立っていたけど、彼女をそうさせた何かは、私たち含めて大人が作ってきたものなのかもしれない」
もっと話を聞き、今後、娘を注視しながらやっていきますと、アヤノさんはつぶやいた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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