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「格好いい!」「カルチャーショック…」フィンランドの高校生が、日本の公立小学校に感動した理由

オールアバウト / 2024年12月12日 21時15分

「格好いい!」「カルチャーショック…」フィンランドの高校生が、日本の公立小学校に感動した理由

2024年10月某日に、東京都内にあるごく普通の公立小学校を訪れたのは、フィンランドから来た高校生10人。ある1本の映画をきっかけに来日した彼らに、日本の学校を訪問して感じたことを聞いてみました。

東京都世田谷区立塚戸小学校を訪れたのは、フィンランドのヘルシンキ芸術高校から来た高校生10人。彼らは日本のアニメや映画などのカルチャーに関心があり、普段は勉強の傍ら、「ジャパンクラブ」というクラブ活動を行っているのだそう。今回は教育旅行というカリキュラムで来日し、いくつかの日本の学校を訪問しました。

フィンランドの高校生が、ごく普通の公立小学校を訪問

朝、学校に到着した彼らを迎えたのは、1時間目から運動会の練習をしていた同校の全校児童。800人以上の児童が2つの組に分かれ、大きな声で応援練習をしたり歌ったりする姿に圧倒された高校生たち。フィンランドにはスポーツフェスティバルというスポーツをする日はあっても、全校がチームに分かれて競い合う行事はないのだそうです。

校門に外国から来たお客さまがいることに気付くと「ハロー!」や、事前に調べていたフィランド語で「Moi!(フィンランド語で「やあ!」)」とあいさつをしてくれる子どもたち。高校生たちの方が照れてはにかんでしまうほほ笑ましい場面もありました。

彼らは1日をかけて、授業、給食時間、休み時間など「日本の小学校」の風景を見学。給食の時間には子どもたちの輪に入り、タブレット端末の翻訳機能を通してコミュニケーションを取っていました。「フィンランドにも運動会はあるの?」「好きな日本の食べ物はなに?」などと質問攻めにあい、子どもたちに囲まれて写真を撮ったりと終始楽しそうに交流していた高校生たち。

交流を終えたフィンランド人の高校生に感想を聞きました。

インタビューに答えるフィンランド人の高校生
高校1年生の男子学生「フィンランドの学校とは違うところがたくさんありました。例えばみんなで学校の掃除をするとか、給食を配膳するという光景はフィンランドにはないので、とても新鮮に感じました。一番驚いたのはとても小さな子どもたち(2年生)が、「学級会」という話し合いを自分たちだけでしていたこと。大人のミーティングのようなことを、7~8歳の子どもがやっているのはカルチャーショックでした」

子どもたちのソーラン節に感動したと話す、フィンランド人の高校生
高校2年生の女子学生「運動会の練習で見せてもらったソーラン節がとても格好よかったです。日本の伝統的な踊りだと教えてもらいましたが、それを子どもたちがあんなふうに格好よく踊っているのが見れてとてもよかったです。フィンランドにも伝統的な踊りはあるものの、若い人は誰も知らないし、踊れないと思います」

日本の小学校の記録映画がフィンランドで大ヒットしたわけ

今回、彼らがフィンランドから日本の小学校を訪れることとなったきっかけの1つが、『小学校〜それは小さな社会〜』という日本のドキュメンタリー映画。彼らが訪れた塚戸小学校こそが、この映画の舞台となった学校でした。

本作は、日本とイギリスにルーツをもつ山崎エマ監督が「私はなぜ自分を"日本人”だと思うのか」と考えて構想し、「海外の人が想像する"日本人”像が形成されるのは小学校段階である」という仮定のもと、約1年間・400時間をかけて普通の公立小学校の風景を追いかけたドキュメンタリー映画です。

映画は、大事件が起こるわけでも、先進的な教育方法が提唱されるわけでもなく、淡々とどこにでもある公立小学校の風景が記録されています。その内容を今、世界中の人々が驚きと感動をもって称賛しています。中でもフィンランドでは公開から4カ月以上ロングラン上映されるという海外作品としては異例のヒット作品となりました。

フィンランドでの上映の様子
なぜ教育大国であるフィンランドで、日本の教育ドキュメンタリーがこれほどまで注目を集めたのでしょうか。

今回、高校生の引率で来日した同高校の副校長・サリ先生は、フィンランドでのヒット理由についてこう分析しました。

サリ先生「現在のフィンランドの教育は『子どもたちの自由を尊重すること』に意識が向き過ぎているのではないかと言われています。自由を尊重するのは大事ですが、その結果、他人を思いやるポライトネス(人を思いやる気持ち)が失われているのではないかという声もあります。この映画が、今後のフィンランドの教育について考えるよいきっかけになったのではないかと思います。

また、フィンランドでは、学校内のシステムのデジタル化がますます進んでいます。便利なことではありますが、映画に出てきた日本の子どもたちのように、もっとリアルに関わり合い、互いを思い合うことの価値について考え直す必要があるのでは、という意見もあります」

高校生たちも、この映画を見て塚戸小学校に来ることを特に楽しみにしていたようです。

高校1年生の男子学生「映画のとあるシーンにとても心が動かされたし、小さな女の子が目の前のことに全力で取り組んでいるシーンに感動しました。この映画を見て、日本の小学校はとても厳しいと感じたけれど、実際に学校に来てみてそういう面だけではないというところに少しほっとしました(笑)。今回の教育旅行で見聞きした日本の学校の様子を、フィンランドの友達にも共有しようと思います」

「教育大国」と言われるフィンランドが直面する、教育の課題

日本でも教育大国として知られるフィンランドですが、現在の教育の形について、国内からは必ずしも肯定的な意見ばかりではないのだそうです。前出のサリ先生に、日本の学校を見た感想やフィンランドとの違い、そして現在のフィンランドの教育課題をお聞きしました。

サリ先生「来日前は、日本の学校はとても厳しそうだと感じていましたが、実際に学校の様子を見ると、必ずしも軍隊のように厳しく統率されているわけではないと気付きました。しかし、今日見た運動会の練習などでは、秩序を保ちながら全員が組織の中で動くことができていましたよね。そこがとても興味深いと思いました。

現在、フィンランド国内では『学校が子どもたちの自由を保証することはいいが、それに特化し過ぎているのではないか』という懸念が挙がっています。それによって、昔よりもポライトネスを失いかけているのではないかという声もあります。

今回の来日で見てきた日本の子どもたちの日々の学校生活、例えば掃除や給食の時間などに、自然に他人を思いやる気持ちを養うヒントが隠れていると感じました。今のフィンランドで子どもたちが学校の掃除をすることはなかなか考えられないことなのですが、今後こうした活動に取り組んでみてもよいのかもしれません」

映画『小学校〜それは小さな社会〜』より
実際、学校の子どもたちが給食後に掃除をする様子を、フィンランドの高校生はとても不思議そうに見つめていました。彼らが見つめた一生懸命掃除をする子どもたちの姿は、これまでの常識とは異なる何かを気付かせたのかもしれません。

昨今、日本の教育について、カリキュラムと教員の働き方の両面から多くの課題が指摘されています。しかし、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)にて安定的な成績を収めていたり、サッカー観戦後のゴミ拾いなどに見られる清潔な状態を維持したりする多くの日本人の姿は、たまたまでは片付けられないでしょう。

この映画から、本作の原題でもある「THE MAKING OF A JAPANESE(=日本人の作られ方)」が見えてくるかもしれません。

映画「小学校〜それは小さな社会〜」は12月13日よりシネスイッチ銀座ほか、全国順次公開。
© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

この記事の執筆者:大塚 ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。
(文:大塚 ようこ)

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