『クレイヴン・ザ・ハンター』が最も愛せる作品になった理由。一方で「これで最後でいいかも」と思うワケ
オールアバウト / 2024年12月14日 20時35分
アンチヒーローの活躍を描くR15+指定映画『クレイヴン・ザ・ハンター』の魅力と、待ち受けていた切ない現実、だからこそ応援したい理由を解説しましょう。(※サムネイル画像出典:MARVEL and all related character names: (C) & TM 2024 MARVEL)
12月13日より、あの「スパイダーマン」の宿敵として知られるアンチヒーローを主役に迎えた映画『クレイヴン・ザ・ハンター』が劇場公開中です。
ヒーロー映画に詳しくなくても楽しめるバイオレンスアクション!
結論から申し上げれば、筆者個人は本作が大好きです! 客観的にも後述する「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」シリーズの中では最も出来がいいと思えましたし、キャラクターそれぞれの感情は理解しやすく、また物語は独立しているため他のヒーロー映画をまったく見ていなくても楽しめる間口の広さもありました。注意点としては「銃器や狩猟用の罠(わな)による刺激の強い殺傷流血の描写が見られる」という理由でR15+指定がされていること。もちろんその過激さも売りの1つですし、後述する矛盾を抱えた主人公を表現するためには必要でした。年末年始にファミリー向けの映画が数多く公開されている中で、「大人向けのバイオレンスアクション」を求める人には大プッシュでおすすめできるのです。
同時に、本作に待ち受けていた現実(運命)には、悲しさを覚えたりもするのですが……それも含めて忘れられない、愛おしい1本になりました。作品の魅力を記しつつ、その理由も解説しましょう。
『イコライザー』よりも好戦的? 「毒親育ちの人殺し」の矛盾を描く
本作で何よりも重要なのは「毒親に育てられた青年が人間を狩る側になる」皮肉的で残酷なプロットです。主人公の「セルゲイ」はライオンに襲われたことをきっかけに「百獣の王」のパワーを得て、裏社会を支配する父の元から離れ、罪なき動物を手にかける人間たちを狩るハンターになります。
一度狙った“獲物”を仕留めるまであらゆる手を使って執拗(しつよう)に追い続ける過程は恐怖を覚えると同時に痛快ですし、時にはダークなユーモアを感じられるほど。何より、素手で猛獣をも倒すほどの身体能力から繰り広げられる、バラエティー豊かな大胆アクションが大きな見どころとなっています。特にオープニングの見せ場から、グッと「つかまれる」ことでしょう。
しかし、セルゲイ自身にどれほどの大義があろうとも、やっていることは客観的には人殺しそのものです。「強大な力で悪と定めた者をねじ伏せる」様は、自身が嫌っていた父の主張「強き者が生き残る。力こそが全てだ」とそれほど大きな違いはないようにも思えますし、そこにこそセルゲイの大きな矛盾があります。R15+指定のバイオレンスは、その人殺しの残酷性をはっきり見せるための表現として納得できるのです。
なお、本作の脚本家の1人であるリチャード・ウェンクは、『イコライザー』シリーズでも「法で裁かれないままの悪人に鉄槌を下すアンチヒーロー」の活躍を描いていました。
『イコライザー』の主人公は人殺しそのものへの葛藤を抱える姿も印象的でしたが、『クレイヴン・ザ・ハンター』のセルゲイはどこか達観してしまっている、しかも好戦的で「血を求めてしまう」ような危うさがあります。両者の主人公の特徴を比較するように見ても面白いでしょう。
それを裏付けるかのように、劇中ではヒロインかつの相棒的な立場の「カリプソ」とセルゲイが、「フツーじゃない」「今さら言うか?」と言い合う場面があったりもします。つまりはセルゲイは「自身が狂気的なことも冷笑的に捉えている」キャラクターであり、そこに虚勢を張るようなおかしみや切なさをも感じられるのかもしれません。
「愛する弟を見捨てた」矛盾も抱えている
さらに、セルゲイは「愛する弟を見捨てた」という、もう1つの大きな矛盾を抱えています。弟の誕生日を毎年祝っていたことが示されたり、弟が連れ去られたことに激昂したりする一方で、少年時代に支配的な父から自分だけが家を出ていき、弟を置き去りにして信頼を失った事実は残り続けているのです。しかも、その弟の「ディミトリ」は幼い頃から「出来の悪い方の息子」として父から爪はじきにされている、兄のセルゲイ以上に虐げられてきた立場です。大人になってもセルゲイは父を到底許すことはできず、ディミトリも「自分が守る」と約束するのですが、彼に立ちはだかる敵と戦いの連続は、それを簡単には許してくれません。
「弟思いのお兄ちゃん」の愛情がしっかり伝わる一方で、「その弟は“過去に自分を置き去りにした兄”を許してはいないのでは?」「兄はそのことにすら気づいていないのでは?」と疑問も持たせるプロットになっているのです。
さらには、忌み嫌う父との対峙(たいじ)でも、ほかのヒーロー映画とは一線を画す複雑な感情が見えました。マッチョイズムそのもののような存在の父と、その価値観を否定していたはずなのに血と暴力と狂気にまみれた道を選んでしまった息子……その決着から目を逸らさないでほしいです。
なお、J・C・チャンダー監督は『マージン・コール』『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』『トリプル・フロンティア』で資本主義の闇を描いていました。チャンダー監督によると今回『クレイヴン・ザ・ハンター』の「核」は「古き良きロシアギャングの物語」でもあるそうで、裏社会を支配する父の姿や、金儲けのために動物を殺す密猟者を成敗するプロットからしても、その資質にマッチした采配だと納得できます。
さらに、チャンダー監督の新作はまさに「資本主義」をテーマにした裕福な名門一家の死を巡るスリラーになるとのこと。そちらにも期待できます。
シリーズが「いったん終わり」になるかもしれない現実
主人公周りの心理描写が魅力的な『クレイヴン・ザ・ハンター』ですが、残念ながら「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(以下、SSU)」のスピンオフ作品は、本作をもっていったん終了になる、との報道がありました。打ち切りと断言されているわけではないものの、今後は『スパイダーマン』の映画に集中する、という方向性がうわさされているのです。SSUではこれまで『ヴェノム』『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』『モービウス』『マダム・ウェブ』『ヴェノム:ザ・ラストダンス』『クレイヴン・ザ・ハンター』の計6作が作られ、世界設定を共有しつつ発展してきたシリーズです。問題は、このままでは「あの伏線って未回収のままなの?」と、シリーズを追いかけてきたファンがガッカリしてしまうことでしょう。
『モービウス』『ヴェノム:ザ・ラストダンス』は特に今後に向けた「クリフハンガー(引っ張り)」となる要素があったのですが、もしもSSUがこれ以上作られないのであれば、それぞれが中途半端に投げ出されたままで終わってしまう、スパイダーマンとの「合流」もなくなってしまうのですから。
SSUがひとまず終了するとささやかれた大きな理由は、やはり興行的・批評的に伸び悩んだ作品があったからでしょう。『ヴェノム』1作目は大ヒットしていますが、『モービウス』『マダム・ウェブ』は特に厳しい評価と低調な興行収入が注目され、悪い意味で話題になってしまったのです。
筆者個人としては、『ヴェノム』を筆頭にキャラクター同士の掛け合いは愛らしく、6作それぞれに憎めないキュートさがあり、特に今回の『クレイヴン・ザ・ハンター』での「共に毒親に育てられた兄弟の関係性」は大好きだったこともあり、より切なくなってしまいました。
「これで最後でいいかも」と思う理由も
とはいえ、結果的にはこの『クレイヴン・ザ・ハンター』が、(おそらくは)SSUの最後を飾る作品になってもいいのかもしれない、と思うところもあります。その理由の1つが、「これで終わり」であることも納得できるラストになっていたこと。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、続きがまだ作れる終わり方ではある一方で、前述した矛盾を抱えた主人公が迎える1本の映画の結末として、必然性があると思えたのです。それ以外に、次回作へのクリフハンガーと思える要素はほとんどありません。
今回の『クレイヴン・ザ・ハンター』に登場する「ライノ」というヴィラン(悪役)は、『アメイジング・スパイダーマン2』でわずかに登場していたものの、3作目が作られなかったため、実写映画では本格的な活躍がまだありませんでした。今回の恐るべき敵としての姿を見て「やっと」だと思うアメコミファンもいるでしょう。
とはいえ、SSU終了の報道直前に、チャンダー監督が「本作がうまくいけば、大人気の原作『Kraven's Last Hunt』を脚色した続編を作りたい」と希望を語っていた事実を踏まえれば、やはり切なくなってしまいます。今回でクレイヴン(セルゲイ)というキャラクターが大好きになったので、やっぱり彼のさらなる活躍も見たいのに……!
監督も認めたこれまでのSSUの不振、だからこそ……!
チャンダー監督は、SSUについて「多くのファンが特定の決断や結果に不満を抱いていた」「成功の度合いにはムラがあった」と、これまでの結果を認める発言をしています。その上で「私たちの作品にチャンスを与えてほしいし、映画館に足を運んで、この作品を応援してほしい」と頼み込み、さらに目標として「独立した映画として守り抜き、ただひたすらよい物語を語ること」を掲げたことも語っています。
監督のその言葉に応えるべく、筆者個人は声を大にして言います。『クレイヴン・ザ・ハンター』はSSUの中でも最も好きになれたし、単独の映画作品としての完成度もなかなか高かったと。毒親に育てられた弟思いのお兄ちゃんの切ない物語も、ダークなユーモアもあるバイオレンスたっぷりのアクションも、本当に面白かったと……!
率最初に掲げた通り、残酷描写を除けばとても間口が広い作品でもあるので、多くの人に届くこと、ひいては長く愛される作品になることを期待しています。さればこそ、SSUの存続もあり得るのかもしれません。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
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