ペルソナは“弓道部の女性部長”?書く姿勢が美しく見えるゼブラの新シャープペン「リント」の開発秘話
オールアバウト / 2024年12月19日 20時25分
ゼブラのシャープペンシル「Rint(リント)」は、筆記部分が見やすくのぞき込まずに書けるため、周りから見たときちょっとだけ姿勢が美しく見えるかもしれません。姿勢矯正器具ではありませんが、無意識に「凛」とした気分になる製品の秘密を聞いてきました。
ゼブラのシャープペンシル「Rint(以下、リント)」は、ノックして芯を出すと、同時にパイプ部分も長くなり、書いている文字が見やすくなるのが特徴の製品です。
ペン先が細く、さらにパイプが長いので、文字を書いている箇所を遮るものがとても少ないのです。ゼブラの公式Webサイトによると、「(ゼブラの)従来品と比較して書いている文字の視認範囲が1.5倍広く」なっているということです。
この製品が面白いのは、「書いている箇所が見やすい」という特徴が書くときの姿勢を少しキレイにするという発見によって、「美しい書き姿へ」という打ち出し方をしていること。筆記箇所が見やすいということは、筆記時にのぞき込んで書く必要がなくなり、その分、書く姿勢がキレイになるというのは、分かりやすい理屈です。
しかし、この発想は、なかなか思いつけるものではないと思い、製品の開発経緯や、この製品のゼブラの考えを、お聞きしてきました。
他製品の検証作業で発見した、筆記具による書く姿勢の変化
「もちろん、最初から『姿勢』のことを考えていたわけではありません。
当社にはガイドパイプを出し入れする技術があり、それを生かした新しいシャープペンシルを作ろうというのがスタートでした」と、開発の始まりをお話ししてくださったのは、この製品の開発を担当した、ゼブラ株式会社プロダクト&マーケティング本部の篠原亮さん。
新製品のアイデアを考えながら、別製品の筆記テストを行っているときに、あることに気が付いたのだそうです。
「2つの製品の書き比べのような形で、社内でいろいろな人に書いてもらって、その様子を撮影していたんです。そのとき、その開発していた製品の機能とは全く関係ないのですが、使っているときの姿勢がそれぞれ少し違っていることに気が付いたんです」(篠原さん)
テスト自体は、どちらの製品が「速く」書けるかの比較検証だったそうですが、そのときに使った2つのシャープペンシルは、片方がペン先が長く、もう片方は短かったことが、発見につながったといいます。
「書き比べてもらっている中で、2つのシャープペンシルでは書くときの姿勢といいますか、肩の角度が少し違っていることに気が付いたんです。ペン先が長いほうが、のぞき込まない分、体が真っすぐに近いのです。
そこで、もしかしたら、パイプが長いシャープペンシルは書く姿勢がよくなるのかもしれないと思いました。ならば、考えていたパイプが伸びるシャープペンシルのベネフィットとして打ち出してみようと考えたところから、この製品が始まったんです」(篠原さん)
筆記箇所が見やすいことが、書くときの姿勢に影響するかもしれないという発見
そこからは、パイプが長いと書き姿が美しくなるというのは、ユーザーへのベネフィットになり得るのではないか、という仮説の検証と、実際の製品の製作が始まります。
「実際に、筆記時の肩の傾きの調査なども行いました。姿勢解析ができるアプリで『リント』の試作品と、別の自社商品で書き比べテストを実施したんです。
社内でいい結果が出たので、ユーザーにも調査を行い、結果的には、『リント』のほうが肩の傾きは水平に近くなるという結果が出ました。ただ個人差もあり、『姿勢がよくなる』という打ち出し方は難しいとなりました」(篠原さん)
あくまでも「リント」は、のぞき込まなくても文字が見やすいシャープペンシルであって、姿勢矯正機能があるわけではありません。ただ、のぞき込まないで済む、筆記部分の視認性が高いというのは間違いがないわけで、その特徴を分かりやすく伝えるのに「美しい書き姿へ」というキャッチが生まれたというお話でした。
「製品としては、パイプの長さだけではなく、ペン先のパイプへ向かう部分を単なる円錐状ではなく、内側に少しカーブしているような形にして、より視界の邪魔にならないようにしています。また、ペン先の根元のプラスチック部分を暗い色にして光の反射が極力ないようにもしています。
グリップも付けていないのですが、ペン先に向かって少し末広がりになっているのでしっかり握れますし、持つ位置の最適解といいますか、見やすさを担保する位置に手指が来るように、そのあたりはこだわって設計しています」(篠原さん)
どんな人に使ってもらいたいかを考えて開発を進めていく
それにしても、シンプル過ぎるデザインなのですが、そこにも、この製品ならではの思いがありました。
「このペンを使う人はどのような人なのだろう、というところからデザインを考えていきました。“姿勢を美しく”という考えから『凛と』というイメージが決まっていたので、そこから、弓道部の女性キャプテンで、自分にも他人にも厳しいけれど、後輩からは慕われている。
勉強は学校や家より、外で集中してやっているような子、といったペルソナを作って、その子はどういうものを選ぶのかというところから、いろいろと組み立てていきました」(篠原さん)
このイメージを開発チームの中で共有するために、チーム内でも細かくイメージを出し合い、ペルソナを固めていったそうです。
「私がこの企画に参加したときには、ある程度ペルソナも固まっていたのですが、最初にしっかりと説明されて、『こういう感じの子』と、イメージに近い写真や作り込まれた書類を見せてもらいました」と、篠原さんと同じく、「リント」の開発に携わった細川仁美さんも話してくださいました。
デザインするにも、ブランディングするにも、常に、「この子ならどうなのか」という部分に立ち返りながら、製品を作っていったそうです。その際、細川さんやスタッフから、篠原さんに「この子だったら、そっちではないと思います」と提案することも多かったといいます。
「今も、細川とは新しい企画をやっていますが、そこでも、ペルソナの共有のために、頻繁に話し合っています。そうやって、チーム内で具体的なイメージを共有したことで、『リント』も一貫性が保たれたと思います」(篠原さん)
実際、当初「凛とした」というコンセプトから、もっと和の色の軸にする予定だったところ、「この子は、そういう色じゃない」というチーム内の声から、現状のやや淡い色合いに変更したりもしたそうです。
「弓道部の女性キャプテン」をイメージした詳細なペルソナに常に立ち返った製品作り
什器などに使われているモデルも、ペルソナに合わせて選び、撮影には篠原さんも立ち合って、筆記時の姿勢など細かく指定したそう。
「モデルの候補は最終的に2人に絞ったのですが、1人は弓道部というより他の部活の部長さんだね、とペルソナに沿って最終決定をしました。ユーザーが、何を欲しがっているのかと考えるのが大事だということは常に思っていますが、今回のように1人に絞ったのは珍しいです。
ペルソナを絞ったというのもあるのですが、この商品は“あなたのために作りました”というメッセージを伝えるなど、そのあたりはとても意識しています」(篠原さん)
実際、ペルソナに沿った製品作りは一貫していて、今回の軸色やパッケージにも使われている「リントラベンダー」と呼ばれる紫色のイメージや、プラスチック部分を極力少なくして、すっきりとしたペンのシルエットを見せるパッケージのデザイン、極端に装飾が少ない本体デザインなど、全て、架空の弓道部のキャプテンだったら、という点から発想が積み上げられています。
筆記部分の視認性が上がるという機能から、ここまで発想を広げて、それを1人のキャラクターに集約させるという製品作りによって生み出されたシャープペンシルが「リント」でした。それは、こういう人になりたいと思う層にも刺さるはずで、狭いようで意外に広いターゲティングのように思えます。
実際、書きやすいのは間違いないですし、芯径0.3mmだけでなく0.5mmも用意されているので、大人のシャープペンシルとしても、筆記部分が見えにくくなってしまった人にも、使いやすいシャープペンシルになっていると思いました。
<参考>
Rint(リント)
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))
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