大卒よりも高卒? 日本とは全く違う、塾も受験もないフィンランド人の「学歴」の考え方
オールアバウト / 2024年12月21日 20時55分
世界幸福度ランキングの常連・フィンランドは、教育大国としても知られます。しかし、フィンランドには塾も受験もないのだとか。では学びにおいて何が重視されているのか。『フィンランドの高校生が学んでいる人生を変える教養』から抜粋し、紹介します。
中学受験が過熱する日本とは違い、フィンランドには「学力」という概念がなく、名門校もエリート校も存在しないのだとか。そんなフィンランドで「どの大学を出たか」という“学校名”よりも重視されるものとは何なのか。 『フィンランドの高校生が学んでいる人生を変える教養』(青春出版社)から一部抜粋して紹介します。
塾も受験もない
フィンランドに塾はない。学校が充分な教育を提供するので、必要がない。また、勉強だけではなく遊びや休息、睡眠とのバランスの取れた生活が重視される。日本のような受験がないことも、塾がない理由だろう。フィンランドは小中一貫で、高校入学は同じ自治体、または隣接する自治体の希望校に出願する。選考の基準になるのは中学の成績で、基本的に受験はない。例外は、音楽高校を希望する場合などで、実技などの試験がある。大学入学には試験があり、そのための勉強はするが、日本のような受験勉強はない。
一方、日本では受験のため、あるいは学校教育の不充分さを補うために塾に通う子どもが多い。学校が終わると夜遅くまで塾で過ごし、学校と塾の二本立てが起きている。それは、公教育の意味と機能を疑わせるものでもある。また、勉強ばかりの生活になって、遊ぶ時間や睡眠時間、何もしないでいる時間を失ってウェルビーイングに欠ける生活スタイルである。
最近、日本では大学入試が多様化して、推薦や総合型選抜(旧AO入試)が増え、一般試験での大学入学者は5割を切ったという。その反面、特に東京で中学受験が増えている。つまり、受験の低年齢下が起きていて、小学生が良い私立中学入学を目指して猛勉強している。
受験は産業であり、ビジネスでもある。学ぶことや知ることの喜びとは関係ないことに、親も子も心身を削っているのだ。
高校卒業のほうが、大学入学より意味を持つ
フィンランドで全国的な試験は、高校の卒業試験と大学の入学試験だけだが、そのための勉強をする期間は短い。どちらも数ヶ月程度が普通で、日本の受験とは異なる。ただし、最近は志望者が増え、試験に合格して入学を認められるのは難しくなっている。何度かトライする、希望の学部を変える、留学するなどのケースが増えているようだ。また、医学部は入学が難しく、スタディグループを作って1年程度、共に勉強することは多いようだ。面白いのは、高校卒業の方が大学入学よりも重要で、社会的にも大きなイベントであることだ。高校卒業試験は年に2回、3月と10月にあり、上手くいかなかった場合など、3回まで受けることができる。また、受ける科目と科目数は全員同じではなく、自分で決める。これは、日本では考えられないことではないだろうか。最低4科目受ける必要があり、6科目程度選ぶことが多いようだが、中には10科目近く受ける強者もいる。試験の結果は、ラテン語の名前を付けられた7段階で評価される。ラウダトゥーリ、エクシミアなど格調高いひびきの名前だ。
3月の試験とその結果は必ずニュースで報じられ、話題になる。例えば、ラウダトゥーリを 8つ取った生徒がいたなど報じられて、報道からも若い世代への希望や期待があふれ出る。高校卒業試験は、人生の通過儀礼であり大人への門出とも重なる。
高校卒業は18歳頃になるが、18歳は成人となる歳で、保護者の扶養義務が終わる。18歳は地方選挙と国会選挙の選挙権と被選挙権を得る歳で、法的にも大人になる。それまでに学んだことを糧として、自分で考え、良識ある大人として生きていくことが期待され、祝福されるのだ。
フィンランドの学校や大学に入学式はないが、卒業式はある。5月の終わりか6月初めが多く、高校の卒業式の後は、親が親類や友人を招待して自宅でパーティを開く。北欧の美しい夏の始まりの時期、心浮き立つイベントだ。
フィンランドでは、必ずしも高校卒業後すぐに大学に入学するわけではない。高校卒業後、何をするか、大学に入学するとしたら、それはいつ入学する等は、成人後のことになるので親はほとんど関わらない。そのため高校卒業のパーティは、保護者が子どものために行う最後のイベントになる。大学入学は、それに比べると地味な出来事である。
「どの大学を出たか」は重要ではない
平等を重視する立場から、フィンランドは学校格差を嫌うので、日本のような明確なエリート校や名門校はない。ただし歴史的に古い、高級住宅街にあるなどの理由で、日本風に言うとエリート校のような小中学校、高校はいくつかある。また春の高校卒業試験の平均点は、10点満点に換算されて毎年公表される。それは、高校の偏差値と言えるが、恒常的な学校の序列化は、日本のようにはされていない。日本には名門幼稚園や小中学校、高校があり、有名な高校や大学を卒業するとエリートとみなされる。フィンランドは社会格差を嫌うので、学校を巡るヒエラルキーは弱く、出身校は、エリートと非エリートを分ける体系になっていない。
フィンランドでは、どの高校や大学を出たかはそれほど重要ではない。学校名や大学名ではなく、何を学び、どう生きていくかの方が重視されている。また「学歴」が意味するものも異なる。
日本の学歴は、学名を指す。しかし、フィンランドで学歴は学名ではなく学士、修士、博士などの学位を指す。フィンランドは高学歴化しており、会社勤務や政治家でも修士以上の学位を持つ人は多い。日本を学歴社会と思っている人は多いが、実際には学名社会である。
また、有名4年制大学を出ると高学歴とされるが、国際的に見れば学士は「低い高等教育」であり、低学歴とも言える。多くの分野で少なくとも修士が求められるようになっていて、高学歴というのは修士以上を指す。
一方で、教育を若い時に限らないのもフィンランドの特長だ。日本では、高校卒業後すぐ大学に進学するのが普通で、大学は10代終わりから20代初めの若者だらけだが、それは国際的に見ると一般的なことではない。2017年のOECDの調査で、日本の大学入学者の平均年齢は18歳、最年少である。
フィンランドでは、2000年代初めまで大学入学者の平均年齢は20代後半だったが、それは国際的に見て遅いことに気づいた。そのため、あまり年数を置かずに大学進学することが奨励されるようになり、最近の大学入学者の平均年齢は23歳に下がった。とは言っても、それは日本では大学を卒業し、就職している年齢になる。
フィンランドには、高校卒業後すぐ大学進学、大学3年頃に就職活動開始、卒業後すぐ就職といったシステムがない。いつ大学に行くか、どういう順序で生きるかは、自由な社会である。ただし、国際的な競争が激化しており、政府は大学進学を希望するなら、高校卒業後、あまり間を空けずに大学に入学することを奨励するようになった。こうした変化は、経済効率を重視する新自由主義の影響を示している。
大学は自立した学習者のためのもの
フィンランドの大学は、日本の大学と違って、とても緩やかな機関である。建築的にも、門があったり、壁で囲まれていたりするわけでは必ずしもなく、街中に他の建物と混ざっていることが多い。また1年生、2年生、3年生、4年生という区分がなく、それぞれの学年用のクラスもない。自分の都合やスケジュールに合わせて、いつ何を取るかを決めるのが普通だ。ただし、日本に比べると提供されるクラスの数は少ない。4年生で卒業するという決まりもないが、最近は、入学から6年以内に学士を取得することが奨励されている。フィンランドの大学は、高校までにいかに学ぶかを学んで身につけ、その後は自立した学習者として学んでいくという考え方が基本になっている。歴史的に、大学は修士を取得する場所だった。学士も出すようになったのは、2000年代初め頃からである。従来、修士取得までに年数がかかりすぎていたこと、諸外国では学士も正当な学位として認められていること等がその理由だ。
この記事の執筆者:岩竹 美加子
1955(昭和30)年、東京都生まれ。フィンランド在住。ペンシルベニア大学大学院民俗学部博士課程修了。早稲田大学客員准教授、ヘルシンキ大学教授等を経て、同大学非常勤教授 (Dosentti)。著書に『PTAという国家装置』(青弓社)、『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』(新潮新書)等がある。
(文:岩竹 美加子)
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