【保護者の本音】やりたくない卒対、でも子どものため? いま問われる卒業記念の形
オールアバウト / 2025年1月12日 20時15分
卒業シーズンにピークを迎えるPTA活動といえば、卒業準備。この活動を担う「卒対」(卒業対策委員/係)には、現代の多様な価値観やライフスタイルに合わない部分も? 今どきの卒対が抱える課題を事例をもとに紹介します。
「卒対(そつたい)」とは、主に保育園・幼稚園の卒園式や小学校・中学校の卒業式に向けて、卒業記念品の選定や卒業アルバムの制作、謝恩会の企画などを行う組織のこと。正式には「卒業対策委員」もしくは「卒業対策係」といいます。
All About編集部が2024年8月に行ったアンケート調査によると、卒対の活動がある園や学校は約4割。PTAを解散(廃止)したり活動を縮小したりする学校が増えている今、卒対のない学校も半数以上となっています。
卒対の活動がない園や学校の保護者からは、「コロナにより、それまで卒対で企画していた謝恩会がなくなったことをきっかけに、卒対もなくなった」「卒業アルバムの制作は卒対ではなく学校が行っている」「卒業記念品の選定は学年委員が担っている」などの声が上がりました。
卒対が抱える「やりたい人がいない」問題
そんな中、今年度(2024年度)卒対の活動をしている保護者に話を聞くことができました。都内の公立小学校でPTA会長をつとめる松野陽子さん(仮名)が卒対に参加したのは、「例年、何も見直されないまま前例を引き継ぐ卒対の体制に、ずっとモヤモヤしていた」から。
同じ業者に依頼して毎年同じようなものを作るアルバム制作、何年も変わらない卒業記念品……心当たりのある保護者もいるのでは?
「子どもが6年生になると、保護者会で卒対の係決めがあるのですが、手を挙げる人がおらず、毎年クジ引きです。うちの学校のPTAはポイント制を導入していて、1年生の時から卒対を免れるためにポイントを貯める保護者も多いのです」(松野さん、以下同)
「クジ引きで当たった人にイヤイヤやってもらうくらいなら、自分たちでやろう」とPTA会長である松野さんと副会長が立候補。この2人に加え、上の子の卒業の時に卒対を担当した保護者が手を挙げ、3人で企画・運営することに。
「仕方なく選ばれた人が大勢集まるよりも、熱量をもった少数のメンバーで活動するほうが意思疎通が図りやすく、スムーズに進みます。ただ、通常のPTA活動と同時進行のため、かなりハードな毎日。他の人が手を挙げてやってくれたらどんなにラクだったか……」
業者との確執、写真掲載拒否etc……苦労が多い卒業アルバム制作
卒業アルバム制作では、「せっかく作るのだから、オリジナリティのある今年らしいものにしたい」とメンバーで話し合い、「児童の個人ページを充実させよう」ということに。ところが、ここで前例を踏襲してきた組織ならではのやりづらさを感じる出来事が起こります。
「昔から卒対と付き合いのある、学校が契約している業者さんとやりとりをしているのですが、ひと言でいうと“昭和”感覚。児童一人ひとりの思い出の写真をメインにしたいと考えていた私たちに対し、集合写真や観光地の写真といった従来の卒業アルバムの構成にこだわり、難色を示してきたのです。
学校を交えて話し合う機会を設け、最終的には意見を尊重してもらえたのですが、ネットで検索すると、すてきなアルバムを作ってくれる業者さんはたくさんあります。私たちのリクエストに快く応えてくれる柔軟な業者さんはないのだろうかというのが、正直な気持ちです」
卒業生の中には、写真掲載を拒否する児童も。
「もちろん本人の意思を尊重し、写真を選び直したり、その子が写っている写真を載せる場合は加工してもらったりなどの配慮を施しました」
そんな「卒業アルバム」は、All About編集部が実施したアンケートで「子どもの卒業(卒園)に向けて必要だと思うもの」の第1位に選ばれています。
しかし近年、不登校児童や個人写真の掲載を望まない児童が増加傾向にあり、「製本せずにDVDアルバムのみを配布する」「児童が自分たちで作る」などの対応をする学校もあります。卒業アルバムのあり方そのものが問われる時代になってきているのです。
この物価高騰時代に、児童一人につき2万5000円の卒対費を集め、アルバム代金が1冊2万円前後かかっていることも気になりますが、これについて松野さんは次のように話します。
「希望する家庭のみが購入する形で、早めに費用の目処(めど)を伝えて準備をお願いしたり、分割払いOKにしたりなど工夫しました。うちの自治体では、就学援助金の対象に卒業アルバムの代金が入っているので助かります」
忘れられがちな卒対の目的
松野さんたちは、卒業記念品もただ前例にならうことをやめました。「メンバーで話し合い、『制服を大切にしてほしい』という保護者の声が多いハンガーに加え、子どもたちが中学校でも使うiPadを保存できるタブレットケース、4色ボールペンのセットにしました。タブレットケースの内側には、校章と児童の名前の入ったシールを一人ひとりに貼る予定です。また、成人になった時に開封するタイムカプセルも企画しました」
卒業まであと2カ月。ここまで少人数で主体的に卒対活動に取り組んだ松野さんの目下の心配ごとは、「PTAの非会員が増加傾向にあり、これまで加入非加入問わずPTA会費から卒業生に贈っていたコサージュや証書ホルダーが会費からまかなえなくなる時代がくるのではないか」ということだそう。
「証書ホルダーは欠かせないものなので、いずれは公費で負担をお願いしたいです」。
卒対と聞くと、「大変そう」という思いが先走ってしまいますが、本来その活動の目的は「子どもたちの卒業を祝うこと」。
PTAの任意加入制が進んでいるのに加え、子ども・家庭と学校との関わり方の多様化が広がりつつある今、「何のために、どのように祝うのか」「お金を集めて祝う必要があるのか」などについて改めて見直す必要がありそうです。
(文:長島 ともこ(子育て・PTA情報ガイド))
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