フランス人を傷つける、日本人が言いがちな「褒め言葉」とは。訪日経験者が感じた“閉塞感”の正体
オールアバウト / 2025年1月16日 21時20分
2024年、訪日外国人の数がついに過去最高に。筆者が暮らすフランスでもコアな日本ファンが存在します。しかし、実際に足を運んでみると、ポジティブなイメージとは裏腹に、予想外の「がっかりポイント」が浮かび上がることが少なくありません。
2024年の訪日外国人数は、これまでの過去最高であった2019年の年間累計を上回り、約3687万人と過去最多を記録しました。筆者が暮らすフランスからの旅行者も多く、ヨーロッパからの訪日客ではイギリスに次いで2番目に多いことが明らかになっています。
フランス人に「日本のどんなところが嫌い?」なのかを聞いてみた
フランスで報じられる日本といえば、和食や日本酒、着物、工芸といった「伝統文化」や、漫画やアニメなどの「ポップカルチャー」が代表的です。フランス人はこれらを求めて訪日するわけですが、実際に訪れてみると、「日本は素晴らしい」と感じる一方で、受け入れがたい部分、つまり嫌いな部分がどうしてもあるということです。外国人が日本を称賛するメディアを見れば、普段は気付かない自国の良さを再発見することができるでしょう。しかし日本を訪れている外国人は、そもそも日本にある程度の興味があって来ています。
一方、フランスでは外国旅行経験者のうち、訪日経験がある人はたったの2割という統計が出ています。メディアでは外国人が「日本大好き」「日本は素晴らしい」と語る場面を多く紹介していますが、実際の日本ファンはごくごく一部。「日本はアジアの一国にすぎない」という認識の方が、マジョリティなのではないでしょうか。
フランス在住者としてはむしろ、「働き過ぎな日本人」や「原発」「地震」をフランス人から心配されることがありました。筆者はフランスで暮らして初めて、日本がどのように見られているかを客観的に理解することができたのです。
以上を踏まえて今回は、訪日経験のあるフランスの友人たちに、思い切って「日本の何が嫌いなのか?」と尋ねてみることにしました。答えの中には「ニュースでは触れられない意外なもの」も含まれていたので、ここでご紹介したいと思います。
日本の「過剰包装」は本当に必要か
まず、日本の嫌なところ、がっかりしたところで最も多かった意見が、「スーパーマーケットの過剰包装」です。日本では野菜、果物、パンなどが1つひとつプラスチックで包装されていて、何を買うにもゴミが大量に出てしまいます。これにはフランス人旅行者も敏感に反応するようで、きれいな状態で販売しなければならないという日本人の潔癖さは、フランス人から「環境問題に対して関心が低い」と捉えられています。
というのも、フランスは青果のプラスチック包装が全面的に禁止された国。大手ファーストフード店では紙製のパッケージが使用禁止となり、2023年からは洗って繰り返し使える容器が新しく導入されました。フランスの各自治体は、これ以外にも環境に配慮したさまざまな取り組みを積極的に行っています。
そんなフランス人たちの目には、総菜が入ったプラスチック容器をさらにビニール袋で包む……という行為が「やり過ぎ」に映るようです。これは、スーパーやデパート前に設置される「傘袋」にも当てはまります。
あるフランスの友人は、「短い買い物時間のために、どうして毎回傘袋を使い捨てなければならないのか。使うにしてもプラスチックやビニールではなく、自作で持ち込めばいいのでは?」と語っていました。彼は日本を旅行中、1度も傘袋を使わなかったそうです。
こうした「過剰包装」は、フランス人が日本で感じた大きなネガティブポイントの1つです。つまり日本人は清潔さや利便性、他者への気遣いを追求するあまり、環境への配慮が欠けているように思われてしまうのです。
外国人にとってはつらい「朝食のおもてなし」
次いで多かったのが、ご飯にみそ汁、納豆、鮭といった日本の伝統的な「朝ごはん」について。私たち日本人にとってはホッとするこの朝食も、フランス人旅行者からは意外と不人気であることが分かりました。筆者がフランスの美容院で実際に聞いた話をご紹介しましょう。夏の終わり、長期休暇から帰ってきたと見られるフランス人客が隣に座っていたときのことです。
その女性は休暇で初めて日本を訪れたらしく、美容師さんと旅行の思い出話で盛り上がっていました。もちろん、筆者が日本人であるという事実はその場の誰も知りません。
女性は「日本はきれいな国なのだけれど」とあらかじめ前置きした上で、「“リョカン”と呼ばれるホテルに泊まったときに、朝食に焼き魚や納豆が強制的に出てきて食べられなかった」と話しました。これには、担当のフランス人美容師さんも驚いていたのをよく覚えています。
確かに、フランスやヨーロッパ諸国の多くでは軽めの朝食スタイルを取っており、菓子パンやジャムを塗ったトーストなど、朝から甘いものを食べる習慣があります。つまり、日本食がどんなに素晴らしくても、塩気の強い朝食、特に納豆には抵抗を感じる人が少なくないということです。
そんな日本の朝食スタイルについては、フランス人旅行者の多くが「1度は経験としてトライすべきだが、毎日同じものを出されるのはキツイ」と感じています。毎回朝食を残すことに罪悪感を抱いた人も少なくありません。
筆者の周りにいるフランス人からも「ホテルや旅館では、お客さん全員に同じ朝食を押し付けるよりも、選択できる食事が望ましい」といった多くの意見を聞きました。こちらが「おもてなし」や「よかれと思って」提供した場合でも、文化の違いによりうしろめたさを抱かせるケースがあることは、筆者も海外での生活を通じて実感したことでした。
「鼻が高いですね」は褒め言葉ではなく悪口
「よかれと思って」発言したことが、裏目に出る場合もあります。その最たる例が、「鼻が高いですね」という言葉です。白人系外国人に対しては、特に気を付けなければなりません。日本人としては、鼻筋の通った顔立ちを褒める意味で使っているこの言葉。しかし、彼らにとっては一種のコンプレックスであり、ルッキズムを助長する「悪口」でしかないのです。
フランスおよび欧米諸国では、会って間もない人から「顔立ち」を指摘されるのは非常に失礼にあたります。過去には「付け鼻」が差別や侮辱として問題になったケースもありました。つまり、日本人が外国人に向かって「鼻が高い」と指摘する際は、大きい鼻、醜い鼻として捉えられ、彼らを傷つけていることになります。日本人が「足が短くてかわいいね」と言われてうれしくないのと一緒です。
そのため、肌の色や目の色、顔のつくり、くせ毛、ストレートヘアなど、「生まれ持った身体的特徴」に関しては、たとえ褒め言葉であっても触れない方がいいでしょう。何かを褒める際には、服やアクセサリーといった「持ち物」を話題にするのが無難です。
知り合いのフランス人も日本で何度か同様の経験をしたそうですが、仲良くなった日本人から「鼻が高い」と言われるケースが非常に多く、その度にがっかりしたと話していました。
「完璧を求める日本社会」で感じた閉塞感
また、リピーターとして繰り返し日本を訪れたフランスの友人からは、こんな意見が聞きました。「日本は、どこに行っても清潔だし、スピーディーに接客してくれて、失敗もしていないのに謝ってくれる。だけど、完璧を求めすぎて逆に疲れないか? もし本当の失敗をしてしまったら、どこまで追い詰められてしまうのか」
彼は、東京の満員電車から降りる人々の表情を見て、フランスにはない「閉塞感」を感じたそうです。そして、「これは1回目の日本旅行では気付かなかったことだ」と付け加えました。
初めての訪日では、友人は日本人の優しさ、特に接客の素晴らしさに感動したと言います。しかし、何度か訪れて日本人と親しくなるうちに、「仕事を断れない性質」や「時間外労働」といった現実を知り、その素晴らしさが「犠牲の上で成り立っている」ことに気付いたそうです。
さらに彼は、「日本社会は完璧を強いる」と語ります。「これが原因で通勤者の表情が暗いのであれば、かわいそうだ。完璧であることや100%を人に強要すべきではない」と。
日本を初めて訪れる外国人とリピーター、在住者とでは、ネガティブイメージの内容も変わってくると思います。どの国にも良いところと悪いところがあって当然ですが、「日本がどう見られているか?」を客観的に知ることは、インバウンド観光が最高潮に達している今だからこそ必要かもしれません。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)
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