「もう限界……」退職代行サービスを利用した後輩社員が明かした「本当に無理だったこと」
オールアバウト / 2025年1月30日 21時50分
「奇跡の9連休」の影響からか、退職代行サービスに依頼が殺到しているという。実際にサービスを利用する人にはどんな事情があるのだろうか。仲のよかった後輩が突然退職したという女性が彼女から聞いたホンネとは。
2024年末から今年にかけての年末年始は「奇跡の9連休」と言われたが、連休明けに大きなニュースとなったのは「退職代行サービスに申し込み殺到」だった。ある代行サービス会社では、6日だけで256件と過去最高の依頼数があったという。
後輩がいきなり退職
「仕事始めの6日、会社に行ったら仲よくしていた後輩が辞めたらしいといううわさで持ちきりでした。数日後分かったのは、彼女が退職代行サービスを使って退職したこと。あまりに意外で……」アサミさん(37歳)は驚きを隠せないようにそう言った。辞めたのは6歳下のトモヨさんで、彼女は中途入社。アサミさんは入社してきた彼女の指導社員となり、その後4年間、一緒に仕事をしてきた。
「仕事もできるし気遣いもできるし、あっという間に会社になじんでくれたんですよ。2年前に私が結婚したときもすごく喜んでくれて。新居に遊びに来てくれたこともあった。彼女の恋愛相談に乗ったりもした。彼女、出身が北海道なので帰省するときについていって、実家に泊めてもらったこともあるんです」
辞めたくなる環境ではなかったはず
仲がよかっただけに、自分に一言の相談もなく退職してしまったのがショックでならなかった。思い当たる節もない。アサミさんは新卒で入社して15年、もちろん社員全員が「いい人」というわけではないが、目立ったパワハラもセクハラもなかった。「最近は特に残業も少なくなっていたし、リモートもかなり認められていたので、私たち古参の社員にとっては働きやすくなったなという感じでした。飲み会はそれなりにあったけど、うちの部に関しては部長が優しかったから強制はなし、一次会で解散というのが基本でした。やめる理由がわからない。
やめたくなるような環境ではなかったはず。でも、私も含め、彼女にとって我慢できないことがあったのかもしれない……。さんざん悩んだし、周りとも相談したんです。辞めたい理由があったんだろうから、そっとしておこうとみんなは言う。でも私はどうしても我慢ができず、1週間ほどたったころに連絡してみました」
その結果、トモヨさんに会って話を聞くことができたという。
彼女が退職した理由とは
退職代行サービスを利用する主な理由は、パワハラ上司が怖くて退職を言い出せない、退職の意向を伝えても受け止めてもらえないなどがある。中には、仕事の引き継ぎにおそろしく時間がかかるとか、後継者を見つけてきてほしいと言われることもあるとか。だがトモヨさんの場合は、いずれにも当てはまらなかった。
「明るくてけっこう言いたいことを言うタイプに見えていたんですが、実は彼女、ものすごく無理をしていたんだそうです。私たちの仕事は営業でした。向いていると思っていたけど、実際はまったく向いていなかったと。
『自分を偽って仕事をしているうちに慣れるかと思ったけど、結局、慣れなかったし、先輩みたいにはなれないと思った』とトモヨさんは言うんです。毎日、別人格を設定してそれを演じきっているうちに疲弊してしまったそうです」
そういえば、とアサミさんは思い出したそうだ。彼女が年に数回、湿疹で悩んでいたことを。あれはメンタル不調の証拠だったのかと尋ねると、トモヨさんはうなずいた。
「顔や手など、目だったところにはできないからごまかせたけど、実は二の腕の裏とか腿などはひどいことになっている時期もあったそうです。ゴールデンウィークや年末年始などはひどい湿疹と発熱で入院したこともあると。話してくれればよかったのにと言ったら、『体が弱いと思われると仕事に支障が出るから』と言っていました。
その日の彼女はなんだかとっても幼く見えた。ずっと自分を大きく見せようと頑張ってきたのをやめたからでしょうか。聞いているうちに、そこまでがんばらず、もうちょっと等身大でいればよかったねと言いたくなりました」
その言葉がつらいんです……
仕事ができると思われて期待され、その期待に応えようとがんばりすぎたのかもしれない。周りの気持ちがわかっているだけに、自ら「辞める」と言えず、代行サービスを頼ってしまったのだとトモヨさんは涙目になっていた。「彼女が辞めるといえば、私たちも会社も当然、引き止めますからね。それがさらに心の負担になっていくと思ったんでしょう。代行サービスを使うなんて、彼女らしくないと私も思っていたけど、周りが自分を過大評価していると思い込んでつらくなっていったみたい。
決して過大評価ではないと私は思いますが、そういう言葉がつらいんですと言われて、それ以上、何も言えなくなりました」
社会生活上の自分とプライベートな自分。人は誰しも適当に自分を使い分けているものだが、ギャップが大きすぎるとだんだん追い込まれてしまうのかもしれない。
「しばらく休んでから自分に合った仕事を徐々に始めるつもりですと彼女は言っていました。後輩を育てきれなかったことに内心、忸怩たるものはありますね。仕方なかったと周りは言ってくれたけど、もう少し何かできることがあったのではないかと考えてしまいます」
アサミさんは「4年も頑張ってくれたのに」と小声でつぶやいていた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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