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「糖質制限ダイエット」は無意味? インスリンと血糖値の関係【薬学部教授が解説】

オールアバウト / 2025年1月30日 20時45分

「糖質制限ダイエット」は無意味? インスリンと血糖値の関係【薬学部教授が解説】

【薬学博士が解説】「インスリン」は 「血糖値を下げる役割を持つホルモン」だと思っていませんか? 糖質制限ダイエットに励んでいる方もいるかもしれませんが、意味のない食事制限は、健康のために逆効果です。インスリンの役割について、分かりやすく解説します。

健康維持や体重コントロールのために、糖質制限ダイエットに取り組んでいる人は珍しくありません。糖質制限ダイエットは、しばしば膵臓(すいぞう)ホルモンである「インスリン」の分泌を抑えられると説明されています。しかし、これは大きな誤りです。本来のインスリンの役割が誤解されています。

誤った情報で、効果のないダイエットに励むのは、非常にもったいないことです。正しい知識をベースにできるよう、誤解されがちな「インスリン」の役割について、分かりやすく解説します。

インスリン分泌で血糖値が下がる? 誤解されやすい「結果」と「目的」

私たちが糖質を摂取すると、血糖値(=血液中のグルコース濃度)が上昇します。膵臓(すいぞう)は、血糖値の上昇を察知すると、インスリンを分泌します。医療従事者ですら「インスリンは血糖値を下げるホルモン」と解説する例が見られますが、残念ながらこの説明は誤りです。

インスリンの本来の役割は、「筋肉や脂肪細胞が、摂食によって増えた血液中のグルコースを取り込んで、エネルギー産生を行う助けをすること」です。インスリンが分泌されると血糖値が下がるのは、グルコースが細胞に取り込まれることによって生じる「結果」であり、「目的」ではありません。

一般に、グルコースは細胞内より細胞外に多く存在しています。「濃度勾配」に従って、グルコース濃度の濃い細胞外から薄い細胞内へと自然に入りそうに思われるかもしれませんが、実際はそうなりません。

そもそもグルコースは水溶性物質であり、脂質からなる細胞膜を通り抜けられないからです。細胞外にあるグルコースが細胞内に移動するためには、「グルコーストランスポーター(GLUT)」という特殊な輸送タンパク質の助けが必要です。

GLUTには少なくとも14種類があることが知られています。そのうちインスリンに応答する性質をもっているのは、「GLUT4」というタイプのものです。

筋肉や脂肪細胞には、「インスリン受容体」と「GLUT4」が存在しています。

GLUT4は通常、細胞内にある小さな膜に包まれた袋状の構造体(専門的には 「小胞」または「vesicle」 と呼びます)に存在していて、そのままではグルコースの取り込みを行えません。しかし、細胞にインスリンが作用すると、まずインスリン受容体が反応し、その信号が「小胞」に伝えられ、小胞にあったGLUT4が細胞膜へと移動します。

すると、細胞膜上に配置されたGLUT4が、細胞外に存在するグルコースを細胞内へと取り込むのです。細胞内に取り込まれたグルコースは、その後、酵素反応などによって分解され、細胞活動に必要なエネルギーへと変換されていきます。

つまり、グルコースは、私たちが生きて活動するために必要なエネルギー源となりますが、食べたときにインスリンが働かなければ、せっかくのグルコースも、細胞が取り込んで利用することができなくなるのです。

インスリンが正しく分泌されて筋肉や脂肪細胞に作用しないと、私たちの体はエネルギー不足に陥り、活動できなくなってしまいます。

糖尿病なら「糖質制限」は大切! しかし健康な人には逆効果

糖尿病になると、インスリンがうまく働かなくなります。そのため細胞に取り込まれずに余ったグルコースが血液中に残ってしまい、過剰なグルコースが血管壁のタンパク質に結合し、動脈硬化などを引き起こす可能性があります。

目の網膜の血管が壊れると失明につながりますし、腎臓の血管が壊れて腎不全に陥ると致命的です。そうならないため必要なのが「糖質制限」です。

しかし、ごく普通の日常生活を送れている健康な人が、インスリン分泌を抑えるような糖質制限をすると、体はエネルギー不足に陥り、元気に活動することができなくなります。結果的に体重が落とせたとしても、健康的な痩せ方とは言えないでしょう。

もちろん、暴飲暴食は健康のためによくありません。しかし普通に食事をとっていて、健康診断で血糖値異常を指摘されたことがないような人が、不必要な糖質制限をしては、かえって健康を害するだけです。筆者はおすすめしません。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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