フジ上層部、最初の会見後は「ヘラヘラしていた」と社内の声。中居正広とワインスタイン事件の酷似
オールアバウト / 2025年1月27日 21時15分
中居正広氏が「芸能関係」の女性とトラブルを起こし、巨額の示談金を払っていた事件にフジテレビ社員が関わっていた問題で、フジテレビは窮地に立たされている。筆者が12月初旬から把握していた内容、アメリカの「#MeToo運動」の発端となった事件との類似点を挙げた。
フジテレビが前代未聞の危機的状態にある。
1月27日、フジテレビは2度目となる記者会見を開いた。そこでは嘉納修治会長と港浩一社長が「責任は経営者にある」として同日付で退任を発表した。
フジテレビ、CM差し止め75社
事の発端は、2024年12月19日発売の『女性セブン』(小学館)が「中居正広 巨額解決金 乗り越えた女性深刻トラブル」という記事を掲載したことだった。内容は、国民的タレントだった中居正広氏が「芸能関係」の女性とトラブルを起こし、巨額の示談金を払っていたというもの。さらにそこにはフジテレビの編成幹部(元プロデューサー)も絡んでいたと報じられた。するとこの問題はみるみる大きくなり、関与したとされるフジテレビに対して、スポンサー企業が分かっているだけで75社もCM放送を差し止める事態になっている。さらにフジテレビが2度にわたって記者会見するところまで状況は悪化した。
実はこの件については、筆者は12月の早い時期に情報をつかんでいた。そこで今回は筆者が見てきたこの1カ月以上の騒動の裏側をできる範囲でお伝えしたいと思う。外国で起きた同様の事件についての視点も少し絡めて、このニュースを考察してみたい。
「女性が警察に訴えることも考えたが、フジテレビ側がそれを止めた」
筆者が最初に話を聞いたのは、中居氏とフジテレビに近い関係者からであった。その段階では、既に週刊誌2誌が情報をつかんで取材を始めていることも耳にしていた。その時点で、顛末(てんまつ)を詳しく知る立場の関係者が筆者にこう話している。「中居正広氏がフジテレビの元女性アナウンサーXさんに、意に沿わない性的行為を行ったことで9000万円の示談をしていた。問題は、その出来事が起きた2023年6月以降、女性が警察に訴えることも考えたが、フジテレビ側がそれを止めたこと。その後、Xさんは体調を崩し、結局フジテレビも退職した」
普段は芸能関係の取材をしない筆者も、仮にこの話のように、会社が性被害を訴える社員の「口封じ」と解釈できるような行動を取っていたとしたら看過できない。しかも国から放送免許を付され、報道機関でもあるフジテレビが組織としてそんなことをしていたとすれば糾弾されるのは避けられないと思い、さらに情報収集を続けた。
ワインスタイン事件と酷似した内容
この件からすぐに思い出したのは、2017年にアメリカのハリウッドで起きた事件だった。著名な映画プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタイン氏(受刑者)が、女性俳優やスタッフらに、プロデューサーという優位的な立場を使って性的暴行やハラスメントなどを繰り返し、大問題に。被害者の女性たちが次々と経験を告発し、「#MeToo」運動に発展している。ワインスタイン氏はアメリカ・ロサンゼルスの裁判所で、性的暴行などの罪状から禁錮16年の判決を受けており、さらにほかの裁判も進行中である。
中居氏の件は、フジテレビの元プロデューサーが関与して、立場の弱い女性に性的な行為を行ったという話であり、ワインスタイン受刑者の行為を想起させるものだった。事実、示談の原因が意に沿わない性的行為であれば、刑事事件に発展してもおかしくない。そうなれば、被害者のXさんが警察に訴えることを止めた人たちも共犯関係になりかねない。
事の重大さは承知していたが、既に週刊誌2誌が記事にすべく動いているのもキャッチしていたので筆者は自ら記事にするのは控えていた。というのも、そもそも芸能スキャンダルは「守備範囲」ではなかったし、1誌はフジテレビの幹部に直撃取材を始めているのも把握していたために横槍を入れたくなかったというのもある。
加えて、これはその後に報道を行う『女性セブン』と『週刊文春』(文藝春秋)の関係者も記事にする際に気を付けていたことだというが、性的事件の被害者がいることを考え、報じ方を間違えると「セカンドレイプ」のような状況になりかねなかった。週刊誌側もどう報じるのかに頭を悩ませ、非常に慎重になっていたのも聞いていたので、先に情報を公開するのがはばかられた。
そのため、筆者はひと通り情報収集を済ました後で、得た情報については詳細は書かずに12月13日にXで匂わせるような投稿を行った。「こ、これは、近く日本の芸能界でとんでもない騒ぎが起きるな……」と。
週刊誌の記事は、慎重な姿勢なのが痛いほど分かる内容
筆者が注目したのは、『女性セブン』と『週刊文春』のどちらが先に記事を発表するかだった。Xに投稿した5日後の12月19日の木曜日には、『女性セブン』も『週刊文春』も最新号が発売される予定だったからだ。両誌とも取材を進めており、どちらが先にこの話を世に出すのかを注視していた。出版関係者の多くは、週刊誌の発売日の前日には「早刷り」と呼ばれる見本誌を入手する。発売前に、どんなラインアップの記事が掲載されているのかが分かるのだが、『週刊文春』の最新号ではその内容を取り扱っていないことが判明。一方で、『女性セブン』が記事を書いていることが分かった。
そして『女性セブン』の記事が先に「スクープ」として報じられることになる。
『女性セブン』の記事を読むと、非常に言葉を選んで書かれているのが分かる。『週刊文春』関係者も記事を受けて「これが書ける限界だったのだろうね……」と言っていたのを覚えている。もちろん記者たちは書かれている以上の情報をつかんでいるものだが、『女性セブン』の記事は慎重な姿勢なのが痛いほど分かる内容だった。それでも、この記事を受けて日本の芸能マスコミは、上を下への大騒ぎになり、後追い記事が続いた。
発売後にフジテレビ幹部に話を聞くと、上層部はそれほど慌てていなかったと言っていた。それよりも、『女性セブン』の記事が出た時点で、既に『週刊文春』の記者たちはフジテレビ幹部らの自宅を次々に直撃取材していたため、翌週にどんな記事を書いてくるのかに戦々恐々としていたという。
そして翌週の12月26日、『週刊文春』が満を持して「中居正広 9000万円 SEXスキャンダルの全貌」という記事を掲載。記事の内容を読んだ『女性セブン』関係者が筆者にメッセージをよこし、「被害者自身がしゃべっている」と驚きを伝えてきた。
というのも、被害女性はフジテレビを退社して新たな道を歩むことを決め、既に順調に活動を行っている。さらには、示談金を受け取って守秘義務もあり、彼女の周囲からは「彼女はこの件についてメディアでは絶対に話すつもりはない」という話が出ていたからだ。
『週刊文春』の記事を受け、フジテレビ幹部は筆者にこう述べている。「まさか本人からコメントを取るとは……文春のすごさを見せつけられた」
「守秘義務」が存在すること自体が、「強引な口止め」の印象を強めている
この記事以降、SNSでは、Xさんの「守秘義務違反」が話題に。「示談金を受け取っているのにマスコミに話をするのはけしからん!」と、中居氏を擁護するような人たちから声が上がっていた。だがそもそも守秘義務契約をサインする前に、Xさんが近い人たちに被害について相談するのは普通であり、いくらXさん自身が守秘義務に合意した後に人に言わなくなったとしても、その事情を既に知っている周囲の人たちが誰かに話してしまうことを守秘義務契約では阻止できない。
さらに言えば、先に述べたハリウッドのワインスタイン氏も、自分が性的暴行などをした相手には「守秘義務」に署名させるなどをして口止め工作を行っていた。それでも結局、その守秘義務を超えて刑事事件で裁かれる事態になっている。中居氏の事件も“示談”であることで、性的な事件を強引に「口止め」しているという印象が出てしまい、守秘義務を盾に性的事件から逃げおおせるというのはいかがなものかという議論も巻き起こっている。
フジテレビの上層部は「ヘラヘラしている」
こうした事態を受け、フジテレビは定例記者会見の延長として、港浩一社長が出席しこの問題に関する会見を開いた。ところが参加記者を制限したり映像取材を禁じたりするなどお粗末な仕切りで、火に油を注ぐ結果となった。結局、今でも、メディアやSNSで叩かれまくっている。ただこの最初の記者会見後に、フジテレビ幹部に上層部の様子を聞くと、「港さんをはじめ、上層部は会見で説明責任を果たしたと認識しており、ヘラヘラしている。事の重大さが分かっておらず見てられなかった。許せない」と話してくれた。
そして大きな変化が起きたのは、1月9日の中居氏によるコメントが発表された時だった。中居氏はトラブルがあったことを自ら認めたのである。これ以降、外国メディアもこのニュースを次々報じ始め、日本でもせきを切ったようにメディアがこの件を大々的に報じ始めた。以降、フジメディアホールディングスの外国人の株主らが、フジに内部調査を求めるなどのプレッシャーをかけている。
上層部への不信感を隠さないフジテレビ労働組合は、この件の前には80人しかいなかったメンバーが500人を超え、急増している。労働組合の要求は、経営陣の一掃と、日枝久取締役相談役の退陣だ。そうしないと視聴者もスポンサーも離れていくばかりだ、と認識している。
経営陣を一掃し、生まれ変わるチャンスにもなり得る
今後、この騒動はまだ収まりそうにない。というのも、週刊誌側はこの件に絡んで、また別の被害者にも取材をしているようであるし、今後の展開次第では、さらに垂れ込みという形でさらなる話が週刊誌に持ち込まれる可能性もある。フジテレビは、真実を語って真摯(しんし)にこの問題と向き合う姿勢を見せなければ、これほどまでに悪化した信用は回復できない可能性がある。ただ逆を言えば、経営陣を一掃して新たな体制で再起を図れば、生まれ変わることもできるチャンスでもある。ここからのフジテレビの動きに注目したい。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)
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