「多様性廃止」に向かうメタ、マクドナルドら大手企業。トランプ「性別は男と女だけ」がもたらす閉鎖性
オールアバウト / 2025年2月6日 21時10分
トランプ大統領の性別に関する大統領令に注目が集まっている。「性別は男と女だけしかない」とし、「多様性、公平性、包摂性」を意味するDEIの廃止を呼び掛けた。この方針に、アメリカの大手企業はどう反応したのか。(サムネイル画像出典:Jonah Elkowitz / Shutterstock.com)
1月20日、アメリカでついにドナルド・トランプ大統領の第二次政権が発足した。トランプ大統領は就任当日から飛ばしまくりで、1日で26本の大統領令と、12本の大統領覚書に署名した。
「性別は男と女だけ」発言。日本への影響は?
その中でも世界的に驚きをもって受け止められているのが、性別に関する大統領令だろう。そこには「『性別』とは、男性または女性という個人の不変の生物学的分類を指します。『性別』は『性自認』の同義語ではなく、その概念も含みません」と書かれ、性別は男と女だけしかないと宣言した。しかも数日後には、連邦政府職員などの雇用について、「連邦職員における『多様性、公平性、包摂性』(DEI)のプログラムを廃止する」と大統領令を出した。つまり、ジョー・バイデン前政権が推し進めてきた、政府機関などで少数派や性的マイノリティなどを積極的に採用する方針を終わりにするよう命じたのである。
これにより、アメリカではすでにDEI政策を推進する政府機関や部署などの職員を出勤停止に。職場などで多様性を認めようとする世界的な風潮に逆行するトランプの方針には、驚きと動揺が広がっている。
2月3日(日本時間)に行われた「第67回グラミー賞授賞式」では、歌手のアリシア・キーズやレディー・ガガらが、DEI運動を擁護して多様な価値観が必要だと訴えた。トランプ氏の動きはさまざまな分野を動揺させているようだ。
実はこの流れは、アメリカの民間企業にも広がりつつある。世界的なアメリカの企業にも波及し、トランプ大統領の方針が民間企業を振り回し始めているとも言える。そして今後トランプ大統領からどんな方針が飛び出すのかに企業側は戦々恐々としている。気になるのは、こうしたアメリカの動きが日本にどんな影響を及ぼす可能性があるのか、だろう。
トランプ大統領、ザッカーバーグ氏に「あいつを刑務所送りにしてやる」
トランプ大統領の方針を実行に移した民間企業の例を見てみよう。まずは大手IT企業メタだ。FacebookやInstagram、WhatsAppなどを運営している同社は、マーク・ザッカーバーグCEOがトランプ大統領と会談を行っており、大統領就任直前にDEIを推進する社内のポリシーを終了することになった。
ザッカーバーグCEOは、トランプ第一次政権の終わりに、Facebook上でトランプ大統領のアカウントを凍結するなどしたことで、トランプ大統領から選挙戦で「あいつを刑務所送りにしてやる」と口撃されていた。その後、ザッカーバーグCEOが詫びを入れた、という経緯がある。
そんなことから、今回のDEIにはすぐに反応。多様性を重視する取引先とは提携も中止すると明らかにしたのである。雇用においても、多様な採用を行ってきた社会のプログラムを廃止することになった。この方針は、当然ながら世界各国にあるFacebook支社などの採用方針にも影響を及ぼすだろう。
さらに若者に人気があるInstagramなどのユーザーにもその「閉鎖性」が波及するかもしれず、日本を含む世界中でブランドイメージが低下する可能性もある。例えば、おすすめ欄などに、多様性を強調したコンテンツがあまり見られなくなっていくことも考えられる。
マクドナルド、人種や性別などの多様性を強化する目標を撤廃
トランプに迎合したとみられるのはメタだけではない。世界的なブランドでは、マクドナルドも同様だ。マクドナルドは、トランプ大統領が日常的に食している“お気に入り”であり、大統領選キャンペーン中にはマクドナルドで働くパフォーマンスを見せたこともある。マクドナルドも、DEIの取り組みを終了すると発表した。同社は、「包摂性」は重視し続けると強調しながらも、上級管理職の任命において人種や性別などの多様性を強化する目標を撤廃。これまでは、経営陣に対して多様性を重視する教育をしたり、サプライヤーに多様性に関する研修を実施したりしてきたが、それらのプログラムを廃止するという。
アメリカでは、2020年に黒人男性が職務質問の際に警察官に押さえ付けられ死亡した事件を受けて、各地で黒人などを中心とした暴動が勃発。その事件をきっかけにDEIへの取り組みが拡大された。しかしその流れも最近ではブレーキがかかっており、トランプ大統領が登場してからはDEIを廃止する流れに拍車がかかる可能性がある。
もちろんこれらの企業は、過去に立てたDEIへの目標をすでに達成しているという肯定的な見方もする向きもあるが、トランプ大統領の勝利と再任でDEIに対する潮目が変わったのは間違いないだろう。そもそも民間企業の多くには、雇用において、DEIを優先した採用よりも、有能な人材を確保し雇用を維持したい本心があるとも言われており、そこをトランプ大統領が突いているともみられている。
アマゾンの企業ポリシーから「黒人の平等」「LGBTQ+の権利」が消える
このほか、DEIの施策縮小を発表した企業はほかにもある。アメリカの小売大手ウォルマートは、取引先企業を評価する際に、性別や人種を考慮するよう指導する取り組みを終了すると発表した。しかもウォルマートは、企業をLGBTQ+の「受容度」で評価する国際的人権団体ヒューマン・ライツ・キャンペーンの年次ベンチマークの調査からも撤退すると述べている。
また、オンライン通販大手アマゾンも、トランプ政権発足を受けてDEIを重要視しない方針に舵を切っている。同社は従業員向けのメモの中で、DEIに関連する「時代遅れのプログラムと文書を段階的に廃止」して、2024年末までにそのプロセスの完了を目指していると述べている。すでに「黒人の平等」「LGBTQ+の権利」といった文言が企業ポリシーから消えているという。
元々、自動車大手フォードやバイク大手ハーレー・ダビッドソンなどは、大統領選真っただ中の8月ごろからトランプ支持と相まってDEIの廃止に向けた調整を行っている。
DEI廃止は日本企業にも波及するのか
こうした流れは日本にも来るのだろうか。おそらくただちに日本企業から自発的にDEIなど少数派への配慮方針が撤廃されることはないとみられる。ただアメリカで多国籍企業などがDEI廃止の方向に動くことになれば、その方針は日本の支社などにも波及してくる可能性はある。メタのように、取引先にも働きかけるとなれば、関連企業は無関係ではいられない。トランプ大統領は、1月30日(日本時間)に首都ワシントン近くの空港で発生した旅客機と軍のヘリコプターの激突事故も、アメリカ連邦航空局(FAA)がDEIを重視した雇用を行っているため、管制官などに“能力の高い”職員が就いていないと批判して大きな騒動となっている。
トランプ大統領は今後4年でこの主張を繰り返していくとみられるが、世界がその動きにどう反応していくことになるのか、注目だ。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)
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