JTBショック! 続出する人気企業の新卒採用中止は、日本の雇用をどう変える?
オールアバウト / 2021年1月8日 21時15分

コロナ禍の採用事情を象徴した2つのニュース
厚生労働省が2020年12月28日に発表した内容によれば、新型コロナウイルス感染拡大に起因する解雇や雇い止めは12月25日時点で、その見込みを含めて7万9522人とのことだった。これは全国の感染者数が過去最大を記録したタイミングと重なり、特に統計直前の1週間で前週より1783人増加した。この発表から約1カ月前、新卒学生から絶大なる人気を誇る有名企業の衝撃的なニュースが発表されていた。
11月20日に旅行業界最大手のJTBが発表したところによれば、2021年3月までの1年間でグループ全体の赤字幅が過去最大となる1000億円に達する見通しであり、それに伴い早期退職などで社員の2割に相当する6500人、そして2019年度比で国内店舗数の4分の1に相当する115店舗を閉鎖、さらには国内のグループ会社10社以上を統合等で削減、海外拠点も190拠点を閉鎖する計画とのことだ。
このニュースと同じタイミングで、JTBは2022年4月入社の新卒採用の募集を行わないことも発表した。大学生の人気ランキングでは、毎年常にトップクラスにランクインする超人気企業だけに、落胆した学生は多かったに違いない。
JTBの発表から約4カ月前の7月には、同じく就職人気企業であるANAとJALが新卒採用中止を発表していただけに、JTBの中止の発表は旅行業界の不振からある程度予想されたこととはいえ、旅行業界を志望しない就活生にとっても、2020年の就活に暗雲をもたらしたニュースであった。
コロナ禍の影響で解雇や雇い止めには正規労働者が目立ってきた
これら2つのニュースはコロナ禍の混乱が招いた出来事であるが、どちらのニュースも日本独自の雇用慣習があるからこそ注目度が高かったのではないだろうか。コロナ禍で解雇者増加のニュースの背景には、正規労働者の解雇の規制が日本では厳しいという背景がある。やむなく会社都合で解雇が行われるには、一定の条件をクリアしているかを個別に精査する必要がある。一方、昨今の全国的なコロナ禍の混乱を前にすれば、過去の日本の雇用の慣習にかかわらず、この状況下なら解雇が起きてもしょうがないというあきらめムードに支配されていることはないかと心配は尽きない。
実際、12月25日時点の週間集計では前週より1783人の解雇者が増加し、12月に入ってから増加幅が拡大している。その内訳の7割に相当する1234人が正規労働者であり、残りの3割に相当する非正規労働者の549人の解雇者を大きく上回っている。
コロナ禍の影響にはいろいろなものがあるが、会社都合で解雇になる人が労働市場に急激に増えることが、今後コロナ禍が収まった後にも禍根を残す可能性がある。解雇要件は、欧米やアジア諸国と日本の間にはそれほど大きな違いはなく、あくまでも解雇する際の合理性や妥当性の判断が問われるが、過去の判例や解雇の実績も影響することがある。
このため、コロナ禍という危機的状況であったにせよ、正規労働者の解雇者数の増加や、解雇要件の解釈が緩和される傾向が生まれかねないことには注意していくことが必要である。
新卒学生の4月一斉採用は本当に必要なのか
一方、JTBのニュースを聞いて再認識したのは、日本の新卒採用が4月入社の一括採用であることである。これは欧米やアジア諸国には見られない、日本独自のシステムである。一方、日本でも少しずつ変化の兆しはある。例えば外資系企業を中心に通年採用やジョブ型雇用が広がり、海外大学の卒業生を採用することを念頭に置いて、10月入社を導入する企業も増えつつある。
実際、早稲田大学や国際基督教大学などでは4月入学以外に9月入学の募集もしており、国内大学にも入学時期や卒業時期の多様化が進む兆しはある。少子化によって、今後は若い世代の獲得競争に拍車がかかることを見越せば、採用方法の柔軟性を上げておくことは理にかなっている。
では新卒学生を毎年決まって4月入社で採用させることには、どのような理由があるのだろうか。企業にとって、終身雇用を前提とすれば同年齢の若手社員を定期的に採用することで、年齢層が均等化された組織作りをすることができる。
しかし世の中に転職社会が定着し、中途採用者の数が増加した今となっては、このメリットはあまり当てはまらない。採用活動を集中的に行えることや、新入社員研修を効率的に実施できることもメリットではあったが、逆に応募学生が集中しすぎて、じっくりと採用選考に時間がかけられないことで採用のミスマッチを増やすなどのデメリットもある。
働き方の多様化が進んだように採用の多様化にも変化が起きる
経団連に加入する1600社余りの大手企業が守ることを前提に決めていた就活ルールが原則廃止されることが最初に発表されたのが2018年10月のことだったが、以後、政府と経団連の話し合いが繰り返しもたれた結果、現在は少なくても2022年4月入社までは、現状の就活ルールを維持することになり、企業の採用面接の開始時期は大学4年時の6月1日とすることとなっている。コロナ禍で就活市場も混乱を極めており、これ以上、企業間で青田買いが激化して、それが大学生の不安を増長し、勉学を中心とした学生生活にも影響することを心配した末の措置である。10月入社や通年採用、そしてジョブ型雇用へのシフトが進む中で、新卒の4月入社を前提にした旧来の就活ルール維持がどれほどの意味を持つか、これからも注目していく必要がある。
就活学生にとって超人気企業であるJTBが2022年の新卒採用中止を決めた事の影響は大きかったが、業績回復の状況次第では、このコロナ禍を機に通年採用などの柔軟な新卒採用へのシフトを実行するかもしれず、そのことが新卒学生の心理に与えるインパクトはもっと大きいかもしれない。
コロナ禍によって在宅勤務など、いわゆる働き方の多様化は一気に進化した。オンライン会議などの導入で、社員のITリテラシーも向上した。長年続いた新卒の採用の慣習も、コロナ禍の衝撃がきっかけになって、今後急速に変化していく可能性もある。
そうなれば、中途採用のあり方やキャリアの考え方にも変化が生まれるはずだ。その結果、日本の労働市場における人材の流動性や働き方の柔軟性は、今よりもっと進化していくのではないだろうか。
日本社会にも、ようやく働き方の多様化が実現しつつある中、採用の多様化が進めば、日本の労働環境はもっと余裕のあるものとなり、ワークライフバランスも改善されていくはずである。
(文:小松 俊明(転職のノウハウ・外資転職ガイド))
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