ホストの闇にハマり込んでいく女|12星座連載小説#108~射手座9話~
ananweb / 2017年6月29日 21時15分
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮
【12星座 女たちの人生】第108話 ~射手座-9~
「淳子ちゃん、あっという間に無くなっちゃったね……もう一本飲まない?」
純が、私の横で物欲しげな顔をしている。
なに……!? これって……もしかして、ボトル追加しろってこと?
なるほど、このタカシってヤツにガンガン飲ませて、自分は綺麗に飲むって魂胆ね。そうはいかないわよ!
『そうねぇ……何か面白いことしてくれたら、考えてあげる』
私だって、おねだりのかわし方ぐらい心得てるつもりよ。
「タカシ、お前何かやってみせてよ」
「え……。お、じゃあ、オーラ出します! フンッ!」
純に言われて、タカシという男が顔を真っ赤にして力んでいる。なるほど、売れないホストっていうのは、身体張らないといけないから大変ね。
「お~タカシ、オーラすげぇじゃん! “茹でだこ”みたいになってんぞ」
『クスッ』
純の発言に、不覚にも少し笑ってしまった。
「あ! 淳子、笑った! 今、クスって笑ったろ!」
『えぇ~、もっと大笑いさせて欲しいんだけど~』
てゆーか、いつの間にか“タメ語”になってるし。
「いやいや笑ったんだから、もう一本!」
「もう一本! もう一本!」
純とタカシの、“もう一本コール”が店内に響き渡る。してやられたけど、そんなに悪い気はしない。
『仕方ないわねぇ……じゃあ、もう一本入れるわ!』
「おお! さっすが淳子」
『それじゃあ……、モエかな』
「OK! モエ・グラン・ビンテージはいりま~す!」
しまった。種類を言いそびれた! 一番高価な黒ラベルのモエじゃないのよ……。
『ちょっと待って、ピンクでお願い』
「はい! 話がーリアル! はいははいははい! 話がーリアル! はいははいはい!」
純とタカシが囃し立ててきた。
うっわ、嘘でしょ。
黒ラベルのモエが、テーブルにで~んと置かれた。
相場なら、これって10万くらいになるわよね……。他の同世代の子たちよりも、かなり稼いでるつもりだけど、さすがに1本10万のシャンパンは高い買い物だわ。
「いや~、淳子、マジでありがとう。これメッチャ美味しいからさ、淳子も早く飲んでみてよ。」
純がグラスに注いでくれる。そして、純のグラスにも注がれ……。
「グイ! グイ! グイグイよし来い! グイ! グイ! グイグイよし来い!」
いきなり、タカシがボトルごと一気をし始めた。
う……うわ……ぁ……。空になった。あっという間に吸い込まれていく10万円。
コイツ!
『ねぇ、ちょっと純、私もっとゆっくり飲みたいんだけど……。タカシ飲み過ぎじゃない?』
「ああ、そうだよね、ゴメンね淳子。……おい、タカシ、お前俺のテーブルで汚い飲み方すんなよ。淳子に嫌われたらど~すんだよ!」
純がタカシを怒鳴る。
『いや、まぁ……そんなに怒んなくても』
「タカシ、お前もう他のテーブルにつけよ」
「すみません、淳子さん。失礼させて頂きます」
タカシはシュンとして、戻っていった。
『ちょっと、言い過ぎじゃない?』
「淳子って本当に優しいね」
突然、純がまっすぐに私の目を見つめてくる―――
ヤバ……、ハマるかも。
「じゃあ、俺、他のテーブルに呼ばれたみたいだから、ちょっと行ってくるね。すぐ戻るからさ、絶対帰んないで待っててよ!」
そう言って、純は立ち上がった。そして入れ替わりに席に着いたのは、この店“ナンバーワン”のマサシだ。
純が突然席を外したのはムカつくけど、この子とも話してみたかったから、まぁいいか。
「どうも、お久しぶりです」
『そうだね、六本木ぶりだね~』
活発で明るい純とは対照的に、マサシはおとなしくて可愛い雰囲気。どこか陰を感じる子ね。
「あの、どうして純を指名されたんですか?」
『えっ?』
意外な質問に少し戸惑う。
「淳子さんには、たぶん僕みたいなタイプの方があってますよ」
えええ! この子、意外と肉食系……?
そこらへんの普通の男から、こんなこと言われたら“ドン引き”間違いなしだけど、ホストクラブで綺麗な顔をした男子から言われると、クラッときちゃう。
「何でそう思うの?」
取りあえず、平静を装ってみる。
「だって、僕と一緒にいる時は、淳子さんが積極的に話をしてくれますから」
そうかな? 少し思い返してみる。う~ん、言われてみれば確かにそうかも。
マサシはあまり口数が多い方じゃないから、私が色々喋っちゃうのかもしれないわね。
「ね? 僕の方が合うでしょ?」
『そうねぇ……』
「僕、連絡くれるの待ってたんですよ。良ければ飲みましょう」
今、だいたい14、5万くらいか。お酒はシャンパン2杯だからまだ大丈夫。
まぁ、マサシが待っていてくれたんだから、1本入れようか。
『じゃあ、ヴーヴ・クリコでお願いするわ』
「ありがとうございます。ヴーヴお願いしまぁす!」
マサシは純と違って、人の話の腰を折らないから、会話しやすいわ。でも、なんでこの子がナンバーワンなのかしら……。
確かに顔立ちは整っているし、物腰も柔らかく、さらには肉食系。だけど、トップに立つ迫力というか、カリスマ性はそこまで感じない。
―――私はその時まだ、この美青年ホストの本性を知らなかった。
射手座 第3話 終
【今回の主役】
戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業
ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。
(C) AbElena / Shutterstock
(C) Tuzemka / Shutterstock
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