「I know. 」~私は知っている。~|12星座連載小説#123~水瓶座 最終話~
ananweb / 2017年7月21日 21時15分
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮
【12星座 女たちの人生】第123話 ~水瓶座-最終話~
―――半年後
カーテンから差し込む強い日差しで、自然と目が覚めた。
『10時半か……』
半年前なら、こんな時間に起きたら大遅刻で大目玉を食らっていただろう。個人事業ってのは、つくづく気楽で良いもんだな。
隣で寝ている好美が、口を半開きにして幸せそうだ。
今日は私たちのサイトがオープンしてからちょうど1ヶ月。何度も試行錯誤し、ようやくSEOも最適化したところだ。
3か月前、「キュート・キッチュ」を退職する時には流石に不安もあったけど、今の仕事に慣れてからは、それはもう楽しくて―――。
退職なんて、あっという間だった。お見送りもなければ、送別会もない。
ただただ、自分のデスクが空っぽになるだけだ。
三橋だけが、一緒に飲んでくれたっけ。あいつは、今も頑張ってるんだ……。
……結局、社長とは顔を合わせることすらなかった。
従業員のひとりがやめたところで、組織に影響はないんだろう。
退職に向けて引き継ぎを進める中で、私は好美とのビジネスの中身を練っていった。
販売するものは、好美がオリジナルで制作する情報商材。あいつはゴスロリ系の女子に向けてファッションやメイク、仕草なんかをレクチャーするのが上手いんだよな……。何ていうか、才能だと思う。
最近では動画を撮って、DVDにしたりYouTubeなんかにも“さわり”の部分をアップしていたりする。それまでは顔出しする勇気が出なかったらしい。けど今回、私と二人でやることになってから、吹っ切れたようだ。
これから、各専門家の人たちと協力して、ゴスロリ女子向けのトータルコーディネートを企画していくつもりみたいだ。セミナーの展開なんかも考えているのかもしれない。
部屋の中には、ゴシックロリータファッションの服が所狭しとかけられている。もしかしたら、年内に引越しもあるかもしれないな……。
私はというと、HPの製作と並行して、LP作りに追われている。好美が作ったコンテンツをより多くの人達に見てもらうように、コマーシャルしていくのが私の仕事だ。
どうやら、裏方の方が性にあっているらしい。誰にも何にも指図されることなく自分でやることを決めていくっていうのは、自由で良いや。
好美も毎回、
「すご~い!レナレナ、こんな事もできちゃうんだ~!」
とかって感激してくれるしね。やり甲斐もあるってもんだわ。
負けず嫌いな性格が幸いして、私はプログラム言語やウェブの解析方法を勉強している。いずれ資格も取っていこうと思う。
仕事は大きな会社でするだけが全てじゃない。個人で小さく動くとしても、ムーブメントは起こしていけると信じている。
「……おはよ、レナ。ご飯作るから、ちょっと待っててね」
眠たそうな目をこすりながら、好美が起きてきた。
『ああ、ゆっくりでいいからね。ありがとう』
そう言って、私は大きいホワイトボードに今日の自分のタスクを書き込んでいく。隣には、好美の書き込むスペースもある。こうしてお互いのやるべきこと、やった内容を把握し合うのだ。
そして、一番上には二人の共通目標が掲げられている。
「楽しむこと、楽しませること!」
「目指せ!年商2000万!」
「毎週ミーティングを欠かさない」
この3つが当面の目標だ。
二人とも自分の技術を持ち合って働くから、資金が要らないのが有難い。おまけに在宅でルームシェアしてるから、家賃もそうかからない。
パソコンが一人一台あれば十分なんだから、こんなにコスパの良いビジネスも他にないんじゃない。(まぁ、好美の洋服代はバカにならないけど、趣味も兼ねてるから黙認している)
私は楽しいコンテンツを作って行きたかった。だから「キュート・キッチュ」に入社したんだ。
でも、結局組織というのは、ひとつの生き物でもある。所属する人間がやりたい事をやっていたんじゃ、まわっていかない。
私は“飼われる”のは合っていなかった、ただそれだけのことだ―――。
美味しそうなパンの香りと焼けた卵、ベーコンの脂の匂いが鼻をくすぐる。そろそろ“遅めのモーニング”ができ上がる頃だろう。
「は~い、できたよ~!ヨッシー特性ベーコンエッグトースト!」
『有難う、美味しそうだね~。……いただきまーす』
はむはむと口にトーストを頬張りながら、コーヒーを注いでくれるビジネスパートナー。
こいつとなら、やっていけそうな気がする。自分の、自分たちだけの仕事を―――。
水瓶座の女の人生は、
“I know.” ~私は知っている。~
自分の個性を活かし、独特のスタイルでそれを形にしていく。
時には学びながら、理論武装をしながら。
枠にとらわれない、型にはまらない。
そんな姿勢を崩さずに貫いていくからこそ、そこに生産的なインスピレーションが生まれる。
多くの革命家・発明家を輩出した星座だけに、周囲から理解されないこともあるけど、常に未来を見据えて楽しさを模索していく。
自由の身となった今の私なら、それができるはずよ。
今、私は心からやり甲斐を感じている―――。
水瓶座の女の人生 ~Fin~
(C) Dejan Stanic Micko / Shutterstock
【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。
(C) VGstockstudio / Shutterstock
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