“YouTubeの歌姫” を発掘したイケメン監督が思う「言語より大切なもの」は?
ananweb / 2017年7月26日 19時10分
忙しい生活が続くと、人との付き合いがギスギスしたり、ついイライラしてしまったりすることはありませんか? そこで、自分の周りにいてくれる人たちへのありがたみを改めて感じさせられる話題作をご紹介します。その映画とは……。
■ 愛と勇気に心温まる感動作『ブランカとギター弾き』!
【映画、ときどき私】 vol. 103
フィリピンの路上で孤児として暮らす少女ブランカ。ある日、母親をお金で買うというアイディアを思いつき、出会ったばかりの盲目のギター弾きピーターに頼み込んで一緒に旅へ出ることに。
そして、得意の歌で稼ぐことをピーターから教わったブランカは、幸運にもレストランで演奏する仕事を得ることになる。食事と屋根のある部屋での暮らしにようやくありついた2人の生活は、順調に進むと思われていた。しかし、ブランカの身に思わぬ危険が迫っていたのだった……。
今回は全編フィリピンで撮影されており、出演者も現地の方々のみで制作されていますが、監督と脚本を務めたのはなんと日本人。しかも、日本人として初めてイタリアのヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得たことだけでなく、世界中の映画祭で数々のグランプリを受賞したことでも大きな話題となっています。そこで、今回直撃したのは……。
■ 国境を越えた才能を発揮している長谷井宏紀監督!
これまでは写真家や映像作家としてさまざまな作品に携わってきた監督ですが、本作が初の長編作品。撮影の裏側や見どころについて語っていただきました。
過去にはフィリピンを舞台にした短編も発表しており、14年ほど前から毎年通っているという監督。
■ そこまでフィリピンに惹かれる理由は?
監督
当時、僕の周りにいた人たちがフィリピンのスラムで撮影していて、その写真を見たときに行ってみたいなと思ったのが最初のきっかけ。その頃からストリートでの出会いをするような旅ばかりを僕はしていたので、フィリピンでもごみの山で働いていた少年少女たちとけっこう仲良くなったんですよ。しかも、彼らと一緒にいる時間が自分にとってはすごく居心地がよくて。だから、彼らと会うために毎年行くようになったんです。
本作では、フィリピンの街の様子がリアルに伝わってきますが、それは監督ならではのキャスティングによって生み出された雰囲気が見事に映し出されているからこそ。
■ 路上でのキャスティングも行ったそうですが、どのようにされたのですか?
監督
歩いているときに気になる人がいたら捕まえて、セリフを言ってもらって、連絡先を聞くというリサーチをずっとしていました。脚本に書かれているキャラクターの方向性に近い人をひたすら歩いて探していたので、まったく出会わない日もありましたけど、2か月くらいはそういうことをしていたかな。
というのも、最初はキャスティングディレクターがいたので、ホールに100人くらい集めてもらったんだけど、歌がうまい少女を探しているのに、20代の男性でアクロバットができる人とかが来ちゃったりして(笑)。確かにフィリピンのそういうところはほんとにおもしろいところでもあるんだけど、でもこの映画にそれは必要なかったし、そのためにたくさんの人を呼んで、何日も潰すのはもったいなかったので、それなら自分ひとりで歩いてやったほうが早いなと思ったんですよ。
■ とはいえ、出演者がプロの役者ではないことで苦労したことはありませんでしたか?
監督
メインキャラクターでは問題なかったですけど、背景のエキストラのなかには、なかなか連絡が取れない人もいて大変だったので、諦めたことはありました。
そしたら、「フィリピンでは現場にカメラを置けばそこに人が来るから、その場で選んで」とディレクターに言われたんですよ。それで、実際にカメラを置いてみると、撮影を始める前くらいに次々と見学者が集まって来たんです(笑)。そこで、あの人とあの人って感じで連れてきて、セリフを教えて、すぐに「アクション!」って撮影してました。だから、現場で生まれたことしかなかったですよ。
そんな個性豊かなキャラクターたちが揃っているなかでも、主人公のブランカを演じたサイデル・ガブテロちゃんと本人役で出演したピーターさんの2人の存在感は圧倒的。
■ “YouTubeの歌姫” としてフィリピンで人気を集めていたサイデルちゃんを起用した理由は?
監督
演技のワークショップをしていたときに、朝起きたら僕のデスクの前に、ブランカの似顔絵を描いた紙が置いてあって、そこに彼女が自分の名前を書いていたんです。そんなふうに「私がブランカをやりたい!」というアピールを見たときに、その意志の強さが最高だなと思って、「この子しかいない」と。
初めての演技で、自分とは全然違うキャラクターを演じるにも関わらず、よく耐えてくれたなと思います。アクティングコーチをつけていましたが、その人が手をかざすだけでブランカに変わっちゃうくらいまでになっていたので、現場では何も言う必要がなかったです。それだけブランカという人間をよくわかってくれましたけど、11歳でよく理解してくれたなって感じですね。
■ では、監督にとってヒーロー的存在でもあるというピーターさんの魅力とは?
監督
フィリピンでは、一日の撮影が終わったらみんなにその日のギャラを払うんですけど、ピーターには最初にけっこうなギャラを払っていました。にも関わらず、最終日には5000円しか持っていない。でも、それはなぜかというと困っている人や親戚に配っちゃってたからなんですよ。
僕だったら、「家賃や支払いがあるな」とか「次はここに旅行したいな」とかになっちゃうんだけど、彼にはそれがまったくなくて、「いまここにある何かを大事にする」ということなんですよね。でも、それはなかなかできないことなので、かっこいいなと思いますし、さすがだなと。僕は本当にピーターを尊敬していて、彼のことは出会った瞬間からすごいと思ってましたけど、それは彼が画面に映っているだけでみんなが感じることができるはずです。
今回、プロデューサーがイタリア人で、カメラマンが日本人という以外、全員フィリピン人だったこともあり、英語とタガログ語のみの現場。そんななかでも、あえて通訳を入れずに、すべての人と直接向き合ったという監督ですが、それはこれまでセルビアやヨーロッパ、フィリピンを中心に活動されてきた経験があるからこそ。
■ 長年の海外生活において、独自のコミュニケーション方法はありますか?
監督
以前、マケドニアに行ったときに村を歩いていたら、日本人が珍しかったのか、すごく人が集まってきて、ぞろぞろとついてきたことがありました。そのときに、耳の聴こえないひとりの男の子が最後まで残ってくれて、「うちに行ってご飯を食べよう」ってジェスチャーで一生懸命に誘ってくれたんです。それで、その子について行ってある家に泊まることになり、そこにいた人たちはその子の家族ではなかったんだけど、彼らも全員耳が不自由だということがわかりました。
でも、もともと僕は現地の言葉は喋れないし、向こうも日本語が喋れるわけでもない。だから、「言語って特に重要じゃないよね」ってところに行きついて、やろうと思えば、ジェスチャーや表情だけでも会話ができるんだと感じたことはありましたね。
■ では、最後にこの作品で注目して欲しいところを教えてください。
監督
ブランカというひとりの少女が、たくましく勇気を持って進んで行く姿をぜひ見てもらいたいなと思っています!
■ 人を思う温かさと愛情を感じる!
お金や目に見えるものばかりに気を取られてしまいがちな現代だからこそ、ブランカとピーターを包み込む無償の愛に、思わず涙が込み上げてくるはず。監督自ら作詞を手掛けたという劇中歌が奏でる美しいメロディーとともに、心に残る1本です。あなたの隣にいる大切な人を誘って劇場に行ってみては?
■ 琴線に触れる予告編はこちら!
■ 作品情報
『ブランカとギター弾き』
シネスイッチ銀座他にて7月29日(土)より全国順次公開!
配給:トランスフォーマー
© 2015-ALL Rights Reserved Dorje Film
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