あなたなら…?『ザ・スクエア』が訴える「見て見ぬふり」の残酷な心理
ananweb / 2018年4月25日 16時50分
■ 衝撃が走る傑作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』!
【映画、ときどき私】 vol. 159
現代美術館のキュレーターとして成功していたクリスティアン。洗練されたファッションに身を包み、キャリアも順風満帆だった。そんななか、次の展覧会で展示されることになったのは、「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品。
そのなかでは「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という意味が込められており、アートでエゴイズムや貧富の格差に対して一石投じるというものだった。ところがある日、財布と携帯を盗まれたクリスティアンが取った予想外の行動は、その意図に反して周囲の信頼を裏切ることに……。
予測不可能な展開の数々に、誰もがこの世界観へと引きずり込まれてしまう本作。どうしたらこんなストーリーを生み出すことができるのかと、頭のなかを覗いてみたいこちらの方に今回はお話を聞いてきました。それは……。
■ 北欧の鬼才リューベン・オストルンド監督!
「北欧の若き巨匠」といわれているほど、いまやスウェーデンを代表する監督のひとりとなったオストルンド監督。本作では、カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞するなど、着実にキャリアを積んでいるところ。そんななか、初来日をはたした監督に、作品に込めた思いや今後のことなどをたっぷりと語っていただきました。
■ 本作ではインターネットの炎上についても描かれていますが、どのようなことを意識していましたか?
監督
今回描きたかったのは、いまはある種のメディア危機に陥っているということ。というのも、西洋社会においては、“クリック経済” といわれるものがメディアにも起きていて、僕はそれがすごく危機的な状況だと感じているからなんだ。
■ なかでも、特にどのようなことを懸念しているのですか?
監督
たとえば、政治の世界でいうとトランプ大統領。内容は関係なく、みんなが彼のことをニュースにしていたけれど、それによって露出が増え、投票する人が増えるという現象が起きてしまったよね。
彼が間違ったことをしていると書くことで相手を抑制できると思いがちだけど、実はそれが逆に注目を集めることになり、投票につながってしまったということなんだよ。政治家たちはそういった原理を見つけてしまったこともあり、いまではなるべく物議を醸すようなことをするようになったんだ。
だから、注目されるということが一番で、内容が二番以下になっているという民主主義にとって非常に恐ろしいことが起こっていると感じているよ。僕はメディアのそういう部分が嫌いだし、問題だと思っているからこそ、こういう映画を作ったんだ。別にトランプのことを批判しているというのではなく、メディアのそういう状況を批判しているんだよ。
そして、もうひとつの題材として描かれているのは、「傍観者効果」。聞き慣れない言葉だとは思いますが、社会心理学で使われているもので、人は周囲に他人がいると、被害者を手助けしなくなるという集団心理のこと。
私がananwebで担当している別の連載「実録!トラブルトラベラーMasamiの事件簿」でも以前書いたことがありますが、ロンドンの中心地にあるATMで襲われたときにはかなり多くの人がいたにも関わらず誰も助けてくれなかったのに対し、人通りの少ない道でひったくりにあったときには周囲にいた人全員が助けてくれたという2つの出来事。これがまさに「傍観者効果」ですが、実験でも他人を救助する確率は傍観者の数に反比例するのだとか。
■ 監督がこのテーマに興味を持ったきっかけは何ですか?
監督
この映画のはじまりともなったのは、『プレイ』(2011年)という僕の作品なんだけど、そのリサーチをしていたときに、僕が住んでいる街のショッピングモールで何度も強盗のようなことが起きていた。でも、「傍観者効果」によって、たくさんの人がいるにも関わらず、そこで起きていることに対して誰も助けないんだ。だから、僕はそういう人々の行動を変えようと思って、傍観者効果を破る「ザ・スクエア」というアートプロジェクトのアイディアを考えたんだよ。
いまの世の中では、自分には関係ないと思っていることが起こると、「ああ、なんて冷たくてエゴイスティックな社会になってしまったんだろう」みたいに個人を非難したがる傾向にある。実際それで終わってしまうこともあるんだけど、そうではないんだ。
■ では、私たちはどうすべきだとお考えですか?
監督
人間というある種の動物は、群れとして集団行動しているときに問題が起きると、こういう行動を取ってしまうもの。では、それを知ったうえで状況を変えるためにはどうしたらいいんだろうか、ということを考えるべきなんだ。
つまり、こういう状況になったらこうなってしまうんだという知識を与えて、そこからどう変えるのかを考えるのが社会学の役目であり、おもしろいところなんだと思うよ。
格差や差別だけでなく、そこから正義とは、思いやりとは何かといった社会の闇と人間の本性をえぐるように映し出している本作。それをブラックユーモアとともに描くさまは、オストルンド監督の得意とするところ。
■ これまでも独自の目線で作品に取り組んでいますが、映画を作るときに大事にしてるテーマは何ですか?
監督
今回の作品はいままで描いてきたテーマを全部含んでいるような映画になっているけれど、すべて「文明というアイディアとは何か」というテーマを投げかけているんだ。実はこのテーマは、いまのスウェーデン社会が抱えている問題。つまりそれは、移民や多様性ということなんだけど、これからもこういう題材を撮り続けていきたいと思っているよ。
■ ちなみに、今後はどのような作品を考えていますか?
監督
実は、次の映画は、「Triangle of Sadness(トライアングル オブ サッドネス)」というタイトルで、問題が起きたときにできる眉間のしわのことを表しているんだ。僕の妻がファッションカメラマンということもあって、次回はファッション業界が舞台。
そこでは美しさというものが価値であり、たとえ才能もお金も生まれの良さがなくても、美しささえあれば社会的階級においては上に駆け上がっていけるよね。そんな美しさを持って生まれたというのは、遺伝子的に宝くじに当たったようなものだけど、それはこの不公平な世界での公平さだとも僕は思っているんだよ。
主人公は美しさしかない男性で、モデルとして社会の上部に上り詰めるんだけど、ある日ハゲてきたことによって美しさの経済的価値を失っていることに気がつくんだ(笑)。しかも、劇中では無人島にたどりつくんだけど、そこでは彼の美しさは何も役に立たないんだよね。そんななか、魚獲り名人であるフィリピン人のおばさんと出会い、魚を巡ってあるおもしろい行動に出るという展開なんだ。
■ 次回作も非常に気になりますが、今回の作品から感じて欲しいことを観客へのメッセージとしてお願いします!
監督
まずは、いまのこの社会を私たちがどう見たらいいのかというのはとても大きな問題。なぜなら、個人の責任と社会の責任の境界線というのが非常にあいまいになってしまっているからなんだ。
たとえば、「私はこの問題についてこう考えます」みたいなことを多くの人がFacebookで言ったりするんだけど、「じゃあコミュニティとしてどうするのか」ということまでは考えられていない。難しいことではあるけれど、いまは混乱している状況でもあるから、そういう部分をもっと考えて欲しいとも思っているよ。
■ 「自分だったら」と問いかけずにはいられない!
この作品自体がまるで現代アートのような側面を持っているため、感じ方は人それぞれ。それだけに、鑑賞後は友だちや家族といつまでも議論していたくなるはず。次々と投げかけられる監督からの問いかけに、あなたの価値観も心も思いっきり揺さぶられてしまうかも!?
■ 皮肉とユーモアが詰まった予告編はこちら!
■ 作品情報
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
4月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、立川シネマシティ他にて全国順次公開!
配給:トランスフォーマー
© 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS
現代で足りないといわれているのは、他人に対する思いやり。誰もが「自分は持っている」と思っていても、心の奥は意外とわからないもの。そこで、自分自身を試したくなるオススメの映画話題作をご紹介します。それは……。
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