話題作『モリのいる場所』出演の俳優・黒田大輔が語る「脇役の主張」
ananweb / 2018年5月18日 18時30分
このところ大きな注目を集めている俳優といえば、バイプレイヤーの方々。ひと癖も二癖もあるみなさんが放つ魅力は、映画でもドラマでも目が離せないと人気です。そこで、幅広い役どころで数々の作品に出演し、誰もが見覚えがあるあの方にお話を聞いてきました。それは……。
写真・水野昭子(黒田大輔)
■ どんな役でもこなしてしまう俳優の黒田大輔さん!
【映画、ときどき私】 vol. 164
今回は、まもなく公開の出演映画『モリのいる場所』の撮影現場でのエピソードや役者としての思いをたっぷりと語っていただきました。本作は、『南極料理人』などで知られている沖田修一監督の最新作ですが、主人公となるのは実在した画家の熊谷守一。通称「モリ」と呼ばれていた守一は、30年間も家の外に出ることもなく、自宅の庭にいる虫や猫、草木などを描きつづけていたといわれています。
劇中では、そんなモリを優しく支える妻の秀子やお茶の間に集まる人々とのやりとりが映し出されていますが、そのなかで黒田さんが演じたのは、モリの大好物であるビフテキ用の肉を運んでくる肉屋の主人。
■ 黒田さんは沖田組の常連ですが、今回の役に関して聞いたときはどのように感じましたか?
黒田さん
オファーをいただいたとき、台本がすごくステキだったので、どんな役でもこの映画の世界のなかに入れることは幸せだなと思いました。「ありんこの役でもいいから出たい!」と思ったくらい(笑)。実際、劇中では僕よりありんこのほうがちゃんとフィーチャーされてるんですが……。
でも、この映画を観て思ったのは、虫とか草木とか石とか、そういうものと人間がわけ隔てない感じがするのがおもしろいところ。だから、本当に僕は猫でも何でもよかったんです(笑)。
■ 沖田監督の現場というのはどのような雰囲気ですか?
黒田さん
毎回すごくほのぼのした雰囲気ですよ。特に、今回の映画とは似たような空気感が現場にもあったので、映画の世界とのわけ目がないような感じでしたね。なので、待ち時間はほかの共演者の方々としゃべったり、ボーっとしたりして、そのままの流れで撮影に入ったくらいです(笑)。
現場の雰囲気が映画にも反映されると思って、監督が意図的にそういう人たちを集めているのか、自然とそういう人たちが集まってきてるのかわからないですけど、いつもそんな感じなんですよ。
■ 本作で主人公を務められたのは、日本が誇る名優の山﨑努さんですが、2度目の共演でどのような印象ですか?
黒田さん
実は、全然お話させていただいたことがないんです(笑)。というのも、「大好き」というのもおこがましいくらい山﨑さんは僕にとって憧れの方。学生時代に舞台を観に行ったこともありますし、俳優のなかではバイブルとも言われている山﨑さんの著作「俳優のノート」も読んでいたので、とてもじゃないですがお話できません(笑)。
ただ、前回『キツツキと雨』でご一緒したときに、一度だけ食事の席で隣になったことがあって、ご本人は普通にしていらっしゃるんですけど、おそらく周りが勝手に「山﨑さんだ!」みたいになっているのかもしれないなとは感じました。そういう意味では、世間から “仙人” と一方的に祭り上げられてしまう本作のモリさんと似ているのかな…と思います。
■ 今回の現場で、思い出に残っていることはありますか?
黒田さん
僕は肉屋の役なので、肉を持ってくるシーンのテストをしたんですけど、そのあとに山﨑さんが一回控室に戻ろうとしたことがありました。そのとき僕は玄関にいて、山﨑さんが横で靴を履こうとしていたんですけど、不意に山﨑さんが僕の肩に手を置いたんです。
冷静に考えると、靴を履くときによろけないように支えにしたんだろうと、99%そうだと思うんですけど、僕のなかで残りの1%は「黒田、俳優としてがんばれよ」っていうメッセージじゃないかと(笑)。
本作の見どころといえば、何と言っても山﨑さんと樹木希林さんとの初共演。本当に50年以上連れ添っているかのようなオーラを放ち、セリフの重みとともに誰もが引き込まれてしまうほど。
■ おふたりのやりとりを実際にご覧になって、どのように感じましたか?
黒田さん
山﨑さんも樹木さんもそうですが、同じ画の中に居られるだけで、僕は幸せでしたね。今回は見事に作りこまれたセットも本当に素晴らしかったんですけど、そこにおふたりが入ると、あまりになじんでいるので、本物の生活がそこにあるように感じました。
あとは、待ち時間に樹木さんが、セットのなかにある縁側の椅子で待機していらしたんですけど、その姿だけでもずっと見ていたいなと思いました。
■ そのほか、黒田さん含め個性豊かな俳優陣も次々登場しますが、最近の脇役ブームをどう感じていますか?
黒田さん
ステキなことだと思います。昔の日本映画とかでもおもしろいなと思うと、脇役の方が魅力的に映っていることが多かったりしますから。だから、脇役が注目されるのはいいことだと思うんですけど、あんまり注目されすぎると脇役じゃなくなっちゃうんだよね(笑)。やっぱり脇役は脇役なので。
それに、あんまり流行るとすたるから、流行りすぎないほうがいいんじゃないかなと思ったりもしてます(笑)。
■ ちなみに、黒田さんはどういう経緯で俳優という職業を選ばれたのですか?
黒田さん
特に「役者になりたい!」みたいなのはなかったと思うんですけど、子どもの頃のおままごとが楽しいなという感覚で遊んでいたら、いまに至るみたいな感じですね(笑)。僕は本当に色々な方とのご縁でここにいるような人間なので、それこそ沖田くんとか才能のある人がたまたま近くにいて、一緒に遊んでいたら少しずつ呼んでもらえるようになったという流れなんです。
だから、役者になろうと夢を持って上京して来た方とかにお会いすると「ちゃんとやらなきゃ」と刺激になります。とはいえ、僕も一応ちゃんとやってるんですけど……(笑)。とにかく、先輩でも後輩でもエネルギーを持っている方に会うと、僕もおもしろいものを作る一員になれたらいいなと思います。
■ これまでに影響を受けた方はいらっしゃいますか?
黒田さん
演技のおもしろさに目覚めた頃、「ザ・俳優といったら誰だろう?」と思って、頭に浮かんだのがロバート・デ・ニーロ。それで、デニーロが出演している作品をいろいろ観て、「やっぱりカメレオン俳優と呼ばれているだけあって、何でもできてすごい! かっこいいなぁ」と若い頃は思ってたんです。
でも、しばらく経って観てみたら、「あれ? これ全部デニーロじゃない?」って思っちゃったんですよ(笑)。ということで、カメレオンではないかもしれないですけど、魅力的だし、見てておもしろいし、僕は大好きな俳優ですね。
■ 役者には定年もありませんが、生涯役者でいたいと思っていますか?
黒田さん
そうですね。これだけ長くやってきたものはほかにないし、やっぱり好きなんだと思います。ただ、もしかしたらほかのことでもおもしろいことができるんじゃないかなと漠然と思って、靴を作ろうかなとか、自給率が低い国だから農業がいいかなとかをボーっと考えたりすることはありますね。
まあ、あんまり現実的じゃないですけど(笑)。でも、役をいただいて調べたりするときに、「こういう職業があるんだな」と楽しんだりはしています。
■ 最後に、ananweb読者に向けて、この作品の黒田さん的見どころを教えてください!
黒田さん
僕にとっては「これぞ映画!」と思うような作品で、劇的なストーリーではないですけど、本当におもしろい映画です。沖田くんの愛情が根底にあるから温かいし、しっとりしてみたり、笑っちゃったり、いろんな喜怒哀楽が詰め込まれていると思います。ぜひご覧ください!
■ インタビューを終えてみて……。
とにかく気さくで自然体の黒田さん。いつまでも話していたくなるほど、楽しいお話をたくさん聞かせていただきました。黒田さんこそ、まさにカメレオン俳優として作品ごとにまるで違う顔を見せているだけに、次はいったいどんな姿で登場するのか楽しみです。
■ 心が深呼吸できる映画!
時間や仕事に追われ、SNSに依存しがちな現代に生きる私たちにとって、「人生における本当の豊かさとは何か」ということを改めて考えさせてくれる本作。人のぬくもりや自然の美しさ、そして相手を思いやる夫婦の姿に、静かな感動で心が包み込まれるはずです。あなたも “モリのいる場所” を一緒に訪ねてみませんか?
■ ストーリー
昭和49年、「仙人」と呼ばれた画家の熊谷守一は94歳となるいまなお、日課として自宅の庭を観察。なんと30年もの間、家の外に出ることもなく、庭の生き物や自然を見つめ、描き続けていたのだった。
名誉やお金に無頓着で、好きなことだけを追いかける守一に長年寄り添っていたのは、笑顔を絶やさない妻の秀子。チャーミングな老夫婦のもとには多くの人たちが集まり、お茶の間はいつもにぎわいを見せることに。そんななか、あるオカシな一日が始まろうとしていた……。
■ 穏やかな気持ちになる予告編はこちら!
■ 作品情報
『モリのいる場所』
5月19日(土)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、シネ・リーブル池袋、イオンシネマほか全国ロードショー
配給:日活
©2017「モリのいる場所」製作委員会
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