性的虐待、カルト宗教…“半自伝的”物語を描く珠玉コミックとは?
ananweb / 2018年8月2日 22時0分
漫画『愛と呪い』の著者・ふみふみこさんにお話を伺いました。
■ 「ここではないどこか」がなかった‘90年代、少女と世界に起きたこと。
「本当はもっと明るくて人を幸せにするようなマンガが好きなのですが、私の場合、良くも悪くも怒りがマンガを描くエネルギーになっていて。自己救済のためにマンガを描くのは、これで最後にするつもりなので、すべて出し切ろうと思います」
『愛と呪い』は、ふみふみこさんの半自伝的物語とされている。主人公の山田愛子は、物心ついた頃から父親に性的虐待を受けていて、新興宗教にのめり込んでいる母親や祖母たちは、それを見て見ぬふりどころか笑って受け流している。宗教系の学校でも、周りの生徒たちのように教祖に対して妄信的になれない。
「家庭や学校のように当たり前にいる環境って、外に出てみないと異常なところに気づけなかったりするじゃないですか。その感じを表現したくて、何が正義で何が嘘なのかがわからなかった子ども時代は、水彩っぽくぼんやりと描いているんです」
逃げ場のない苦しみを味わい、この世界と自分自身を誰かに終わらせてほしいと思っているさなかに、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件が立て続けに勃発。そして愛子と同い年で酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年Aによる、あの事件が起こる。
「自分の鬱屈した話を描きたいだけだったので、最初は時代性みたいなものを入れるつもりはなかったんです。だけど自分の人生もしんどかったけど、世の中もしんどかったんだなと改めて気がつきました」
現時点で救いがあるとすれば、20年後の愛子が「今となってはもう笑い話」と振り返っていること。当初の願い通り、著者は本作を描くという行為によって、自身を救うことはできているのだろうか。
「ずっと引きずってきた中二病みたいなものが、薄まった気がします。意外とみなさん、普通にマンガとして読んでくれているのも楽になったというか。今はまだしんどい場面が多いのですが、最終的にはいろいろあったけどなんとか生きてこられたよっていう姿を描きたいと思っているので、生きづらさを感じている人は最後まで読んでほしいですね」
『愛と呪い』1 性的虐待、カルト宗教、世間を震撼させた事件…。終末の予感に満ちていた‘90年代に思春期を送った著者による渾身の物語。浅野いにおさんとの対談も収録。新潮社 640円 ©ふみふみこ/新潮社
ふみふみこ マンガ家。‘06年『ふんだりけったり』で「Kiss」ショートマンガ大賞・佳作を受賞してデビュー。主な作品に『女の穴』『ぼくらのへんたい』など。LINEマンガで「qtμt」を連載中。
※『anan』2018年8月8日号より。写真・大嶋千尋 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)
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