裁判官が主役のマンガ! 作者「これだけ好感度の低い主人公も珍しい」
ananweb / 2018年11月13日 18時30分
法廷を舞台にした物語の多くは、弁護士や検事などにスポットが当てられることが多いが浅見理都さんの漫画『イチケイのカラス』はそのどちらでもなく、裁判官が主人公。マントのような黒い法服を着て、高い位置に座っているあの人たちだ。
「ドラマなどでも裁判官はあまりしゃべらないというか、しゃべるシーンがほとんど出てこないので、私も最初は判決を言い渡す人というイメージしかありませんでした」
浅見さんがマンガの題材として法廷に興味を持ったのは、冤罪弁護士という異名を持つ今村核氏のドキュメンタリーを見たのがきっかけ。はじめは刑事弁護人を主人公に据えたりもしたのだが、視点を変えて思い切って裁判官を描いてみることに。
「いろんな本を読んではみたものの、実際の裁判官がどういう人なのか私自身が全然つかめていなかったこともあって、坂間というキャラクターを生み出すのに苦労しました」
物語は、坂間真平が武蔵野地方裁判所の第一刑事部(イチケイ)に配属されるところから始まる。坂間はイケメンではあるものの、愛想のないエリートタイプ。チャラめの書記官や、ガサツだけど仕事ができるっぽい同僚、無罪判決をいくつも出している裁判長など、一筋縄ではいかないキャラが揃う新しい職場で内心イラつきながらも、さまざまな裁判を担当していく様が描かれる。
「裁判シーンや法律まわりのことは、監修の先生と相談しながらリアリティを追求して、読む人が本当に裁判を傍聴しているような臨場感を出せればいいなと思って描いています。だけど事件の話ばかりではやっぱりしんどいので、裁判官室でのちょっとした会話や脇のキャラで、空気を柔らかくしているつもりです」
ちなみに、注目の初公判の日に、記者に気づかれないよう、裁判官がお弁当屋さんのコスプレをして裁判所に入るシーンがあるのだが、これは浅見さんの創作なのだとか。こんなふうに笑える要素も挟みつつ、読んでいて改めて感じるのは、裁判官という職務の難しさと奥深さ。当然ながら、ただ座っているだけの人ではないし、法律というルールに則って判決を下すとしても、本人の個性は必ずそこに出てくるはずだ。
「坂間たちが被告人のことをどう感じて、最終的に判決文を書くに至るのか、裁判官や被告人の心情の描き方はいくら考えても終わりが見えなくて、毎回とても悩みますね」
今後は、裁判員裁判や少年事件などについても描いてみたいそう。
「今のところ、これだけ好感度の低い主人公も珍しいので(笑)、坂間のいろんな面を見せていきたいです」
『イチケイのカラス』有罪率99.9%といわれる日本の刑事裁判。その判決を下す裁判官や周辺の人々を生き生きと描いた人間ドラマ。櫻井光政氏と片田真志氏が取材協力・法律監修。講談社 610円 ©浅見理都/講談社
あさみ・りと マンガ家。1990年生まれ、埼玉県出身。「第三日曜日」で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞してマンガ家デビュー。『モーニング』掲載の本作は初の連載となる。
※『anan』2018年11月14日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)
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