『M-1』でお笑いがスポーツに マキタスポーツらが平成のお笑いを総括!
ananweb / 2019年1月13日 20時0分
振り返れば、昭和の終わりとともに『ひょうきん族』が幕を閉じ、ダウンタウンやウッチャンナンチャンらお笑い第三世代が中心に。そして昨年はハナコに霜降り明星と若手が躍進。これからの笑いはどうなる!? 『東京ポッド許可局』の3人が、お笑い界を総括します。
■ M-1がきっかけで、お笑いはスポーツへと進化した。
プチ鹿島:平成元年が1989年だから、平成の初期は‘90年代ですね。
サンキュータツオ:‘90年代は間違いなくダウンタウンでしょう。
マキタスポーツ:前にPK(=プチ鹿島)が、ダウンタウンの笑いを格闘技になぞらえてリアル路線って言ってたよね。
鹿島:ダウンタウンもそうだし、バラエティ番組も‘90年代はファンタジーからリアルへ向かっていった時代でしたよね。それ以前の芸人って、戦後から続く昭和の演芸文化を通過してきた人たちだったでしょう。
タツオ:(明石家)さんまさんも落語家に弟子入りしたところからキャリアがスタートしてますし。
マキタ:(ビート)たけしさんもストリップ劇場から出てきた人だしね。
鹿島:それまでの笑いは演芸としてショーアップされたものだったのが、ダウンタウンが出てきたことによって、街で一番ケンカが強いやつが勝つストリートファイトになった。
マキタ:芸能界の先輩はもちろん、プロ野球選手だろうがお相撲さんだろうがメッタメタに殴るスタイル。
タツオ:関西のストリート上がりがダウンタウンだとしたら、関東にはとんねるずがいて。
鹿島:もうめちゃくちゃリアルだよ。
タツオ:そういったリアル路線の10年を経て、‘01年に『M-1グランプリ』が始まって競技化しました。
マキタ:M-1を機に、笑いが採点式のスポーツになった。
タツオ:一般の人が笑いを審査する『爆笑オンエアバトル』が盛り上がったり、‘03年には『エンタの神様』、‘04 年には『笑いの金メダル』と、お笑いを競技として楽しむ番組もどんどん出てきて。
鹿島:競技化と並行するように、‘02年頃に大衆的な芸風でダンディ坂野さんが人気者になったでしょう。あのときお笑いが民主化されたなって思った。それまでは特別な人にしか許されていなかったのが、一気に開かれた感じ。
マキタ:お笑いが会員制からオープン制になったんだ。
鹿島:視聴者からの投稿を紹介する『爆笑問題のバク天!』(‘03年~)からアンガールズやレイザーラモンが出てきたりもしましたし。
マキタ:その頃に、よしもと以外の事務所の養成所にも人が集まるようになって、お笑いが学校化したよね。
鹿島:学校で勉強するって、わかりやすい民主化の表れですよね。
マキタ:それまで素人と玄人の境界がはっきりあったのが、ベルリンの壁が崩壊したみたいに、民主化とオープン化が進み、学校を出たチルドレンたちがどんどん登場して、整ったフォーマットに従って誰でも参加できて能力を発揮できるようになった。お笑い史にとって‘00年代最大の変革はそれじゃないかな。
鹿島:だからM-1で一夜にしてスターが誕生するのもそうだし、お笑いに夢があったんですよね。
マキタ:夢あった。‘07年のサンドウィッチマンとか、ドラマティックだったし、センセーショナルだったよ。
タツオ:10年ごとにまとめると、異能のお笑い怪獣たちの‘90年代、競技を勝ち抜いたスター選手たちの‘00年代、そして民主化されたことで誰もがお笑いに参加できるようになった‘10年代っていう感じですかね。
鹿島:笑い飯が優勝してM-1が一度幕引きをしたのって何年だっけ?
タツオ:‘10年ですね。高度に発達したお笑いマナー、揺り戻しとしての裸芸。
鹿島:やっぱりそうか。このあたりから下克上が通用しなくなってる。
タツオ:『キングオブコント』や『R-1ぐらんぷり』で優勝しても、まだバイト辞められないですからね。
マキタ:芸能界をコンビニでたとえると、優勝したくらいじゃ定番商品として並べてくれない。
タツオ:一応は新商品として短期間は陳列してくれるけど、棚のほとんどがロングセラーでいっぱいだから。
鹿島:それは夢ないなー。
マキタ:側(がわ)じゃなくて質のほうの話をすると、やっぱりダウンタウンは確実に世間のお笑いレベルを引き上げたと思う。レベルというか、解像度っていうのかな。民主化にも繋がることだけど、中学生とか高校生にまでお笑い用語を浸透させた。
タツオ:ツッコミとかボケとか、オチとかフリとかね。
鹿島:大きく言えば関西のノリ。専門用語や関西弁の言葉はもちろん、笑いの文化を一般的なものにしたね。
マキタ:さんまさんの影響もあるとは思うんだけど。ほら、『笑っていいとも!』でタモリさんに「そこは拾わんとアカンやろ~」とかってしつこく言って、タモリさんがうっとうしそうにイヤがるっていうやつ。
鹿島:くやしそうに「いまのはひと笑いいけたやろ~」とかってね。
マキタ:そういう、よしもとの楽屋でのマナーが全国放送で流れてた。
タツオ:その時代を境に、芸人はピコピコハンマーを捨てたんですよね。昔はピコッて叩くだけで成立してたのが、ちゃんと言葉でツッコむようになった。そこからさらに進んで、「ちゃんとボケろや~」みたいに、チームプレーとしてのパスまわしやゴールが設定されているゲームにまでなって。
マキタ:そのあたりから、お笑いが高度に発達しすぎたよね。
タツオ:ゆえに、揺り戻しもきてますよね。裸芸のアキラ100%が『R-1ぐらんぷり2017』で優勝したし、とにかく明るい安村がブレイクした。
鹿島:『R-1ぐらんぷり2016』で(ハリウッド)ザコシさんが優勝したときは、久しぶりに夢あるなって思ったね。しかも地下ライブでやってるのと同じネタで勝負してた。
マキタ:『キングオブコント2018』で唯一言葉に頼らないネタをやったのが優勝したハナコだったよね。ほかはみんな言葉を駆使する笑いで、気を抜いたら置いていかれる。
タツオ:M-1にしても、言葉による笑いが主流ですからね、いまは。
東京ポッド許可局 “屁理屈をエンターテインメントに!”をモットーにマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオの文系お笑い芸人3人の局員がひっそり語らう深夜の人気番組。TBSラジオで毎週月曜24時~放送中。
※『anan』2019年1月16日号より。写真・田村昌裕(FREAKS) 文・おぐらりゅうじ
(by anan編集部)
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