安田顕「いま思い出しても涙が出る」忘れられない瞬間とは?
ananweb / 2019年2月21日 20時40分
人生において、いつかは訪れる大切な人との別れ。悲しみだけではないあらゆる感情に心を揺さぶられるものですが、突然病に襲われる母親との最後の日々を描いた人気エッセイ漫画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』が映画化され、話題となっています。そこで、主人公であるサトシを演じたこちらの方にお話を伺ってきました。それは……。
写真・大嶋千尋(安田顕)
■ カメレオン俳優として人気の安田顕さん!
【映画、ときどき私】 vol. 217
映画やドラマなど、作品ごとに見せるさまざまな表情で観客を魅了し、幅広い役で唯一無二の存在感を放ち続けている安田さん。本作は実話ということで、現在マンガ家として活躍中の宮川サトシさんの役を熱演しています。そこで今回は、現場でのエピソードから原動力まで、たっぷりと語っていただきました。
―最初に原作を読まれたときはどのような印象を受けましたか?
安田さん
親の死というものは必ず訪れるものですが、作者である宮川さんの視点がすごく独特でユーモアにあふれていると感じました。悲しい出来事ではあるけれど、クスっと笑えるところもある。でも、そのなかにこそ人の気持ちの真実があるので、涙腺がジワっと緩むステキな作品だと思いました。
この作品に触れると、人に対して優しくなれるので、毎日夜中に読もうかなと思っているくらい。ただ、翌朝目が腫れちゃって困るんですよね(笑)。
―実在の人物を演じるということで意識したことはありましたか?
安田さん
実際に生きている人を演じることに対する過度なプレッシャーはなく、あるとしたらちゃんと作品を残さないといけないというプレッシャーだったと思います。ご本人には現場で初めてお会いしましたが、今回は純粋に作品に対して心を打たれたので、責任を持ってやろうという覚悟はありました。
―母親役の倍賞美津子さんとの掛け合いも素晴らしかったですが、共演されてみて印象に残っていることはありますか?
安田さん
倍賞さんはとにかくステキな方なんです。現場でも父親役の石橋蓮司さんと何てことない雑談をしているだけでも、佇まいや物事への観点が素晴らしいんですよ。
それから、これはあとで気がついたんですが、倍賞さんと僕の母親の誕生日が一緒だったことには驚きました。
■ 母親とは男にとって絶対的な味方
―運命のような偶然ですね。ちなみに、安田さんにとって母親とはどのような存在ですか?
安田さん
女性と母親との関係性とはまた違うと思いますが、男にとって母親は絶対的な味方。愚痴も言えるし、心から甘えられる存在なので、僕には実体験はありませんが、失ったときの喪失感というのはとんでもないものがあるんだろうと思っています。
―そういう意味では、衝撃的なタイトルに共感できる部分もありましたか?
安田さん
そうですね。だって、遺骨って最後に遺してくれたものですよね? 「それを食べて何が悪い!」と思うんですけど、「遺骨を食べたいと思った」ですからね。「僕は遺骨を食べた」というタイトルじゃないですから(笑)。君の膵臓も「食べたい」であって、「そう思った」ということですからね。
―(笑)。それぐらいの気持ちになるという意味ではわかる気がします。そんななか、サトシを演じるうえで大事にしていたことはありますか?
安田さん
「ここで僕の演技を見て欲しい」というようなエゴはまったくなくて、考えていたのは作品のことだけ。本当にそれしかなかったですね。撮影前に大森立嗣監督から言われたことは、「とにかく穏やかで温かい現場にしていきたい」ということだったので、そこをとても大切に過ごしました。
―役作りはどのようにしていきましたか?
安田さん
前にある先輩から「役を演じるときは3つのことを考えなさい。それがあればブレないから」と言われたことがありましたが、サトシに関しては、「泣き虫・お調子者・甘えん坊」とすでに脚本に書いてあったので、必要なものはそろっていました。
―では、泣くシーンなどもすべて脚本通りでしたか?
安田さん
実は、脚本のト書きに「泣く」と書かれているところでは涙が出なくて、反対に書かれていないところで涙が出てしまうことがあったんです。そのとき、「ト書きに『泣く』と書かれているので、目薬でもしましょうか?」と監督に言ってみたことがありました。
そしたら、監督から「そんなことしなくていいよ。心が泣いていればいいんだから」と返されたんです。本当にステキな監督だなと思いました。
―じんとくるお言葉ですね。では、この作品に参加したことで、家族やご両親への思いに変化はありましたか?
安田さん
撮影中は作品のことしか考えてなかったので、自分の親のことは全然思い出しませんでした。ただ、できあがった作品を観てから親に対していろいろと考えるようになったので、いま作品から教えられているところです。「より大切にしたいな」とは思っています。
■ これこそが役者の仕事だと感じた
―本作では母親が中心ではある一方、父親役の石橋蓮司さんとお兄さん役の村上淳さん、そして安田さんという男3人が湖でそれぞれの思いをぶつけ合うシーンがとても印象的でした。
安田さん
実は最初に脚本を読んだときに、一番心を打たれたのはこのシーンでした。監督とも話をしていたのは、残された人たちがどう再生していくか、ということ。この作品では、受け継ぎ、伝えていくというのが大事なテーマでもあるので、そういう意味でも湖のシーンはすごくいいなと思いました。
―みんなで裸になって湖に入るところもありましたが、そのときの撮影の様子はいかがでしたか?
安田さん
実は倍賞さんが「監督、みんなスッポンポンで湖に入ったほうがいいんじゃない?」と言い始めたのがきっかけだったんです。それで、実際にやってみたら、お母さんに見守られながら男3人が裸になって水のなかに入るほうがおもしろくてステキだし、より笑って泣けるんですよね。
ちなみに、あのシーンで僕が一番好きなのは、石橋さんのシャツのボタンを倍賞さんが外してあげるところ。倍賞さんの手つきと仕草、そして「いってらっしゃい」の一言は、いま思い出しても涙が出てくるくらい、僕が一番泣ける場面なんですよね。言葉は少ないんだけど、夫婦の関係性がはっきり伝わるので、「これこそが役者の仕事なんだ」と感じました。
―次々と出演作も続いており、毎日お忙しいと思いますが、原動力となっているものは何ですか?
安田さん
音楽を聴くことですね。特に、近所にあるバーに行って、いいスピーカーでレコードを聴きながら、焼酎を飲むのが一番。最近だと、竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」という歌を聴くとやる気になります。歌詞が素晴らしいので、みなさんにもオススメです。
―SNSではいろいろな料理のお写真もよく上げていらっしゃいますが、食もストレス発散になっていますか?
安田さん
写真を撮るようになったのは、せっかくロケでいろいろな場所に行っているのに、そこで何もしないのも嫌だなと思ったからです。時間が空いたときにはその土地のものを食べるようにしています。
■ 最近感動したおいしい料理とは?
―ちなみに、料理をにらんで写真を撮る「睨み飯」というスタイルがおもしろいですが、そうなったきっかけは?
安田さん
おいしいものを食べたときに、料理だけを撮って載せている方もいますよね? でも、SNSはその人が好きで見ている方が多いので、料理だけだとおもしろくないかなと思って、顔を近づけて撮るようになったのが始まりです。ただニコッと笑っているのもいいんですが、にらんでいるほうがおもしろいかなと思って、いまのスタイルになりました。
―そんななか、最近食べておいしかったのは?
安田さん
東京の大森で食べたおそばですね。噛んだときにそばの香りが強くておいしかったですし、あとは見た目もよかったんですよ。グルメサイトを見たときの評価もよかったから、そういうのもあったかな。
―ネットでの評価などもけっこう気にされるのですか?
安田さん
気にはします。人も料理も見た目が大事ですから(笑)。7割がた見た目らしいですよ。
―見た目が7割ですか!? そう思うようになったのはなぜですか?
安田さん
以前、『問題のあるレストラン』というドラマで、パティシエの役をやったんですが、そのときのセリフに、「食べ物は見た目で7割決まる。同じ味であればその方が絶対においしく感じるんだ」というセリフがあったんです。つまり、見た目が7割。じゃないと、オシャレもお化粧もしないんじゃないですか?
―確かにそうですね(笑)。ということは、安田さんも普段からおしゃれに気をつかっているのですか?
安田さん
いや、それが全然ですね(笑)。というのも、現場に行ったらすぐに脱いで、着せてもらえますから。着せてもらえなかった頃はがんばりましたけど、着せてもらえるようになったらがんばらなくなっちゃって、いまはジャージです(笑)。
でも、立派な役者さんたちを見ていると、普段もちゃんとこだわってらっしゃるので、見習いたいところです。
―では、40代の目標は何かありますか?
安田さん
運動や料理などをやってみようかなとは思っています。手先を使うことを今年はチャレンジしてみたいですね。
■ 自分のペースで行くことが大事
―それでは最後に、ananweb読者にひと言メッセージをお願いします!
安田さん
30歳になるときは「もう30歳になっちゃった」とすごく意識したんですよ。でも、そこを超えちゃうとなんてことないので、そのときそのとき一生懸命やっていればいいんだなと思っています。20代前半で物事を確立しちゃう人もいれば、30歳過ぎるまでかかる人もいるので、下手に焦る必要はないんですよね。
それぞれのペースがあるから、「自分のペースでやっていきましょう」と伝えたいです。というのも、いまはスピードが速い時代でもあるので、そこについていこうとすると、他人のことを見捨てないとやっていけないときもあるんですよ。
でも、ゆっくりしたペースでいくと、いままで見過ごしていた人のことが見えてきたり、困っている人に「どうしたの?」と声をかけられるようになったりするので、そういう過ごし方も大事だなと思っています。
■ インタビューを終えてみて……。
ユーモアと優しさにあふれている安田さん。お話を伺いながら作品を思い出していると、思わず目頭が熱くなりましたが、次の瞬間には笑ってしまうという、まさに笑って泣ける本作を観たときと同じような温かい気持ちになる時間でした。ぜひ、みなさんも劇場でそんな温かさに浸ってみてください。
■ それぞれの“愛のかたち”に胸が揺さぶられる!
人生には耐えがたい悲しみに襲われることもあるけれど、失ったことによって新たに得る絆や改めて気づかされる家族の思いが必ずあるもの。優しさと愛情に満ちあふれた本作に触れれば、大切な人をもっと大切にしたくなると思います。
■ ストーリー
サトシは幼いころから泣き虫で頼りなかったが、いつも明るくてパワフルな母に救われていた。ところが、その母がある日突然ガンだと宣告されてしまう。心優しいサトシは母のためにがむしゃらになるものの、やがて母との永遠の別れが訪れる。そして、1年後、天国の母から驚くべき贈り物がサトシの元に届けられる……。
■ 愛おしい予告編はこちら!
■ 作品情報
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
2 月 22 日(金)全国順次ロードショー
出演:安田 顕 松下奈緒 村上 淳 石橋蓮司 倍賞美津子
監督・脚本:大森立嗣
原作:宮川サトシ「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」 (新潮社刊)
配給:アスミック・エース
©宮川サトシ/新潮社 ©2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員
ヘアメイク:西岡達也(ラインヴァント)
スタイリスト:村留利弘(Yolken)
ジャケット¥64,000(マンド)/パンツ¥34,000(マンド)/シャツ¥18,000(カイコー)/その他スタイリスト私物
衣装問い合わせ先:スタジオ ファブワーク(tel 03-6438-9575)
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