「奇跡!」と学芸員絶賛…シンプルな銀器に隠された革新的な秘密
ananweb / 2019年5月18日 10時30分
東京・六本木の国立新美術館で、『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』がはじまりました。女子の心をわしづかみにするウィーンのアートやインテリアなど約400点が集結! 特におすすめの作品について、主任研究員の本橋弥生さんに聞いてきました!
■ ウィーン文化を体感!
【女子的アートナビ】vol. 146
『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』では、19世紀末に花開いたウィーンの世紀末芸術を軸に、18世紀後半から20世紀初頭にかけての絵画やファッション、インテリアなどの作品約400点を展示。
展示作品のほとんどは、オーストリアのウィーン・ミュージアムから来日しています。ウィーン市の歴史・文化資料を多数所蔵する同ミュージアムは、現在、改修工事のために閉館中。そのため、日本でまとめて貴重なコレクションを見ることができるそうです。
■ 担当学芸員さんに聞いてみた!
今回、展覧会を担当された国立新美術館の主任研究員、本橋弥生さんに、女子におすすめの作品を3点セレクトしていただきました。
――ひとつめの作品を教えてください。
本橋さん
まずは、《エミーリエ・フレーゲのドレス》がいいと思います。エミーリエは、当時(19世紀末~20世紀初頭)としては珍しく、結婚せず独身で通し、非常に聡明で強いキャリア・ウーマン(?)でした。そういった点で、今の私たちにも共感するところがあるかと思います。
――自立した女性だったのですね?
本橋さん
そうです。このドレスも、実は革新的だったのです。当時、女性はコルセットで締めあげられ、ひとりで立っていられないような状態で、支えられる存在でした。男性の権力や財力を見せるための、いわば人形のような存在だったのです。
このドレスは、エミーリエ本人が着て、販売もしていた“改良服”といわれるものです。コルセットで締めつけず、女性が快適に動けて、さらに美しくもあるという服装は、その人の生き方やライフスタイルを反映するもので、エミーリエの強い意思が表明された興味深い作品だと思います。
※筆者注:エミーリエ・フレーゲ(1874-1952)は、画家グスタフ・クリムト(1862-1918)と親密な関係にあった女性実業家。今展のメインビジュアルで使われているクリムトの《エミーリエ・フレーゲの肖像》も、彼女をモデルにした作品です。
■ 奇跡の銀器は必見!
――ふたつめのおすすめ作品をお願いします。
本橋さん
個人的に、すごく好きな作品をご紹介します。市民文化が開花した19世紀前半、ビーダーマイアー時代に制作された銀器です。
――とてもシンプルでモダンな雰囲気ですね。
本橋さん
それまでの芸術品や家具、ドレスは、権力や財力をいかに示すか、というものが多く、装飾的で威圧的で、その人の地位を示すものでした。このような燭台などにも、花やキューピットなどでごてごてと装飾されていたのです。そんな時代に、一気にこれだけシンプルですっきりとしたデザインの一点物が手づくりされるようになったというのは、奇跡に近いと思います。銀の輝きもすばらしいです。
――どのような人たちが使っていたのですか?
本橋さん
主にユダヤ人をはじめとする都市の富裕層です。18世紀後半、啓蒙主義を支持していた皇帝ヨーゼフ2世の改革でユダヤ人がウィーンに集まるようになり、商業で成功した彼らが文化のパトロンとなって、銀器などもつくられるようになったのです。
これらの銀器は、とても丁寧につくられていて、まるでモランディ(※)の静物画のような美しいたたずまいで、日本のわびさびにも近いものがあります。ごてごてと装飾されていた時代に、これだけ価値観の転換があったのはすごいことだと思います。
※ジョルジョ・モランディ(1890-1964)は、瓶などをモチーフにした静謐な絵を描いたことで知られるイタリアの画家。
――こちらの作品も、かなり現代的なデザインですね。
本橋さん
右側にあるのは、軍用のトラベルセットで、組み立ててコンパクトにできるようになっています。多機能的で、バウハウス(※)を100年先取りしていたのですね。モダンデザインというのは20世紀に入ってからの発想と思っていたのですが、この時代からあったというのが驚きです。
※バウハウスは、1919年にワイマール共和国に創設された総合造形学校。近代建築やデザイン、絵画などに大きな影響を与えた。
■ 最後はクリムト!
――最後のおすすめ作品をお願いします。
本橋さん
最後は、クリムトの絵画をご紹介します。クリムトは、「キュンストラーハウス」という伝統的で保守的な芸術団体にいたのですが、脱退して、1897年に「ウィーン分離派」を結成します。自分たちで新しい芸術をつくりたいという思いで立ち上げました。
本橋さん
この作品は、1898年に建てられた分離派会館に展示する絵として特別に描かれました。自分たちの新しい指針を示すのに適した寓意像で(戦いの女神である)パラス・アテナが描かれています。鎧(よろい)の首の部分には、舌を出したメドゥーサが金色で描かれていて、権威などに対して舌を出しているといわれています。
展示の際、ライティングを工夫して、下から光を当ててみました。すると、明るい色が見えてきて、背後にもいろいろなものが見えるようになったのです。クリムトの色づかいは本当にきれいなので、ぜひそれも見ていただきたいです。
――詳しくご解説いただき、ありがとうございました。
■ シーレもあります!
会場には、ほかにも家具や建築模型、ポスターなど、ウィーンの文化を感じられる作品がぎっしりと並んでいます。
さらに、クリムトと同時代に生きた天才画家、エゴン・シーレ(1890-1918)の退廃的な雰囲気が漂う作品も見ることができます。
東京会場の会期は8月5日まで。その後は、大阪(8月27日~12月8日 国立国際美術館)に巡回します。どうぞお見逃しなく!
■ Information
会期:~8月5日(月)
開館時間:10:00 ~ 18:00 ※毎週金・土曜日は、5・6月は20:00、7・8月は21:00まで。5月25日(土)は「六本木アートナイト2019」開催に伴い22:00まで開館。※入場は閉館の30分前まで
開催場所:国立新美術館 企画展示室1E
休館日:火曜日
観覧料:一般¥1,600 、大学生¥1200、高校生¥800、中学生以下無料
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