犯人自ら激白…「若年犯罪者たち」が語る現代社会の重圧と心の闇
ananweb / 2019年5月17日 20時40分
世の中には、ときに目を疑うようなニュースも駆け巡りますが、今回ご紹介するのもまさにそのひとつ。アメリカで起きた驚くべきある強盗事件の全貌を完全映画化したオススメの話題作です。それは……。
■ まさかの衝撃が走る『アメリカン・アニマルズ』!
【映画、ときどき私】 vol. 230
アメリカのケンタッキー州で退屈な大学生活を送っていたウォーレンとスペンサー。“普通の大人”になりかけていることを感じていた彼らは、大学の図書館に時価12億円もの巨大な画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知り、盗み出すことを思いつく。
「本が手に入れば、最高の人生になる」と確信したら彼らは、犯罪映画を参考に強奪計画を立て始めることに。はたして、彼らは成功を手にすることができるのか。待ち受けている運命とは……?
普通の大学生が実際に起こした驚愕の事件がもとになっている本作。ストーリーも普通ではなければ、映画としても稀有な作品となっており、注目必須の1本です。ということで、こちらの方に舞台裏などについてお話を伺ってきました。その方とは……。
■ イギリスのバート・レイトン監督!
ドキュメンタリー作家としても才能を発揮し、高く評価されているレイトン監督ですが、長編ドラマを手がけたのは今回が初めて。「ハイブリッド・クライム・エンタテインメント」と名付けられた本作では、事件を起こした本人たちを随所に登場させるというドラマとドキュメンタリーを掛け合わせた斬新な手法を取っています。
そこで、実際に事件の“標的”となった画集のレプリカとともに、制作過程での苦労や監督が伝えたい思いについて語ってもらいました。
■ なぜ若者たちが事件を起こしたのか知りたかった
―まずはこの事件を知ったきっかけと、どのようなところに興味を持ったのかを教えてください。
監督
アメリカからイギリスへ向かう飛行機のなかで雑誌を読んでいて、そこでたまたま目にしたんだ。でも、読んだ瞬間におもしろいなと感じて魅了されたよ。
僕が何よりも興味を持ったのは、犯人である若者たちには多くのチャンスがあり、教養もあって、恵まれた環境で育っていたのに、なぜいかにも大失敗に終わりそうな計画に挑んだのかということ。
しかも、それによって人生の選択肢が狭まってしまうかもしれないのに、そこまでのリスクを冒してでも、この事件を起こそうとしたところに関心を持ったんだ。
―本作には本人たちも登場しますが、彼らとはどのようにして接触することに成功したのですか?
監督
いまから6~7年くらい前、まだ彼らが刑務所にいた頃に初めて手紙を送ったんだ。そして、そこでやりとりした手紙の内容をもとに書いたのが、最初の脚本。その後、プロデューサーがアメリカに行って刑務所で彼らに会ったんだけど、そういうことを数年は続けていたかな。
インタビューの映像は、刑務所から出てきて初めて撮らせてもらったんだけど、今度はその映像をもとに脚本を修正していくという形を取ったんだ。
■ 本人たちを説得するのには時間がかかった
―もし私だったら、犯罪に関わる過去を映画化されることも、自分が映画に出ることにもかなり躊躇すると思いますが、本人たちはどのような反応でしたか?
監督
もちろん、彼らを説得するのにはある程度の時間は必要だったよ。というのも、彼らにとっても、彼らの親にとってもつらい過去だったからね。特に、親は「大切に育ててきた自分の子どもがまさかこんな犯罪をするなんて……」というショックがあったと思うよ。
実際、犯罪が起きた当時、事件のことがテレビや新聞で報じられても、彼らの両親は自分の子どもが犯人だというのは知らなくて、知ったのは事件から数か月後。だからこそ、ショックもかなり大きいものだったんじゃないかな。
―そんななかで、どのようにして説得していったのか教えてください。
監督
彼らもどんな映画に仕上がるのかわからなかったから、最初は不安を抱いていて、懐疑的だった。だからこそ、時間をかけて信頼関係を築いていくように心がけたよ。
出演に承諾してくれたあとは、「ヒーローとしては描かない」「真実をそのまま伝える」「反面教師的な作品にする」という僕の意向も理解してもらうことができた。それに、コメディ要素の多いいわゆるハリウッドのような作品には仕上がらないという部分も気に入ってもらえたのがよかったと思っているよ。
■ ギブアンドテイクで信頼関係を築いていった
―そういった努力の甲斐もあり、彼らからリアルな表情を引き出していらっしゃったと思いますが、信頼関係を築くために、具体的にどのようなことをしていったのでしょうか?
監督
僕はドキュメンタリーを作っていたというバックグラウンドがあったから、どうすれば人の心を開くことができるのかというのは経験上なんとなくわかっていたんだ。
たとえば、相手に心を開いてもらうためには、まず自分が心を開かないといけない。だから、僕がどういう人生を歩んできたのか、家庭やプライベートがどういうものなのかというのをすべて明かしたうえで、彼らに話を聞くことが必要だった。つまり、ギブアンドテイクのような感じだね。そうやって信頼し合える関係を築いていったんだ。
ただ、彼らにとってはすべてを吐き出すことで楽になれるから、セラピーのようだったかもしれないね。とはいえ、セラピストが僕と違うのは一線を引いているところ。セラピストは自分のことは明かさないからね。
―そのような方法を取ったからこそ、彼らと密なやりとりができたとは思いますが、実はいま日本では死刑囚とジャーナリストが獄中結婚したことが非常に話題となっています。少しケースは違うとは思いますが、監督も取材対象者に心を開きすぎるあまり、相手に共感しすぎてしまうようなことはなかったですか?
監督
それはすごく興味深い話だね。僕も彼らのことを知っていくうちに感情移入をしていったけれど、必要以上に同情的な視点で描こうとはならなかったよ。
もしこれがドキュメンタリーだったらプロセスが異なるから、もう少し違った結果が生まれたかもしれないけどね。というのも、今回は「実話を伝える新しい手段」というのを求めていたからなんだ。
■ 自分もその場にいたら計画に参加していた
―では、彼らに対してはどういった思いを抱いていますか?
監督
彼らはバカげた行為によって人生を無駄にしてしまったところもあるけれど、刑務所で7~8年も過ごして十分に代償は払ったと僕は思っているよ。実際に彼らも後悔していたから、僕もそういう人間的な部分はできるだけストレートに描くように意識していたんだ。
あと彼らに求めたことは、「言い訳をさせない」「偽りのことを言わせない」ということ。でも、事件から10年経っていることもあって、彼ら自身も変わったところがあるんだなとは感じたよ。
―観客が彼らに共感できる部分といえば、お金だけが目的ではなく、「退屈な生活から逃げ出したい」とか、「特別になりたい」といった彼らの心情ですが、もし監督が彼らの友達で事件に誘われていたら参加していたと思いますか?
監督
この質問は初めて聞かれたけど、おもしろいね! やっぱり「彼らに加わりたい」という衝動に駆られていたとは思うよ。なぜなら、彼らが描くファンタジーの世界にも、秘密を持つということにも、ああいった計画を企てていくゲーム感覚の部分にも、惹かれてしまうだろうなと想像できるからね。
とはいえ、願望としては、スペンサーのように行き過ぎる前にストップをかける強さが欲しい。ただ、夢想家のウォーレンはワクワクした人生を求めている人物で、周りを魅了する力があるから、僕も彼に引き付けられてしまったんじゃないかな。
それに、彼らのように何も起こらない郊外の町という環境で暮らしていたら、そこから逃れる方法やそれを変える何かを求めてしまう気持ちになってしまうだろうね。だから、何らかの形で参加していたかもしれないだろうなとは思うよ。
■ 大切なのは自分のために生きること
―その後、彼らは刑務所で「あらゆる期待から解き放たれて自由だった」と語っていたというのには驚きました。つまり、いい子だった彼らも周囲からの“見えない力”に苦しんでいたのかなとも思いましたが、同じように感じている人に向けてアドバイスなどがあればお願いします。
監督
いまの時代は、インスタでどれだけ“いいね”をもらえるかとか、Twitterでいかに自分がおもしろい人生を送っているかをアピールできるか、みたいなことに意識が集中してしまっているよね?
でも、それによって生まれる危険性は、「自分に正直に生きられない」「人に注目されて、好かれるために生きている」「ステータスを上げることだけを考えている」といったこと。そういう風潮になってしまっているからこそ、“普通であること”を受け入れられない社会が築かれてしまったんだ。
それだけでなく、SNSで有名人やお金持ちがより身近な存在になっているだけに、自分もそこを目指すことができるし、目指さなければいけないといったプレッシャーを感じてしまうんだよね。でも、実際そうやって手に入れたステータスというのはあくまでも幻。それよりもプレッシャーを跳ね返し、自分のために生きることが大切なんだ。ぜひ、それに気づくことの必要性も伝えたいなと思っているよ。
■ 普通じゃない展開から目が離せない!
実話とは信じがたい展開とスタイリッシュな映像や音楽によって、見たことのない作品が誕生。さらに、ツッコミどころ満載な登場人物たちにも、思わず虜になってしまうはずです。退屈な生活から逃げ出したいと思うなら、まずはこの前代未聞の事件の目撃者になってみては?
■ 圧倒的な予告編はこちら!
■ 作品情報
『アメリカン・アニマルズ』
5月17日(金)より、新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
配給:ファントム・フィルム
© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
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