家族の思いのズレがリアル! 3世代の“家”を描く青山七恵の新作
ananweb / 2019年12月23日 18時30分
「家は『私の』とか『彼女の』とか、絶対に所有格で語られるもので、逆に誰も住んでいない家屋は『家』とは呼べないような…。考えてみたら不思議なものだなぁと」
ある一族の暮らしや秘密、言わなかった思いなどを、3世代の視点で描き出す青山七恵さんの『私の家』。同棲を解消し、実家に戻っている27歳の鏑木梓の祖母・照の四十九日の法要に、親族が集まるところから物語は幕を開ける。
「ああいう場では、普段は全然会わない人も集まります。親戚という以外の何の接点もなかったりするのに、妙な一体感があって面白いですよね。3つの点をつないだときにできる切断面の面積を求めよ、みたいな算数の問題がありますが、この小説でも、外から見ただけではわからない図形が、いろいろな世代や家という場を点として描くことであれこれ見えてくるのではないかと思ったんです」
作中でも、語り手に見えている家や家族は、別の語り手から見ればまた違った形をしていたりする。たとえば、照には照の親心があったわけだが、幼い頃に叔母・道世の家に預けられた祥子には人知れぬ寂しさがあり、兄・博和が長く音信不通だった理由も博和なりにある。そうした思いのズレにリアリティがあり、同時にそれは、共感を誘う美点だ。
家は、目に見えたり直に触れられたりする場所というだけでなく、思いや記憶が積み重なった宙にもあるものなのかなとも思う、と青山さん。
「私が作家になっていろいろ描いていることも、実は祖先の誰かから渡されたものなのかなと。たとえば会ったことのない曽祖母も、いま会って話したら意外と気が合うのでは。もしかしたらその人が生きている間に考えきれなかったことを代わりに考えているのかなと思ったり(笑)」
ちなみに青山さん自身の「家」観をうかがってみると、
「一人暮らしをしているいまの部屋にはものすごく愛着があるんですが、作家のための長期滞在のプログラムでフランスのサン・ナゼールに滞在したとき、その家は私の所有物でもないのにどこかに出かけて戻ってくると『家に帰ってきた』とほっとしていました。人と家とは案外緩やかなつながりで結ばれているもので、『私の家』と呼べる場所は人生にいくつもあるのかもしれません」
あおやま・ななえ 作家。1983年、埼玉県生まれ。’05年「窓の灯」で文藝賞を受賞しデビュー。’07年「ひとり日和」で芥川賞、’09年「かけら」で川端康成文学賞を受賞。『踊る星座』ほか著書多数。
『私の家』 鏑木家の次女の梓、母の祥子、父の滋彦、大叔母の道世、伯父の博和、亡くなった祖母の照らがそれぞれに抱えていた内緒の思いが交錯する。集英社 1750円
※『anan』2019年12月25日号より。写真・土佐麻理子(青山さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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