「こんな国、ほかにない!」ベトナム人監督が称賛した日本のスゴい点
ananweb / 2019年12月20日 18時50分
アラサー女子にとって、興味のあるトピックで思い浮かぶものといえば、仕事とファッションについて。そこで、そのどちらも堪能できる話題作をご紹介します。それは……。
■ ポップでキュートな『サイゴン・クチュール』
【映画、ときどき私】 vol. 283
1969年のサイゴン。9代続いたアオザイ仕立て屋の娘ニュイは、美しさと抜群のファッション・センスで注目を集めていた。ところが、60年代の新しいファッションに夢中になるあまり、アオザイ作りを続ける母と対立してしまうことに。
そんなある日、ひょんなことから現代に迷い込んだニュイは、変わり果てた未来の自分と対面。そこで、自分の人生を変えるために奮闘するのだった。ようやくアオザイの魅力と母の想いに気がついたニュイだったが、はたして“本当の人生”を取り戻すことができるのか……。
本国ベトナムで大ヒットを記録するだけにとどまらず、海外の映画祭でも高く評価された本作。ベトナム映画のイメージを一新したとも言われている作品ですが、その裏側についてこちらの方にお話をうかがってきました。
■ 監督・脚本を手がけたグエン・ケイ監督!
アメリカ、イギリス、そして日本でも映像の仕事をしていたというグエン監督。今回は、本作がきっかけで巻き起こったアオザイブームの実態から日本に対する思いを語っていただきました。
―まずは、どのようないきさつで今回の物語を描こうと思ったのかを教えてください。
監督
ベトナムというのは、若い人が多い国なので、どうすれば彼らの心をつかむ魅力的なストーリーにできるかを最初に考えました。その過程で古いアイテムを組み込むことを思いつきましたが、アオザイを選んだ理由は、20代の子たちの間ですたれていってしまっているもののひとつだったからです。
私自身はとてもコンサバティブな性格をしているので、旧正月や結婚式、お葬式などの大事なイベントにはいつもアオザイを着ていましたが、アオザイの一般的なイメージはお母さんやおばあちゃん世代が着るもの。
しかも、女子学生たちにとっては学校の制服でもあったので、強制されて着ていたものには拒否反応もあったとは思います。そんなふうにオシャレとは程遠い存在とされていた印象を変えたいという思いもありました。
―その後、この作品の大ヒットによって、ベトナムでは若い人たちの間でアオザイが流行ったそうですが、実際どのような反応がありましたか?
監督
映画のなかに登場するアオザイでは、水玉やフランスの植民地時代の花の模様をたくさん使っていますが、映画公開の3か月後にあったベトナムの旧正月では、若い女性たちがみんな水玉のアオザイを着てくれるほどのブームとなりました。
そのほかには新たに生まれたロゴやデザインにおいても劇中の柄が多く使われるようになりましたし、あとは登場人物たちがしている60年代特有の話し方を若い人たちがまねし始めるという現象も起きていましたね。
―それはすごい反応ですね。監督はそこまでの影響を若者たちに与えると予想していましたか?
監督
いえいえ、本当に予想をはるかに上回る反応でしたよ! それを受けて、デザイナーでありプロデューサーでもあるトゥイ・グエンさんが、『サイゴン・クチュール』をシリーズ化しようと言ってくれて、実はすでに続編も決定しています。
次はアメリカのカリフォルニアに住んでいるベトナム人コミュニティの話を2020年の3月に撮影する予定で、タイトルは『カリフォルニア・クチュール』。3本目は2021年の3月から京都で着物を題材にした『キョウト・クチュール』を撮ることになっています。
―ということは、日本でも着物ブームが巻き起こる可能性がありますね!
監督
はい、がんばります(笑)。
■ いまこの瞬間をもっと大事にすべき
―劇中では、これまでの古いイメージを払拭するようなデザインのアオザイが登場しますが、ファッション的にこだわったのはどのあたりですか?
監督
この映画を作る前、デザイナーには入れてほしい60年代ならではの模様をファイルにして渡しましたが、それを見た彼女から西洋のデザインではなく、もっとベトナムらしくしたほうがいいという提案がありました。そこで、2人でいろいろと話し合いを重ねた結果、先ほどお話した水玉や花の模様を取り入れたデザインにすることにしたんです。
―それが若者たちにも見事にハマったんですね。また、映画的には現代にタイムトラベルしてしまうというファンタジーの要素を入れたところも見どころでしたが、そのようなストーリーにしようと思った理由は?
監督
これはニュイの母親役で製作も務めてくれているゴ・タイン・バンさんとデザイナーのトゥイ・グエンさんが出してくれたアイディアですが、「若い人に見せたいんだったら、ファンタジーがいいのでは?」という話になったことがきっかけでした。そこで、タイムトラベルしたあとに、その時代にいる自分自身と出会うストーリーにしようとなったのです。
ただし、それは本来の原則からは外れますよね。なので、私の師匠であるヴィクター・ヴー監督にこの映画の話をしたとき、「えっ⁉ 未来の自分と会うの? それはタイムトラベルの原則と合っていないんじゃないの?」と言われてしまいました(笑)。でも、私はそれに対して「いやいや、それでいいんです。とにかく若い人に楽しんでもらいたいので、そのあたりは見逃してください! これは夢だったということにしてもいいので」と答えたくらいなんですよ。
―そんなこともあったんですね(笑)。ただ、それによって観客自身も「もし将来の自分と出会ったらどんなことを言いたいか」そして「今後自分がどうありたいか」といったことを考えながら観ると思いますが、監督は未来の自分に会うことができたら伝えたいことはありますか?
監督
いい質問ですね! そうですね……、もし何十年後かの自分と会えたら、「その瞬間瞬間に没頭すべきである」と言いたいと思います。というのも、人間というのは幼いころは将来のことばかりを考えていて、30代~40代になると今度は過去に囚われがちなところがありますから。
そんなふうに、将来や過去のことばかりを心配したりこだわったりするのはあまりいいことではないので、「いまこの瞬間をもっと大事にしましょう」と自分にも言いたいです。
■ 日本にはほかの国にはない良さがある
―確かに、大人になると過去に囚われてしまうことは誰にでもあると思います。ただ、いっぽうで過去に生まれた伝統を引き継ぐ良さについても、この作品では描かれていると思いますが、その点に関してはいかがですか?
監督
私はやぎ座なんですが、冬に生まれた人というのは、保守的なところがあると言われています。というのも、冬は厳しくつらい季節で、新しいものを生み出すよりも、いまあるものを大事にしていくところがあるからです。そういう意味でも、私は伝統を守る性質のある人間だと自分では思っています。
―では、そんな監督が守りたいと思っているベトナムの伝統とは?
監督
アオザイはもちろんですが、あとは食べ物ですね。やっぱり食文化というのは大事なものですから。ちなみに、私はベトナム料理だけでなく、和食を作るのも得意なんですよ。
―というのも、監督は日本にも住まれていた経験があるそうですね。
監督
そうなんです。1年半ほど日本に住みながら仕事をしていたことがあります。メインは東京でしたが、大阪と福岡にも少しいました。個人的には、大阪が好きでしたね。というのも、東京は忙しすぎるからです。
みんな夜遅くまで仕事をしているので人生をエンジョイできていないと思ったのと、私にとって東京は“男の世界”だなと感じたことも……。それに比べると、大阪と福岡は生活自体がゆっくりとしていますし、女性の役割が東京よりも大きいと思いました。
ただ、東京にいておもしろかったのは、とにかくイベントが多いので、2、3日に一回はお祭りのようなところに参加できることですね。そんなふうに、つねに違うものが見れたり、体験できるので、生活するだけなら楽しいかもしれませんが、仕事をするのは大変だなというのが私の印象です。
―では、監督から見た日本とはどのような国ですか?
監督
日本ほど伝統文化を色濃く残している国はないと思いますが、そのいっぽうでテクノロジーの発展を追いかけているのは、すごく珍しいと感じました。伝統を守りながら、新しいものを追いかけているのは、ほかに例を見ないんじゃないでしょうか。そのことに関しては、すごくいいことだと思っています。
ただ、私から見ると、日本人はもう少し人生を楽しんだほうがいいんじゃないかなという印象はありますね。もし私が日本人ならもっと自分の時間を持ちたいと思うので、日本のみなさんにもその意識を持ってほしいというのは伝えたいことです。
■ 女性にはこれからも輝き続けていてほしい
―ごもっともです。ちなみに、この作品はキャストもスタッフも女性が中心となって作られている作品だけに、女性の力を感じますが、監督たちと同じように男性社会でがんばっている女性に対してアドバイスがあればお願いします。
監督
劇中で女性が腕まくりをして「We Can Do It!」というのがありますが、それは第二次世界大戦中にアメリカで実際にあったポスターに書かれていた言葉を引用しています。当時は男性だけではなく、女性も国の経済発展や復興に貢献しようとしていた時代でしたが、それと同じように、どんな人でも何でもできるという意味を込めました。それこそがまさに私が伝えたかったメッセージでもあります。
―監督が普段大事にしている言葉はありますか?
監督
私が好きな言葉は「Enjoy life(人生を楽しむ)」ですが、私はいまマインドフルネスを実践しているところなので、どんなときでも楽しむこととゆったりとした気持ちを意識しています。それによって、本当に小さなことでも喜びを感じることができるようになりました。
もちろん、どうしてもストレスを感じてしまうことはありますが、なるべくストレスをため込まないような努力はしているところです。
―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。
監督
同じ働く女性として、私もみなさんの気持ちは理解できますし、シンパシーを感じています。なので、がんばってほしいという思いを込めて伝えたいのは、「あなたたちはすでにもう輝く星であり、その輝きは誰にも止めることはできません」という言葉です。これからも、みなさんにはぜひ輝き続けてほしいと願っています。
■ 人生で見失いがちなことを教えてくれる
悩める女性たちに“元気”を与えてくれると人気を博した本作。本当に大事なものが何かに気がつき、成長していくニュイの姿と自分自身を重ねてみれば、あなたも探していた“人生の答え”を見つけることができるかも。仕事でもファッションでも、自分らしくいることの大切さを感じてみては?
■ 気分が上がる予告編はこちら!
■ 作品情報
『サイゴン・クチュール』
12月21日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
©STUDIO68
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